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短編小説「外面がいい」

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メディアで見せる顔と普段の人格が異なりすぎる芸人・雅也と、彼を取り巻く人々の物語
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短編小説「外面がいい」

リビングには、厚めのカーテンの隙間からひとすじの陽光が差し込んでいた。 雅也はいつものようにソファに腰を下ろし、無言のままリモコンを手に取ってテレビをつけた。 画面には、今日もどこかで収録されたバラエティ番組が映し出され、定期的にワッという笑い声が沸き起こる。 幾たびの笑い声にも彼の表情は変わらず、テレビを見ているというよりも、ただその前に座っているだけに見える。 テレビの中の雅也とはもはや別人だ。 全身黄色の衣装をまとった彼は、司会者に話を振られていた。 彼が答

短編小説「外面がいい」②〜黄色い彼〜

【あらすじ】大学に入りたての「私」は、キャンパスでのサークル勧誘にうんざり。だが、チラシを配る「黄色い彼」の様子が目にとまる。 前の話は下記↓でも、当話から読んでくれても大丈夫。 憧れの大学。 これから、ここで学問を修める。 そんな浮き足立った気持ちは、あっという間にため息に変わってしまった。 とにかく人が多すぎる。 大学の名物である銀杏並木が見えなくなるほどの人だかり。 自分たちのような新入生には、サークルのチラシやパンフレットが次々と渡される。 チラシを受け取る

短編小説「外面がいい」③〜ちりとてちんのハイド〜

どの自分が本当なのだろう?作った自分も、また自分なんじゃないか。 1つ前の話はこちら↓ 最初の話はこちら↓ 「落語研究会」のチラシに書いてあった教室付近にいると、水色の着物を来ている男性に「あ、落語ならこっちこっち」とくねくねした動きで促された。 入ってみると意外と広く、大学の講義で使われる教室だと思われた。高校の頃と比べるとなんとなく白っぽい気がする。 ラジカセからピーヒョロヒョロヒョロ〜という和風の笛と三味線で構成された音楽が鳴っていた。 講義の座席と机が並び

短編小説「外面がいい」④〜奥さん大好き芸人〜

愛されていても世界は変わらないけれど、愛していたら、世界は変わる。 ↓今までの話はこちら。 「奥さん大好き芸人」の回に出演することになった、と雅也が告げた。 ベッドでスマートフォンを弄っていた私には一瞬、何のことか分からなかった。「おくさんだいすきげいにん」と言う文字列だけが頭の中を移動する。 「ヒルトーーク!!」は、「昼下がり決死隊」がMCを務める人気トークバラエティ番組だ。毎週、特定のテーマに沿って芸人たちが集められ、そのテーマにまつわるエピソードやトークを繰り広

短編小説「外面がいい」⑤〜不安西先生〜

愛って200通りあんねん。 1つ前の話はこちら↓ これまでの話はこちら↓ MCと芸人のいつものやり取りから番組が始まった。 「皆さんは、なんのくくりですか?」 「僕たち…奥さん大好き芸人です!」 TVの前で、気持ち悪くなるほどに鼓動が高まっていた。 雅也が出る出ないにかかわらず、「ヒルトーーク!!」は毎週視聴していたが、今回は特別である。 雅也が芸人人生で初めて、妻、すなわち私の話をする。 正直、見たくない気持ちもある。 でも、見ておかなければならないような気が

短編小説「外面がいい」⑥〜アンチ〜(追記:注意喚起)

何を「嫌い」かで、自分を語ってもいいじゃない。 でも、違法視聴は、絶対ダメ! <これまでと今回のあらすじ> メディアでは黄色い衣装の陽気な芸人の雅也は、普段は口数が少ない。妻は彼が何を考えているのか分からなかったが、人気お笑い番組「ヒルトーーク!!」の「奥さん大好き芸人」の回に出演した雅也の本心を知ることとなる。 一方、人気芸人の雅也のことが好きになれない理子は、共感できる意見を探し求める。 1つ前の話はこちら↓ 今までの話はこちら↓ 全く世間はどうかしている。 せ

短編小説「外面がいい」⑦〜共犯〜

「嫌い」で人は繋がれる? <これまでと今回のあらすじ> メディアでは黄色い衣装の陽気な芸人の雅也は、普段は口数が少ない。 妻の詩織は彼が何を考えているのか分からなかったが、人気お笑い番組「ヒルトーーク!!」の「奥さん大好き芸人」の回に出演した雅也の本心を知ることとなる。 一方、人気芸人の雅也のことが好きになれない理子は、共感できる意見を探し求めて苦しむ。マッチングアプリで会ったトモユキに、「雅也が嫌い」だと告げられて驚いたのだった。 1つ前の話はこちら↓ 今までの話は

人生初の小説執筆!ChatGPTに「書いてもらう」以外の3つの活用法は?

ふとした気の迷いで小説を書いてみた。 今までの人生の中で、私には時々「小説を書いてみたいなあ」と言う欲望が湧き上がることがあった。 それで、書いてみたことはあったのだが、本当に書きたいことが書ける前に挫折して、それきりになってしまう。 小説を書いている人は、書いているだけですごいのだ。 だが、飽きっぽい私が、noteに5本分の小説を5日間毎日アップすることができた。 一旦、自分の書きたい場面まで書くことができたように思う。 (もうちょっと書きたい場面が見つかったので