短編小説「外面がいい」②〜黄色い彼〜
【あらすじ】大学に入りたての「私」は、キャンパスでのサークル勧誘にうんざり。だが、チラシを配る「黄色い彼」の様子が目にとまる。
前の話は下記↓でも、当話から読んでくれても大丈夫。
憧れの大学。
これから、ここで学問を修める。
そんな浮き足立った気持ちは、あっという間にため息に変わってしまった。
とにかく人が多すぎる。
大学の名物である銀杏並木が見えなくなるほどの人だかり。
自分たちのような新入生には、サークルのチラシやパンフレットが次々と渡される。
チラシを受け取るがままにしていたら、予備で持ってきたトートバックがいっぱいになってしまった。
もうチラシは受け取るまい。
偏差値は70を越える大学。
その受験を乗り越えた私は、学問を修めるためにここに来た。
日本の大学生は勉強しない、なんて言わせない。
人混みの中の地面を踏みしめる。
いわゆる「大学デビュー」に興味がないと言っては嘘になる。いや、むしろありすぎるぐらいだ。
関東の田舎の高校を卒業した私は、自分が思う精一杯のおしゃれと化粧をして入学式に臨んだ。が、甘かった。
他の新入生の女子は皆そのままミスコンに出られるのではないかと思うくらい華やか。しかも全体的にほっそりしている。
顔審査などあっただろうか?
いや、ないな。
だって、私が受かってるんだもの。
心の中で苦笑していると、突然黄色い物体が視界に飛び込んできた。
振り返ると、それは黄色い着物の男性がチラシを配っている姿だった。
「落語研究会でーす。」
と、呟くような声。
この鮮やかな黄色は、人だかりの中でひときわ目立っていた。
だが、それをまとっている彼は、どこかけだるげな表情だった。
このチラシの捌き方は、落としているのと変わらない。
そんな配り方をされたら、逆に気になって、先ほどの決意とは裏腹に
「あ、チラシください!」
ともらいに行ってしまう。
黄色い彼は驚いたように、「あぁ、どうぞ。」とチラシを手渡した。
その揺らいだイントネーションから、関西人であることがわかった。
彼はその後、何か言いたそうにしていたが、後ろからも大勢の人が来ており、そのまま人の渦に飲まれてしまった。
しばらく歩いて、やっと校舎に着いた。
ふう、とため息が出てしまう。
今はサークルの新入生歓迎会シーズンかつ、どの講義を取るか決める期間でもある。
だが講義の概要が書かれた大学の重たいシラバスも、こんなにチラシをもらっては入りきらない。
講義前の座席に座り、もらったチラシをいくつか整理することにした。
ほとんどが「テニサー」、ことテニスサークルのチラシだった。同じテニサーでも別の団体が運営しているらしい。
ある団体からは「テニスができなくても大丈夫!」と声をかけられた。
テニスができないように見えたのだろうか。
ご名答。テニスどころか、運動はからっきしだ。
もし人間にスコアを表す六角形があったら、勉強に尖り運動に凹んだ鋭利な形になるに違いない。
中には勉強も運動もできる人が存在し、「全体持ちポイントにも差があるのか…」と悲しくなる。
テニサーのチラシを全て処分すると、だいぶチラシが少なくなったように思った。
残りのチラシは「ブラスバンド」「インカレ」「演劇」「英語」「出版」「天文」…どれも興味がある。
掛け持ちもできるだろうが、力を入れられるサークルは一つだろう。
選んだサークルで人生が変わるかもしれない。
そして選択肢が多すぎる。
今は講義も選ばなければならない。
判断疲れを起こしそうだ。
スティーブ・ジョブズは毎日同じ服を着てたらしい。仕事で重大な判断をしてるのに、服にまで悩みたくないからだそうだ。
おこがましいが、ジョブズの気持ちがわかる。
選ぶということは、他を無数の選択肢を選ばないということ。50の選択肢には、49の後悔がある。
ふと「落語研究会」のチラシが目に止まった。
私は、国文学の専攻を希望していた。
「大学4年間で、日本の伝統芸能である落語を研究するのも悪くないかもしれない。」
私は落語研究会のチラシの裏に記載された教室の番号を確かめた。
次の話はこちら↓
たねあかし
Chat GPT-4oで書いた小説の彼が気に入ってしまい、彼女との出会いの物語を書いてみたくなったのだ。
今回はChatGPTに頼らず完全オリジナルで書いてみた。 ↓前の話
実は私も大学生の時、落語研究会に入っていた。
語り手のように引っ込み思案ではなく、むしろ目立ちたがり屋で、高校生の時には演劇部に入っていた。それなのに常に主役を張りたいという理由で落語研究会に入部。
大学の入学式前後に思うことは語り手と変わらなかった。なんで大学生ってあんな可愛いんだろうね。自分以外。
良かったらコメントなどで大学、高校の入学式の思い出を教えてくれると嬉しい。
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