ビジョンを定める①~TBSグロウディア組織開発日記#3
2019年4月にTBSグロウディアが合併設立し、11月にオフィスも統合。そのあたりから私の中のテーマは「融合・一体化」はもちろんですが、いかに「自律性や主体性」をこの会社に根付かせるか?ということでした。
はじめての読書会
ちょうどその頃読んだのが、山口周さんの「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」。
これが、まさに目指すべき組織やリーダーシップについてわかりやすく書かれた本だったので、OIT(笑)で、当時のライン部長以上役員まで50人ぐらいを対象に、何回かに分けて「読書会」と称した自前の研修を行いました。
思えばこれが、今も時おり開かれる、グロウディア最初の読書会なのでした。
途中、年も明けコロナ禍になり、後半の何組かはリモートでの読書会となりました。
グロウディアのビジョンを明確にしようと決めたのは、それから約半年後、コロナ禍の異常事態にも少し慣れた2020年9月、僕が参加した八木洋介さんの研修がきっかけです。
元GE(ゼネラル・エレクトリック)の人事担当役員で、TBSホールディングスの社外取締役でもある八木さんの、歯に衣を着せない語り口で展開されるリーダーシップ論は、とても刺激的かつ素晴らしいものでした。元来田舎モンで、すぐに感化されやすいタイプである私は、すっかりその気になったのです。
言語化する
八木さんからは研修でさまざまなキーワードを伝授されましたが、その中の一つが「言語化」ということです。
会社が、何を目指し、どういう文化を組織に浸透させるかは、フワッとしていてはダメで、はっきりと、「言語化」することが、そもそもの第一歩である。言われてみれば当たり前のことですし、「自律性、主体性」とか「業界トップ」とか、なんとなくのイメージはあったのですが、ビジョンやカルチャーをはっきりと言語化して、それを行動で示すのがリーダーというもの。
「それをやるのは、園田さんでしょ?社長のアナタがやらないで誰がやるんですか?」と、一撃コーチングの世界的名手(と勝手に私はそう呼ばせていただいています)八木洋介さんに、ズバッと挑発されたような気がしたのです。
私は、さっそく会社に持ち帰り、役員を集めて言いました。
「会社の方向性や行動規範を言語化したい。さあ、どうやる?」
すると、ある役員からはこんな意見が出てきました。
「そんなことは、社長がひとりで決めるもんじゃないんですか?」
決め方を決める
「それでは自分事にならない」
そんな考えを伝えながら、役員クラス10人に八木さんの研修の概要を説明。そうして「何を決めるか?」「どうやって決めるか?」という話し合いがスタートしました。コンサルに伴走してもらうことも検討しましたが、私も含め総じてネガティブで、じゃあ自前でやろうじゃないの!と皆で腹をくくったのはいいのですが、一ヶ月かけて決まったことは、来年の4月1日の社員集会で発表することくらい。ほぼ何も決まらずに10月も終わろうとしていました。
話はそれますがそんな頃、当時大ヒット中の「鬼滅の刃」を見に行こうと思い立ちました。家族にその話をすると、高校生の娘が「私も行く」と言うではありませんか。
娘と映画なんか、錦糸町に「ビリギャル」を見に行って以来何年ぶりでしょう。(コンテンツのパワー、恐るべし。)じゃあせっかくだから映画の後、二人でランチでも食うかと勝手に妄想し、10月最終週の週末、日比谷TOHOシネマズへ。ところが映画を見終わった娘は人混みに酔ったらしく、父親の気持ちも知らず、速攻帰宅したのです。
急にやることがなくなりその場に取り残された私は、なんとなく有楽町交通会館の三省堂へ。するとビジネス書のコーナーに、ポツンと1冊だけ「ザ・ビジョン」と書いた本が立てかけてあります。
そのタイトルに、私は思わず「全集中」してしまいました。
もし娘がさっさと帰宅せず、楽しくランチでもしていたら、おそらくこの本と出会うことはなかったでしょう。その場合、TBSグロウディアのビジョンは、果たしてどうなっていたのだろう?
今思えば、この本との出会いは、私にとってはそのくらいの僥倖だったのです。
「なぜビジョンが必要なのか?」や「ビジョンのパワー」を物語風にわかりやすく書いたこの本は、あとで知るのですがケン・ブランチャードによる名著です。読んですぐにまず10冊購入し、役員に配布しました。
同じ本を読み共通言語を獲得することで、より深い議論のきっかけになることは、読書会で経験済みです。案の定、「ザ・ビジョン」を読んだことで、急に「何を決めるか」「どう決めるか」の議論が加速しました。
そして、ようやく「決め方」が決まり、最初の「ビジョン策定のキックオフ・ミーティング」が開かれたのは、2020年12月9日でした。
二つのこだわり
決定プロセスに関して、私がこだわったことが二つあります。一つ目は、できるだけ多くの社員を巻き込んで決めたい。いわゆる「参加型意思決定」というものです。
これは番組を作っていたことから感じていたことなのですが、決定事項が上から降りてくるよりも、「自分たちで決めた」ことのほうが、その後のやる気が違うものです。議論をつくし、最後は決定権者がきめる。この「参加型意思決定」というワードを最初に目にしたのは、今からほんの10年ほど前、ビジネス月刊誌のとある記事だったと思います。
それまでなんとなく心がけていたことが言語化されているのを見て以来、いっそうこの事を意識してマネジメントするようにこころがけてきました。(その後2021年夏にようやく邦訳版が出た『ビジョナリーカンパニー・ゼロ』にも、このワードが明確に使われていて少々驚きました)
TBSグロウディアの社員は約550人。参加型、と言っても、現実問題、キックオフに何人参加させるのかは悩みどころでした。自分の中では、最低でも100人くらいは巻き込みたかったのですが、物理的、時間的制約もあり、最初のキックオフ・ミーティングには部長以上約50人の参加となりました。その後、4ヶ月にわたる各事業本部ごとの分科会を含めれば、のべ150人くらいは議論に参加したと思います。
二つ目のこだわりは、「言葉」です。あたりまえのことのようですが、世の中に掲げられたビジョンには、はっきりいってありきたりで退屈なものが多い。そんなことでは、社員に刺さらないし、エンターテインメント企業として面白くない。
言葉の鮮度やオリジナリティ、工夫に関しては、「さんまのSUPERからくりTV」など明石家さんまさんとの10年の仕事の中で、自分に染みついたものでした。 (つづく)