書く技術・伝える技術
要約
・本書の目的
本書の目的は、「読み手に負担をかけないビジネス文章」を書く能力の取得を手助けすることです。
ここでいう「読み手に負担をかけない」とは、次の3点を意味します。
①読み手になるべく文章を読ませずに、それでいて必要な情報を伝達できる。
②内容を一読で理解してもらえる。
③重要な情報を記憶に残せる。
また、「ビジネス文章」とは、ビジネスの世界で読み書きされるすべての文章を意味します。
・文書の良し悪しがビジネスの成否を分ける
情報伝達の責任は、書き手側にあります。
読み手に責任を押しつけてはいけません。
効果的な情報伝達ができないとき、困るのは書き手側なのですから、書き手が情報伝達の責任を負うべきです。
仮に、読み手が読むべき情報を読んでいなかったとしても、書き手側が、「なぜ、読み手はこの情報を読み落としたのだろう」と考えるべきです。
・文章を構成するには読み手のメンタルモデルに配慮しよう
読み手が内容を一読で理解できることと、読み手の予想通りに文章を展開することは深い関係があります。
この関係を、認知心理学では「メンタルモデル」という概念で説明しています。
メンタルモデルとは、入力情報に対する、読み手なりの理解のことです。
例えば、ある文章の中で「第一の原因は、」とあるのを読めば、人は次の2つのことを予想しながら、なるべく高速に情報を処理しようとします。
①「第一の原因は、」の直後には、原因が説明される。
②第一の原因を説明した後に、「第二の原因は」というキーワードとともに第二の原因が説明される。
読み手は、この2つを予想しながら、関連情報を活性化させつつ文章を読み進めます。
ここで、予想通り、直後に第一の原因が説明され、その後、「第二の原因は、」というキーワードとともに、第二の原因が説明されれば、読み手はこれらの情報を高速で処理できるのです。
読み手が「わかりにくい」と感じるのは、書き手が読み手のメンタルモデルを無視しているからなのです。
つまり、わかりにくい文章となってしまう原因のひとつは、文章が上手・下手という問題ではなく、文章の並べ方や情報の出し方に関係しているのです。
そのため、メンタルモデルに配慮した書き方が必要になります。
具体的には、次の二点に配慮すると効果的です。
①読み手にできるだけ明確なメンタルモデルを作らせる。
②読み手のメンタルモデルによる予想通りに文章を展開する。
読み手にできるだけ明確なメンタルモデルを作らせるために、ポイントとなる情報を先に述べます。
・文章の冒頭には重要な情報をまとめて書く
文章の冒頭には、これから述べようとする重要な情報をまとめた総論を書きます。
その総論にそって、後続の文章を展開していきます。
総論はそこだけでもわかるように具体的に、しかし、簡潔でなければなりません。
「原則」文章全体はもちろん、各章、各節でも、冒頭には、大事な情報の総論を書く。
「効果」必要な相手に、必要な情報だけを短時間で正しく伝えられる。
どんな結論になるかわからない文章を、黙って読み進む暇な人はいません。
これが口頭説明の場合なら、「いいから結論を言え!」となるわけです。
・ひとつの文には、ひとつのポイントだけを書く
ひとつの文には、ひとつのポイントだけを述べます。
そのためには、2つの文を等位接続詞で接続してはいけません。
「悪い例」
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「良い例」
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「原則」ひとつの文で、複数のポイントを述べるのはタブー。
「効果」インパクトが強くてわかりやすい文章になる。
書き手は「読み手に負担をかけないビジネス文章」を心がける。