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【読書感想】『方舟』夕木春央

クローズドサークルで起こる連続殺人。
山中の違法地下建築に閉じ込められた、学生時代のサークル仲間7人と、親子連れ3人の計10人。
そのうち3人が次々と殺されて行く。
2つある出入り口のうち、1つは地震のため土砂で埋まって開けることができない。
埋まっていない片方の出口を開けるためには、誰かが犠牲になって死ななければならない。
殺人犯は、地上に脱出できたとしても死刑になるのだから、その人を犠牲にしようと犯人捜しが始まる。

「方舟」は地下建築を表している。
地下3階はすでに完全に水没し、刻一刻と水かさは増し、建物全体が水没してしまうのは時間の問題だった。
聖書の「ノアの方舟」と重ねて、「誰が死に、誰が生きるか」という問題で、印象に残った言葉があった。

「愛する誰かを残して死ぬ人と、誰にも愛されないで死ぬ人と、どっちが不幸かは、他人が決めていいことじゃないよね」

配偶者や恋人など、「大切な人」がいる人の命は、独身者よりも重いのか?
「愛されていない人」が、死ななければならないのか?
絶体絶命、究極の状況になったとき、命を選別しなければならない場合、それまでの倫理感が崩壊し、エゴがむき出しになる。

犯人は、意外な人物で全く予想していなかった。
犯人が分かったところも衝撃だったけど、殺人の動機がエピローグで語られ、「生き延びるための殺人」というトリックに驚いた。
最後まで、空気が張り詰めて、緊迫感が途切れることがない。
目が離せず、そして絶望のうちに物語は終わる。
背筋がひやりと凍るような感覚に陥った。

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