【読書感想】『闇祓』辻村深月
「闇ハラ(闇ハラスメント)」という言葉は、作者の造語で、心の闇を相手に押しつけ、それによって他者の中にも闇が生まれるということ。
『闇祓』は、闇ハラを振りまく「神林一家」と、巻き込まれた人々が不幸の連鎖に陥り、その「闇」を祓うために闘うというストーリー。
この本を読んで、強く印象に残ったのが、「言葉が通じない」というくだりだ。
外国語ではなく、同じ日本語を使う人間同士なのに、お互いの「普通」「価値観」「正義」の認識の違いが、コミュニケーションを成り立たなくさせ、嫌悪や差別の感情が生まれる。
「言葉を尽くして相手に伝える」ことの虚しさを感じた。
作中に出てくる「闇ハラ」は、身近な話ばかりでゾッとする。
神林一太の、澪を責めるLINEの文面は、『凍りのくじら』に出てくる主人公の元彼を彷彿とさせる。
第二章の、マウンティングや、ママ友との気の使い方や距離感など、何年か前に経験したこの感覚を、思い出す。
「父親」役の人物が、相手の話をよく聞き、また話を引き出すことが巧みな人で、その技術でどんどん周囲から好意を持たれていく描写が、これがどう不幸につながるんだろうと途中まで分からなかった。
しかし、それは、「頼る側」と「頼られる側」の”共依存”を生み出し、結局なんの解決にも至っていない。
また、相手を全肯定するだけが、その人を救うのではないということを示唆していると考えた。
エピローグ、畳みかけるような「闇ハラ」のシーンが、日常なのにホラーだ。
「黒深月」も味わい深かったです。