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無戸籍問題を学ぶ

この記事を書くきっかけ

いつだったかたまたまテレビをつけた時に、NHKの「ねほりんぱほりん」という観たことのないトーク番組が放送されていた。

人ではなく可愛いモグラの人形が進行を務めており、『子供向けの番組かな?』『可愛いし面白いなぁ』などと思いながら観ていたら、意外や意外、その日は〝戸籍のない人〟というかなり重いテーマを取り上げており、内容も衝撃的でかなり驚いたのだった。

そして先日、途中からではあったが、それもたまたまテレビをつけた時に放送されていたニュース番組で、「なぜ救えなかった…無戸籍女性餓死の背景」というタイトルで、昨年9月に亡くなったある女性について特集されていたのを観た。

そのふたつの〝たまたま〟には意味があると感じ、これはもう少し知る必要があると思ったので、今回この〝無戸籍〟について少しだけ書きたいと思う。

悲しいニュース

ニュース番組で取り上げられてた、亡くなられた方というのは、死亡当時78歳とみられる無戸籍の女性だ。

昨年9月、「母親が亡くなった」と息子さんが近所の男性に助けを求め、自宅を訪ねたところ高齢女性が布団の上で倒れており、既に死亡していたという。

女性は内縁の夫と息子との3人暮らしだったが、2016年に夫が死亡。その遺産の数百万円を切り崩して生活をしていた。
最近は老齢となり歩けなくなった女性を、息子さんが介護されていたらしい。

司法解剖で、その女性は栄養失調による餓死と判明、一緒に暮らしていた息子さんも衰弱しており、警察に保護されたそうだ。

その母子には戸籍がなかった。

市などによると、息子さんはその後「生活費が底をつき、8月末に2人でそうめんを食べた後は、水と塩でつないでいた」と打ち明けたそうだ。

弱っていく母親を見守っていたが、「戸籍がないので、救急車を呼んだり役所に相談したり、助けを求めることはしづらかった」とも話したという。

亡くなってしまったその女性は、戦争の混乱の中生まれ、無戸籍になったのだそう。

戸籍がないため結婚できず、内縁の夫と息子さんの3人で暮らしていたらしい。

市は戸籍がある内縁の夫の『単身世帯』として把握していたそうだが、これまでその女性や息子さんからの相談はなく、2016年に夫が亡くなった後も、2人の存在に気が付かなかったという…。

壮絶な人生

一方NHKのトーク番組では、30代の若い男女おふたりが声のみの出演でそれぞれのこれまでのいきさつを語っておられた。

無戸籍のため義務教育も受けられず、自宅でドリルなどをして勉強していたと話す。

健康保険証がないから病院には通えず、運転免許もレンタルショップの会員証すら作れない。

男性の方の実母は消息不明で、すでに義母も亡くされており、『日本人である証明ができない』として、戸籍の届出を受理してもらえないそうだ。

女性の方は、母親がDV夫から逃げて離婚しないまま別の男性との間に生まれ、戸籍がないまま育ち、引きこもり生活が続いたそうだ。
そんな生活の中で「自分がなくなっていくような感じがあった」と話された。

そんなある時、とある番組で無戸籍の女性が戸籍取得をする様子を見て、一念発起されたという。
母親の離婚裁判を起こし、2年もの歳月をかけて戸籍を取得されたそうだ。

嫡出推定とは

親が出生届を出さなかったために戸籍を持たない人は、日本で700人ほどいると言われているそうだ。

その方達は「自分はいったい何者なのか」という深い葛藤を抱えながら、本人証明書が必要な場面を避けたり、人目にふれないようにしたりして生きておられる。

「嫡出推定」制度では、離婚成立前に妊娠した子供や、離婚して300日以内に生まれた子供は、前の夫の子と推定され、前の夫の戸籍に入ることになる。

【嫡出推定とは】

妊娠や出生時の婚姻状況に基づいて子の父親を「推定」して決める民法の規定。
「婚姻中に妊娠した子は夫の子とする」「結婚から200日を経過後、または離婚から300日以内に生まれた子は、婚姻中に妊娠したものとする」と定める。
父子関係を早期に確定して法的地位の安定を図ることが目的で、1898年から変わっていない。

制度の見直し

嫡出推定規定が設けられたのは、血縁関係を科学的に証明できなかった1898年(明治31年)であり、DNA鑑定の登場、生殖補助医療の進歩、家族・夫婦関係の価値観の多様化などにより、嫡出推定の概念と現実との乖離が生じており、日本の法整備の遅れが指摘されていた。

たとえば、離婚後に前夫以外の男性の子を妊娠し早産した場合、前夫の子となる嫡出推定を回避するため出生届を出せず、子供が「無戸籍児」となることが社会問題化したのだ。

このため法務省は2007年5月、離婚後300日以内に生まれた子でも、離婚後に妊娠したことが医学的に証明できる場合は、前夫以外の者を親と認めるとの民事局長通達を出した。

また最高裁判所判例で、夫がずっと遠隔地で暮らしているなど、明らかに夫婦の接触がない場合には、民法第772条の嫡出推定規定は適用されないとしている。

【民法第772条(嫡出の推定)】

① 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
② 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

「無戸籍」の方達は、これまで制度の見直しを法務省に求めていて、見直しが実現すれば、100年以上前の制度開始以来、初めてのことになる。

法制審議会では、現在、結婚していた夫にしか認められていない、子供との親子関係を否認する手続きを、妻や子供に認めるかどうかなども議論される見通しだそうだ。

勘違いをなくすために

私が観たニュース番組では、色々と勘違いされている方が多いと報道されていた。

1. 国民健康保険
2. 住民票への記載
3. 小・中学校への就学
4. 児童手当・生活保護・母子保健などの助成や受給

手続き・条件はあるとされているが、無戸籍の方でも受けられる主な行政サービスが上記の4点と紹介されていた。

無戸籍の人を積極的に支援している自治体もあるというので、これらのことを初めから諦めるのではなく、法務局や自治体の戸籍窓口などに一度相談してみる価値はあるのでは、と感じた。

もしもあなたの近くで無戸籍の方がいらっしゃるとしたら、是非そういう話をして頂きたいと思う。

さいごに

調べているうちに、毎日新聞のWEBニュースで気になる記事が載っていたので、併せて一部記述する。

 離婚した夫婦の子が出生届を出されずに「無戸籍者」になる問題の解消策を議論している法制審議会(法相の諮問機関)の親子法制部会は9日、「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定する」と定めた民法の「嫡出推定」規定に例外を設けるなどの法改正の中間試案をとりまとめた。明治期から続く嫡出推定規定が見直されることになる。(続きはこちらから↓)

無戸籍の子供をこれ以上増やさないためにも、
1日でも早く「嫡出推定」の見直しが実現されることを祈っている。




※最後まで読んでいただき有難うございます!

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