オペラケーキの思い出
20歳の頃、カフェでアルバイトをしていた。
常連さんの多い、静かで少し暗がりの、こじんまりとした空間。
わたしにとって初めて"働く"経験をした場所だ。
ランチタイムはわたしと店長、シェフの大体3人で回していた。
シェフの料理は絶品で、知る人ぞ知るいいお店だったと思う。
ちょうど今くらいの、バレンタイン少し前の頃。
わたしはどうしても夢だったことを2人に話した。
「おっきいチョコレートケーキを一人で食べたいです!」
「作ってあげるよ」と二つ返事で請け負ってくれたシェフに、さっきもらったばかりのアルバイト代から2000円を渡す。
今になって考えれば、通常このカフェでホールケーキを頼んだら4000円以上はしたので、ほぼ原価で作ってくれたのだと思う。
忙しい中で子供のようなわたしの願望を叶えてくれたこと、本当にありがたい。
どんなケーキが食べたいのか聞かれ、答えたのは
"とびきり甘くて、大きくて、美味しいやつ。"
2週間くらい経った頃。
とうとうわたしの手に渡りチラッと箱を開けて見えたのは、美しく輝くオペラケーキだった。
艶々のチョコレートでコーティングされた4号のホールケーキ。
(本当はもっと大きい号数でお願いしたが、一人じゃ食べきれないからやめとけと言われた)
上にはベリーと金箔が乗っていて、さすがの感性と美しさに思わずため息が漏れた。
ひっくり返さぬよう大事に抱えて電車に乗り、帰宅して食べたのは、人生で一番美味しいケーキだった。
念願叶って、ということや自分のお金で買ったケーキということもあったかもしれないけれど、あの日のあのケーキを超える食べ物にはまだ出逢えていない。
次の日シェフに「生きてきた中で一番美味しかった!」と伝えたら、いつも寡黙なシェフが嬉しそうに笑ったことも忘れられない。
その後ほどなくして、シェフは修行のためカフェを辞めた。
それと同時期にわたしも就職が決まりそこを離れることとなった。
その後お会いすることはないけれど、またいつかどこかでシェフの料理が食べたいと思っている。
わたしの特別な、あのオペラケーキも。
今回スタバの新作がオペラフラペチーノで、どうしてもあの出来事を思い出してしまったのでnoteに書いてみた。
近いうちに買いに行こう。