小説 #22 白Tシャツと仮想空間
アルジズです。
わたしも、ソルたちのようにヴァーチャルな世界へ完全没入せんとす。
仮想空間 の中のアーケード。
わたしは Brain Computer Interface(BCI) を滑らかに駆る。
ん・・・、懐かしきフードコートの匂い。
マックのポテトとか、ミスドのドーナツを手にした大人たちが、のたりと歩いている。
・・・飲食可能なんだ!?
大人たちはみんな、白いTシャツを着ている。シンプルだけども、素材が何だか独特の光輝を放ち、着ている人たちは陽気に見える。
彼らがゲーム機に屈みこむと、彼らの顔はさらに白く輝く。
・・・なんだろう、この不穏な彼岸の感じは?
わたしは、なんだか落ち着きを失ったまま、筐体のコーナーへ向かう。
あぁ、この筐体は抜け殻。サービス終了したやつの。
もうやってないやつなのだが、まだそこに残っている。
懐かしいなぁ・・・。
〈筐〉という漢字がすきだ。
「四角く編んだ竹製のはこ」という意味。このマトリックスには出現しそうにないけど・・・。
どこかの女が、やはり両手にマックのポテトのLとシェイクを持って近づいてきた。
「ハイ」女がにっこりと言う。
「Hi」
「悪いけど、ちょっとこれ持っててくださる?」
女はわたしにポテトとシェイクを持たせると、てきぱきとハンドモーションを掛け、しょぼかった椅子をすっかり映画館モードに変えた。そしてわたしからドリンクを受け取るとホルダーに差し込み、ポテトもトレイに置いた。
さぁ、できた!という風にわたしに笑顔を向けると、さっとシートに座り、投入口にコインを入れ始めた。
みごとなもんだ・・・。
わたしは感心した。彼女の設営のてきぱきぶりに。
というか、テクノロジーてすごいな。
その女も白いTシャツを着ていたが、とろんとしたジョガーパンツと合わせていて、とことんリラックスしてて潔い。
食べたり飲んだりしながら、彼女もこれまた別の仮想空間へフルダイヴしているわけだ。わたしも、何か食べたくなってきた。
立ち去り際に振り返ってみると、彼女の白Tの背中には "force majeure" とプリントしてあった。
アーケードをうろつく大人達へ目を遣ると、どの白Tシャツもゆるんとバイブスを放ち、震えていた。
いずれも、それぞれどこか別の次元への通路として聳え立っているのだった。
〈ヤハク アソベバ?〉