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2024年9月の記事一覧

文学系Youtubeのおかげで、読めなかった本が読めるようになる。

「アサヒ 音楽と文学は色ガラス」というチャンネルで、ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を取り上げた回があって、とてもおもしろかった。  どこかバランスを失った構造ってのは、僕にとってはいつも心惹かれる。『ねじの回転』で主なストーリーテリングを担う女家庭教師。その女の張りつめた語りも、見るからにバランスを欠いていて美しい。  とはいえ、僕もどこまでもアンバランスさを楽しめるかというと、そんなことはない。すぐに限界を迎える。    たとえば『百年の孤独』のありえなさ感、ぶっ

何でかわかんないけど赦される、つうか・・・。そういう本。

ベテラン精神科医・春日武彦 × 特殊系小説家・平山夢明の対談集を読んでいる。 いや~、溜飲が下がるとはこのことか。誰かに言ってほしかったことがあまりにもあけすけに口にされている! ほんでもって、何やかや言っても彼らがプロであるところが詳らかにされていて、カッコいい。 ライターズブロックに罹っている作家平山氏が、春日先生の外来を訪れる。白衣の春日氏が、話を聞く。すると春日氏は「きみの部屋はめちゃくちゃ汚いんじゃないか」と看破する。で、平山氏は「掃除かぁ・・・・・・」と怪訝

夏目漱石と能。村上春樹とメタファー。

能楽師の安田登さんが、「夏目漱石と能」という記事の中で次のようにおっしゃっています。 能の仕草の「型」ひとつひとつには、象徴的な意味はないのだ、と。能の動きは抽象で、状況によって同じ動作からでも違う意味が立ち現れるのだと。 象徴ではないんだ! 象徴/ メタファーと、抽象は別の物だという考えは衝撃的だ! 夏目漱石の『夢十夜』の第三夜で、歩いては立ち止まる、という仕草が「型」のようにして、三度、用いられている。その仕草が差し挟まれるたびに場面が転換する。三回ごとに違う意味

村上春樹の地下事情。

村上春樹のインタビュー本を読んでいる。聞き手は作家の川上未映子。 ものすごく引き込まれる。 kindleで読んでいるのだけど、インジケータが進捗率32%を示している。まだ残りが2/3もある! 僕はとてもうれしくなる。 僕は村上春樹を読むことにかけては、年季がはいっている。小説だけではなくて、彼が職業観のようなものを語っている文章もずいぶん読んでいると思う。 それでも! このインタビューでは、川上氏によって初めて引きずり出されたような、知らなかった村上春樹がたくさんある。

私は「この私」を通じてしか世界を経験できない──柴崎友香さんと横道誠さんの対話

「文学×当事者研究」の最前線に芥川賞作家が乗り出してきた!?【横道】 まず、私が柴崎さんを初めて認識した時がいつかという話をしたいんですけど。 【柴崎】 はい。 【横道】 2000年代にmixiっていうSNSが流行ったじゃないですか。そこでいろいろと面白い映画の情報を集めていたら、『きょうのできごと』を知って、レンタルショップで借りて観てみたんです。当時、私は京大の院生で、出町柳あたりとかもろに生活圏内でしたから、そのあたりを舞台にしたこの映画に親近感を抱きました。それで、