この夏オススメ!の夏の小説
昭和の夏を本で再体験したい…。この本なら、それができると思って手に取った。どんぴしゃだった。予想した通り、期待を裏切らない小説だった。
野間児童文芸賞、坪田謙治文学賞をW受賞した「しずかな日々」椰月美智子・著(講談社文庫)
本の帯の最後に「しずかな夏の日に戻ってみませんか」という言葉にひかれて購入した。
父親のいない小学校五年生の夏休みを描いた長編小説なのだが、一本の映画を観たような映像が頭に浮かび、本の世界にどっぷり浸って、気づけば一気読みしていた。
ある理由で、少年は母親と離れて祖父の家で過ごすことになり、その夏、内気だった少年に初めて友達ができ、初めて野球をやり、初めて友達と寝泊まりして、初めて遠出をして冒険したりと、人生のターニングポイントとなる夏を過ごす。
思い出、とりわけ夏の思い出は、なぜ強烈な楽しい印象を残すのだろうと思うのは、私だけではないだろう。大人になって、子どもができても楽しかった夏の思い出は、特別なものとして私のなかにある。
そしてその思い出が、今の私を支えている一部にもなっている。この少年のように。
母子家庭で育ち、祖父の家で過ごす少年と自分が重なるところもあり、途中、グッと胸に迫るものがあった。喜びと切なさと悲しみとが入り交じった、静かな感動作だった。一枚の長い巻物に描かれた絵を鑑賞したようで、少年の夏が脳裏に焼きついて離れない。椰月美智子さんの作品をもっと読んでみたいと思った。
もし、この作品を読むなら、断然夏をおすすめしたい。制約のあるコロナの夏だからこそ、この小説が描く夏の世界に浸ってほしい。縁側で過ごす、懐かしくも温かい夏の世界に。夏を思いきり楽しんだ少年時代に。
本書で、昔ならではの癒しの夏を旅するとともに、少年の夏の思い出が、もしかすると、あなたを支えるものになるかもしれない。ページを開けば、懐かしくも静かな夏の旅へ誘うだろう。とびきりの癒しの夏へと。