【忘備録】ゴーストハント 小野不由美著
基本的に、お化け屋敷は怖くない。怖がれたことがない。
あれは、びっくりするだけだ。
例えば、いつも何気なく通る道でも、突然視界の端に人影が見えたらぎょっとする。
お化け屋敷の怖さは、「いつどこから脅かされるかわからない」から、「びっくり」と同等だと思うのだ。個人的には。
ホラー作品の何が怖いって、生の終焉を喚起させるイメージが不吉だからなのだろうか。幽霊は死んでる人なわけだし、ゾンビも一度死んでる。シャレコウベもそうだ。だが、個人的に一番怖さが残るのは
「あれは結局、なんだったんだろう」
と、最後の最後まで、「原因」を明かしてくれない作品だ。
例えば、謎の現象が起きる。起因はゾンビだったとする。
そしたら「ゾンビと闘う」「ゾンビから逃げる」「ひたすら隠れる」といった、「何かしらの対策」が立てられるのだけど、「何が原因か分からない」となると、対策のしようがない。
小野不由美女史といえば、重厚な文章で濃密に描く作品、というイメージが強かったので、表紙にスタイル抜群の今時学生っぽいイラストが入っているのを見て「お?」と思った。
「ゴーストハント」は、私が知った今現在、6巻まで発刊されているのを確認したため、ワクワクできる時間が長いかな、と思って手に取ってみたのだ。しかしこれは、若者向きか。年寄りにも、読めるだろうか。
一抹の不安を覚えながらページを開いてみると、予想通り、女子高生のセリフに時々ずっこける。日常生活では言わないだろそれ、みたいな言葉が、作品の世界観を構築するのを拒んでいる……気がする。
いやまて、しかし、これは小野女史の作品だぞ。ほら、この文章、小学生くらいのとき夢中になった作品と言葉遣い似てるじゃんか。大丈夫、読める、読める……
と、最初は自分をだましながら読んでみたのだが。
いやはや、してやられた。
転校生としてやってきた麻衣は、その年ごろにありがちの、好奇心旺盛な女の子。新しい学校には旧校舎があり、そこには「取り壊したら祟りが起きた」「かつて自殺者が出た」「その幽霊が出る」云々、噂が渦巻いていた。
友人と悪戯半分、「百物語(数人で怪談をして、語るごとに明かりを消していき全員が明かりを消すと暗闇の中に怪異が起きると言われている)」をやっていたら、なんと誰もいないはずの場所から声が……?!
しかしそこにいたのは幽霊ではなく、容姿の美麗な青年・澁谷一也だった。彼は「旧校舎の怪異について調べている」ゴーストハントを生業としており、麻衣達の話に興味を持つ。友達たちはの美しさ(?)にメロメロだが、麻衣はどこ吹く風。
しかし、旧校舎の怪談に興味を持った麻衣は、こっそり忍び込んだ旧校舎にて、渋谷の仕事道具の「超高いカメラ」をうっかり破損してしまう。損害賠償を請求される代わりに、渋谷を手伝うことになってしまった麻衣。
そこに、霊感女子高生、巫女や破戒僧、口寄せ、エクソシストと名乗るアクの強い人が次々現れ、旧校舎では様々な怪異が起きる。一体、そこに潜むのはなんなのか……?!
やっぱり、この作品は小野女史らしかった。
不気味な旧校舎、そこで起きる数々の怪異、それに立ち会う人々の恐怖。たくさんの情報は出てくるのだ。専門家(?)達も、それぞれの立場から意見を述べては「除霊」「お祓い」「悪魔祓い」を執り行ったりもする。
しかし、しかしだ。
「祟りだ呪いだと言われている原因」を、ちっとも語ってくれないのだ。
よって、読み手は勝手に想像を逞しくした挙句、「いないかもしれないけどいるかもしれない」あれこれが気になって、現実世界の隙間風だとか自宅の家鳴りにいちいち「ビクッ」としてしまう始末。
そして、タイトルが「ゴーストバスター」ではないところがミソなのだな、と後から気づいた。闘うのではないのだ。捕らえるのだ。捕らえるには敵を知る必要があり、調査が必要だ。渋谷一也は闘うのではなく、あくまで「調査する」という設定が、面白い。
一見専門的になりそうな現象に対する説明も丁寧で、ああ、なるほどとも思いながら読み進めた。後半のもうページ数が残り少ないのに解明されない怪異は、ちょっと、いや、大分、怖い。