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オリジナル短編小説 【カーネションの物語〜花屋elfeeLPiaシリーズ39〜】

作:羽柴花蓮
Wordpress:https://canon-sora.blue/story/

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 花屋elfeeLPiaにお祭りの日がやってくる。この日前後は花屋が賑やかしい。五月の母の日に向けて様々な花が売れていく。もちろん、カーネションも。多くのカーネションの精が旅立っていく。そう。ここは花の妖精がいる花屋。花屋elfeeLPiaとは妖精のいる花屋という造語であるが、実際に妖精がいるのだ。このことは一部の客と店主とその妻、萌衣、そして高校に無事合格してこの春からアルバイトになった次期店主、向日葵しか知らない。

 つい先日も、仲良しカップルへミュゲの日だから、と彼氏から彼女たちへスズランをプレゼントさせた縁結び向日葵である。すでにこの二組は結ばれているが、恋愛の橋渡し役として長年務めてきた向日葵としてはミュゲの日に何事か、とお節介を焼いたのである。向日葵が縁組みした客は数多い。そんな向日葵は小学生の頃からここに入り浸っている。それから数年。やっと遊び場にする子供からアルバイト人にまで成長したのが向日葵だった。

 そして、今日もサプライズプレゼントの担い手を担いでいる向日葵だ。五月の第二日曜日。母の日に、母へのカーネションをプレゼントするためにカップルが来ることになっている。だが、その前に、入手困難なカーネションで一大イベントがある。それを見に向日葵の悪友カップル二組がテラス席で今か今かと待っていた。
「ちょっとはあなた達も手伝いなさいよ」
「俺、バイトここじゃないしー」
 悪友、清人が言う。向日葵のクローバーの彼氏、健太の親友だ。しっかり見張って健太の事をひた隠しにしている。
「じゃ、バイト行けー」
 清人相手にはつい、乱暴になる向日葵である。
「今日は社会勉強―」
「ああいえばこういう」
「はいはい。ひまちゃんは準備してて。そろそろ駅に着いたと連絡があったから」
「はぁい」
 多くのカーネションの精達と一緒になって貴重なカーネションを渡す準備に取りかかる向日葵である。
 やがて、カップルがやって来た。
 長身の美男美女カップルだ。女性は優しげで長い髪を背中に流し、男性はこれまた優しそうに微笑んでいる。そう見えるのは悪友達だけで、男性がかちんこちんに緊張しているのは目に見えていた。覗いて見ていた悪友がちがつい足を一歩踏み出して呆然と見つめる。
「すげー。美形カップルだ」
「清人!」
 向日葵が足を踏んづける。
「いて! 乱暴するなー」
「邪魔したらただじゃおかないからね」
 ぎと、と鋭い目で睨まれて清人は黙る。向日葵は花の事になると人格が変わる。よく知っている清人はあえて黙った。彼女の紗世が気を遣う。
「大丈夫? 清人」
「ああ。あれぐらいじゃ、なんでもない」
「そう。清人もひまちゃんがいるから私達が一緒にいられるのよ。突っかかるのはやめてね」
「紗世がそう言うなら……」
 しっかりと尻に敷かれている清人である。

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