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桂宮治真打昇進披露興行の38日間! 宮治落語は心のアスタリュージョンだ!

桂宮治師匠の落語を初めて聴いたのは末広亭だった。
演目は忘れてしまったが、息継ぎしていないかのようにしゃべるしゃべる、ずっとしゃべる。
って高座だからしゃべるのは当たり前だけど、熱量の高さといったら松岡修造さんレベル。ブルドーザーのように客席を一気にすくって笑いのるつぼに投げ込む宮治落語に圧倒された。

ななななんだこの人、おもしろすぎる。
ぜひうちで開催している「らぶらく落語会」にでてほしい。
早速ホームページのお問い合わせ・ご依頼から連絡をしたら、すぐに返信がきた。
出演を快諾いただき、日程が決まった。早い。
2019年3月3日のことだ。

事前に一度挨拶をしたかった。
末広亭の深夜寄席終わりで、おそるおそる声をかけ、「8月にご出演いただく「らぶらく」の坂上です」と挨拶をした時の宮治師匠の第一声が

「なるへそ」
だった。

「なるへそ」って。
言葉としては知っているけど、テレビ以外で「なるへそ」と言った人に初めて会った。

一瞬で宮治師匠を好きになった。

■2020年3月19日:真打昇進発表

新型コロナウイルスの脅威が忍び寄り、世の中に不安が渦巻いていたこの日、宮治師匠が2021年2月中席より真打に昇進することが発表された。
落語芸術協会では、2020年2月に真打に昇進した講談師・神田伯山先生以来、落語家としては春風亭昇太師匠以来25年ぶりの抜擢真打。
落語会が次々に中止になるなかで、久しぶりの明るいニュースだ!
この時、この真打披露興行がすべて緊急事態宣言中になるとはまだ誰も知らない。

それから1年が過ぎ、世の中はすっかり変わっていた。

■2021年2月7日:桂宮治真打披露パーティ

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2021年1月8日に2回目の緊急事態宣言が発令された。この日はその最終日のはずだったが、すでに3月7日までの延長が決定されていた。
真打昇進、それも抜擢で。一世一代の晴れの舞台がこんな逆境に見舞われていいのだろうか。
いいわけがないが、現実は緊急事態宣言真っ只中。

宮治師匠が少し前からTwitterで、「パーティは飲食なしでやります」と伝えていた。
当日、550人が集まったテーブルの上に置かれていたのはエビアンとグラスだけ。
歓談なし、無言の鏡開き、乾杯は三遊亭円楽師匠の音頭でエア乾杯と異例づくし。
「乾杯」も「待ってました」も心の中で言ったつもり。
落語「だくだく」の世界だ。

生まれて初めて真打披露パーティなるものに出席した私は、ナイツさんの司会に釘付けになり、山田邦子さんの挨拶に目を見開き、余興のマジックイリュージョンに感動し、おめでたい雰囲気にふわふわふわふわ。
舞い上がって、鯉昇師匠のまくらじゃないけど、少し飛んでたかもしれない。
誰かの幸せな時間に同席できることは幸せだ。
                                            
最後に宮治師匠が「どうしてもパーティをやりたかった」と目を真っ赤にして挨拶。
宮治師匠の師匠・桂伸治師匠が終始にこにこにこにこ、それはそれはうれしそうだったのが印象的だった。
たくさんの拍手に包まれて、宮治師匠は笑って泣いて、なかなか退場の順番がまわってこないお客様に金屏風の定位置から駆け出してきて謝ってもいた。
いいのに、そんな気を遣わなくても。
かけ声も、お酒も、料理もないけど、祝う気持ちは1ミリも減らない素敵な宴だった。

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▲人生最高お弁当ほか数々のお土産

■2021年2月11日:大初日(末広亭)

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桂宮治真打披露興行大初日・新宿末広亭。この日から、末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、国立演芸場と38日間の連続興行が始まる。緊急時代宣言の中で。
大初日はなんとしても行きたい。
が、時は冬。並ぶにしてもそこまで早くは行けない。寒さに弱い。
後ろでも、二階でもいいから見たい。
事前情報では11時から整理券を配布するらしい。
なら10時に行こう。1時間なら並べる。
いや10時じゃダメかも。9時にしよう。
この前、瀧川鯉八師匠のトリの時、3時間立ち見できたので、2時間なら楽勝のはず。

9時頃末広亭着。すでに裏側の入り口近くまで列が伸びている。
前の人情報によると110番目位らしい。それならなんとか入れそうだ。
超極暖なんとかテックのおかげでそれほど寒さを感じないし、超激安折りたたみ椅子があるから疲れたら座れる。
ちゃらへっちゃら♪

しばらくすると、宮治師匠&御一行様がたくさんの段ボールとともに到着。荷物の搬入をしつつ、並んでいるお客さんに気軽に声をかけ、頭を下げながらお礼を言う宮治師匠。

そのうち、列の前の方から歓声が!
なんと宮治師匠自ら、並んでいるお客様に、ホッカイロを手渡してるじゃありませんか!

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こんなことまでしてもらったら、何時間でも待ちますとも!

宮治師匠は気遣いの人だ。
高座ではわき目もふらず笑ってもらうことだけに猛進しているけど、高座を降りたらキヅカイダーに変身!
打ち上げや懇親会の時など、その場にいる人全員にまんべんなく話しかける。誰もが楽しく過ごせるようにいつも周りを見ているのだ。

11時少し前、無事に整理券をゲット。一度家に帰り、指定された時間に再度末広亭へ。
一度家に戻って出直すのは面倒といえば面倒だけど、私の披露興行は並ぶところから始まっている。寒さにちょっとふるえ、宮治さんのやさしさに温まり、まだかなまだかなと学研のおばちゃんを待つように整理券配布を待つ。
私は今仕事をしていないから時間が自由だけど、仕事の合間をぬって並び、早退して来ている人もいるだろう。時間をやりくりして、間に合うかと焦ったり、走ったり、間に合ったと安堵したり。
座席に座る前に一人ひとりにドラマがある。
並んでも観たいものがあるのは幸せだ。

末広亭は緊急事態宣言中は客席半減で営業。この日は並んでも整理券をもらえなかった方もいたと聞く。
披露興行は満員札止めでスタートした!

大初日のゲスト枠は笑福亭鶴瓶師匠。
初めて聴く鶴瓶師匠の落語「青木先生」にぶっとんだ。
すごい。
いいものを見せてもらった。

真打披露口上では、三遊亭小遊三師匠が宮治師匠を未来のスーパースター候補!とべたほめ。
宮治師匠は、落語家になったきっかけでもある「上燗屋」をかけた。
ただただおかしくておかしくて笑いに笑った!
あまりにみんなが笑ったから末広亭が揺れた!
ほんとなんだから。

爆笑王・宮治にふさわしい大笑いの大初日だった。

【YouTube「桂宮治の撮って出し!」】

キヅカイダーは、さらに大変な業務を自分に課した。
緊急事態宣言下の興行で、寄席に来られないファンのために、「神田伯山ティービー」に対抗して(笑)、自ら楽屋の様子を撮影し、YouTube「桂宮治の撮って出し!」チャンネルを作ってアップすることにしたのだ。

▲大初日の「桂宮治の撮って出し!」

最初は、編集なしのまさに撮って出しだったが、日に日に編集スキルがアップ。
危ない発言はバキューン音で消し、カットを覚え、文字も入れられるようになった。
その分編集作業に時間がかかり、睡眠時間を削ることになったのではと思う。
家に帰ってからの編集・アップ作業はさぞかし大変だっただろう。

7日目はなぜか何倍速かで撮影されてチャップリンの映画のように早回しになり、8日目は編集ミスで削除してしまい、としくじりはあったけど、38日間アップし続けてくれた。
口上がカットなしで入っている日もあり、寄席に足を運べないファンにはうれしい限りだ。
ギャラクシー賞を狙えるかもしれない!

■2021年2月12日:2日目(末広亭)

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この日は昇太師匠、春風亭昇々さんの師弟出演も楽しみのひとつ。
きのうと同じ時間に行ったら、かなり前の方で整理券の番号が若がえった。
とtweetしたら、宮治師匠から返信が!!
キヅカイダー、出現!

口上で昇太師匠が宮治師匠のことを「愛嬌を元気で包んだ人」と言っていた。
うまい!
愛嬌と一緒に繊細さも包まれている。
そこが宮治師匠の魅力だと思う。
押しと引きのバランスが絶妙で、鋭く突っ込んだと思ったら、意外とあっさり引く。
ずーっとしゃべっているのに、ふと静けさを感じる瞬間がある。
ただ明るいだけではない。そこはかとなく見え隠れする憂い、いやダークな気配、うさんくささ(笑)
滑稽話も人情話も怪談話も聴かせるのは、この人柄あってこそだ。

宮治師匠、この日は「子別れ」。
きのうは笑いに揺れた末広亭が、しーんと静まりかえった。


■2021年2月17日:7日目(末広亭)

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▲撮影タイムあり

昇々さん、鯉八師匠、昇太師匠、立川談笑師匠の新作リレーが凄まじく面白かった!
寄席の楽しさをこれでもかと見せつけて、トリの宮治師匠につなぐ。
この流れで宮治師匠も新作?と思いきや古典古典の「花見の仇討ち」。
お腹抱えて笑った!
談笑師匠が「今まで聴いた花見の仇討ちで一番上手くて面白かった」と心の底から誉めていて、宮治師匠がとってもうれしそうだった。

この日の玉川太福さんのtweet、心がこもっていてじーんとした。
ファンをはじめ、仲間からも愛されている宮治師匠。


■2021年2月27日:17日目(浅草演芸ホール)

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▲撮影タイムあり

「撮って出し!」を毎日観てるから行ってる気持ちになってたけど、浅草は初参戦!
この日は真打枠が伯山先生。出足が早いとみて朝6時に家を出て並ぶ。
朝5時に起きられるエネルギーはどこからくるのか。謎だ。

宮治師匠は、田中まー君ばりの爆笑球を次から次へと投げる投げる。それを名捕手・野村の如く受け止め、もっともっとの客席。
果てしなく笑った。
「お血脈」ってこんなに笑う話だった?


■2021年3月4日:22日目(池袋演芸場)

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伸治師匠の自由過ぎて長い口上が話題になっている。
きょうも自由で長かった。(笑)
この日のゲスト枠は、東京の寄席初出演の桂雀太さん。

宮治師匠は国家を揺るがすほど壮大な「つる」。
もうばかばかしくてアホらしくて、体揺らして笑った。

■2021年3月10日:28日目(池袋演芸場) 

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▲撮影タイムあり

ゲスト枠は立川吉笑さん。
途中から客席の照明がおかしくなり、点滅を繰り返す。

宮治師匠は圧巻の「お見立て」。
泉のように言葉が湧いてくるくる。喋る笑う喋る笑うの幸せのループ。
落語の怪物ミヤキング現る!
キヅカイダーより強いかも。
照明点滅の理由が千穐楽に明らかになる。

■2021年3月14日:32日目(国立演芸場)

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この日の口上は大人の雰囲気でした。
伸治師匠は珍しく宮治師匠の話を。ってこれが本来の姿?
小遊三師匠が「宮治さんの顔を見ると幸せな気持ちになれる」と。
ほんとにそうだ。

宮治師匠は「四段目」。
はちゃめちゃと本寸法が同居する宮治落語、楽しかった!


■2021年3月15日:33日目(国立演芸場)

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楽屋で3月生まれの師匠方をバースデーケーキでお祝い。
キヅカイダー健在!
鯉八師匠がつくねを投げ、ボンボンブラザーズ先生が帽子を投げ、トリにつなぐ。

宮治師匠はまくらで演芸場に出る幽霊の話を。
これは怪談か?と思っていたら、まくらが終わると、照明がすぅーと暗くなる。
闇に浮かぶ宮治師匠。
始まったのは圓朝師匠作・怪談「江島屋騒動」。
どれだけの時間が経ったんだろう。
気がついたら拍手をしていた。
まくらで話した幽霊が「宮治すごいね」と言ってたに違いない。
怪物ミヤキングは幽霊をも手なずける。

■2021年3月18日:36日目(国立演芸場)

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久しぶりに拝見した山田邦子さん。
高座も楽しかったけど、口上でティッシュを鼻に詰めて、首を振り、「扇風機」を!
大大大ベテランが口上でこんなアホなことをしてくれるなんて!
素敵すぎる!芸人の鑑だ!

この日は、前座of前座のてきぱきぶり伸ぴんさん、2分オーバーして伯山先生に感謝された三遊亭遊子さん、聴かせつつ笑いもたっぷり伯山先生、何をしてもしなくてもいるだけでおかしい昇太師匠、the口上・小文治師匠、きょうもとことんはしゃぐ伸治師匠、いつか弟子入りしたい北見伸先生&ステファニーと、見事な流れ。

宮治師匠は、「寝床」を全身で怪演

ミヤキングはアクション俳優か!

■2021年3月20日:千穐楽(国立演芸場)

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この後、お江戸日本橋亭、上野広小路亭、大須演芸場の興行はあるが、連続興行としては千穐楽。
この日まで、口上で、数々のとんでもない・ここでは書けない話をしてきた伸治師匠。
宮治師匠のことはほとんど話さず、ご自分の師匠・先代の文治師匠のことや、ご自分の真打昇進の時のこと、若いころのこと、それ話しちゃいけないんじゃない?大丈夫?もうやめた方がいいんじゃない?と心配になるほど自由に話して、ついに「口上漫談」と呼ばれるジャンルを確立。(笑)
最後についでのように「宮治をよろしく」と締める。とびきりの笑顔で。

大人がはしゃいでいるのは見苦しいと思ってきたけど、伸治師匠のはしゃぐ姿は可愛いい。
そんなに楽しい?うれしい?よかったぁ!と心から祝う気持ちになれる。

37日間ふざけにふざけてきた伸治師匠、この日も、これまでに口上に上がってくれた方々を紹介する中で、雀々師匠を言い忘れて宮治師匠に小声で教えられ、笑いをとる。

その後だった

「宮治は幸せ者です。毎日こんなにお客様に来てもらい、大勢の仲間が来てくれた。死んだ二人も。池袋で照明が消えたのはあれは小蝠(柳家小蝠師匠)です。緞帳が途中で止まってしまったのは伸乃介(桂伸乃介師匠)です。全員が集合して応援してる。こんなありがたいことはない…」
と言葉をつまらせて、泣いた。

宮治師匠も目を真っ赤にしてる。

私も涙が止まらない。

「かわいい宮治をどうぞよろしくお願いします」と泣きながら頭をさげる伸治師匠はとてつもなく素敵だった。

ああ、この人は、宮治師匠のことが大好きで、かわいくて、愛おしくてたまらないのだ。
まじめに話すと泣いてしまうから、ふざけていたのだ。

宮治師匠も泣いている。
客席も泣いている。
拍手も泣いている。
口上漫談が、最後の最後で、胸を打つ最高の口上になった。

「師匠、もう泣かないでくださいね」の声を背中に受けて高座にあがる伸治師匠。
まくらをほとんどふらずに「お見立て」をはじめる。
きっと話していたらまた泣いちゃうからだね。
68歳の伸治師匠が、38日間休まず口上にあがり、高座をつとめるのは大変だったと思う。
もう疲れたよと言いながら、いつものあの笑顔で、楽屋では誰よりも話をしていた(撮って出し情報)。
伸治師匠の笑顔は寄席のパラダイスだ。

宮治師匠の千穐楽のネタは、化粧品実演販売員の経験をもとにした作った「プレゼント」。
宮治販売員の話術がすごい。
これは売れる。
ナンバー1になるわけだ。
客席の女性はみんな不老不死の美容液「アスタリュージョン」が欲しくなったに違いない。
もちろん、私も欲しくなった。
笑って笑って、せつないオチに泣いた。

38日間、違うネタをかけた宮治師匠、あっぱれ!

38日間すべてが緊急事態宣言中という前代未聞の逆境にもかかわらず、客席半減とはいえ、満席、立ち見が出た日もあるほどの入りも、あっぱれ!

毎日、自分で撮影し、編集して、翌日YouTubeにアップしたのも、あっぱれ!

そして、高座の最後に毎日必ず、5月1日から行われる次の落語芸術協会の新真打の披露興行の宣伝をして、その中の三遊亭小笑さん、昇々さん、笑福亭羽光さんの成金仲間の披露興行チケット販売も呼びかけた。
キヅカイダーはどこまでも気遣いの人なのだ。

コロナが収束したら、師匠となった宮治さんに「らぶらく」に出演してほしい。
そして、また「梅蘭」でしこたま飲みたい。
その時は「アスタリュージョン」3本売ってください。(笑)

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