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花屋の葉子さんと夏至祭り・後編~今夜はお祭り~ 【物語】

※このお話には前編があります。『花屋の葉子さんと夏至祭り ~前日~』


【前編のあらすじ】
明日の夜は、この街のイベントのひとつ“夏至祭り”が開催されます。
花屋の葉子さんは、お祭りでみんなが用いる花冠やブーケ作りに追われて大忙し。そんな中、ガーデナーの楠木さんが、思いつめた様子の少女を連れて葉子さんのお店を訪れますが…

 夜中から明け方にかけて降った雨は、お祭りを楽しみにしていたこの街の人々を不安にさせました。そして朝、思いきってカーテンを開けると、外はすっかり洗われピッカピカに輝いているではありませんか!

「ついに夏至祭りだわ!」

 葉子さんは花冠の入った箱を作業台に積み上げ、次に7種類のお花を束ねたブーケたちをブリキのバケツに挿し込みました。

 まずは女性客が入れ替わり立ち替わりやって来て、予約の花冠を買ってゆきます。女子高生たちは早速箱から取り出し、頭に載せ写真を撮っていました。
 花冠は、主婦やおばあちゃま達も被ります。女性はいくつになったってお花が大好き。とくに花冠なんて被る機会はなかなかありませんし、乙女心を満たしてくれますもの。せっかくのお祭りに便乗しない手はありません。

 街中には、お花をつけた人たちがだんだんと増えてゆきます。一方、バケツで目下出番待機中のブーケは、まだひとつも売れていません。いやいやこれから!あんなにがんばって作ったんですもの。

 葉子さんは、昨日約束した渚ちゃんの花冠作りに取りかかりました。大小入りまじったお花を巧みに組み合わせ、輪っかにしてゆきます。

「ふぅむ…完成!」
 ぬんっと胸を張ると、ちょうど渚ちゃんがお店の入口から奥を覗いているのが見えました。ボーイフレンドも一緒のようです。

「こんにちは。早めに来ちゃったけど、大丈夫ですか?」
「ええ、いま花冠が出来上がったところです。さあ、どうぞ、中へ。涼しいですよ」
 葉子さんはふたりににっこりと笑いかけ、椅子をすすめました。
 夏至祭りが始まるまでにはまだ時間があります。葉子さんはグラスにサイダーを注ぎ、ラズベリーシロップを入れて出してあげました。
 きれいな深い赤ピンクの飲み物に、渚ちゃんは興奮を隠せない様子。

「これは何ですか?」
「ラズベリーコーディアルです」
「…ラズベリーコーディアル?」
 すると、渚ちゃんのボーイフレンドがはじめて発言しました。
「ぼく知ってます!『赤毛のアン』に出てくる飲み物ですよね?ダイアナとのお茶会でアンは間違えて葡萄酒を飲ませちゃったけど…」
 おっ、きみはを知っているのだね、少年。と、葉子さんは目を見開きました。
「そうです!本当はアンがダイアナに飲んでほしかったのは、このラズベリーコーディアルだったのです!」
 同志を見つけたふたりの間に挟まれ、渚ちゃんはくすぐったそうにしていました。
「申し遅れました。ぼく、渚さんのクラスメイトで幼馴染みの松本蓮(れん)といいます。このたび渚さんと…フガッ」
 蓮くんのお口を渚ちゃんがにっこりしながら手でふさぎました。
「葉子さん、蓮くんも葉子さんのところでブーケを買いたいそうです。ねっ?そうだよね?」
 渚ちゃんに促され、蓮くんがポケットから財布を取り出し、バリバリとマジックテープの開け口を開きました。真剣な顔で目配せを彼女に送りながら、謝っているようです。
 何かしくじったのでしょう。さっき口を滑らせそうになった彼は、何を言おうとしていたのでしょうか?

 葉子さんは蓮くんにブーケを選んでもらいながら、少女のほうへ向き、ある違和感について口にしました。

「渚ちゃんと蓮くんは、今夜の衣装コンテストに出るのかな?大荷物のようだけど」
 一瞬、彼女はキョトンとした表情になりましたが、自分たちの足下に置いた小振りのスーツケースのことを言われているのだと気づき、サッと顔色が変わりました。
「あっ、これは…そうです。コンテストの衣装です!」

 夏至祭りでは、特設ステージが広場にセットされ、衣装コンテストや“花ここ”など、一般参加のイベントが行われます。
 “花ここ”とは、ブーケと花冠を交換する愛の告白。“花こころ結び”の略であります。このお祭りのメインテーマにもなっているイベントです。

「そうなんですね。私はてっきり、ふたりは“花ここ”のほうに参加するのかと思っていましたが」

 葉子さんが作った花冠をかぶった渚ちゃんは、まるでお姫さまか妖精のようでした。
 蓮くんはすぐにでもブーケを渡したかったでしょうね。いまにも膝まづきそうな勢いですもの。

「渚ちゃん!とっても似合ってるよ!」
「ありがと…」
 さっきまで青白かった渚ちゃんの頬が、ほんのりピンク色に染まりました。
「葉子さん、素敵な花冠をありがとうございました」
「ぼくたち、そろそろお祭りに出かけます。ラズベリーコーディアル、ごちそうさまでした!」
「はい、ふたりとも楽しんできてくださいね」

 かわいい恋人たちは、行き交う人々と花々のなかへと消えてゆきました。

 ピンク色から薄紫に空が暮れ、夏至祭りがはじまりました。
 広場の特設ステージでは衣装コンテストが終わり、ビッグバンドの演奏がはじまる頃合いです。

 渚ちゃんたち、コンテスト入賞できたかしら?そんなことを考えていると、バタバタ男性客が立て続けにお店にやって来て、ブーケを買って行きました。
 あっという間にバケツの中は空っぽです。絵にかいたような駆け込み需要ですね。このあとに控えた“花ここ”で手渡すのか、お家にいる奥さんに捧げるのか。

「さてと…ブーケも売り切れたことだし、今夜はこれで店じまいね」
 怒涛のラッシュに目を回しそうでしたが、昨日がんばって作ったブーケがきれいになくなり、大満足の葉子さんでした。

 切り花のバケツや鉢物を店内に仕舞い、シャッターを閉めようとしていると…慌てた様子の楠木さんと、もうひとり男の人が滑り込んできました。

「葉子さん!」
「楠木さん?どうしたんですか?」
 膝に手をつき、肩を大きく上下させて、楠木さんは呼吸を整えました。
「渚ちゃん、ここに来たかい?」
「ええ、花冠を受け取って、ずいぶん前にお祭りに行きましたけど」
「そう、じゃあ、広場のほうを捜そう!」
 すぐに駆けていこうとする楠木さんと男性を見て、ただ事ではないと察した葉子さん。
「あのっ、一体どうしたっていうんです?」
「ああ、えっと、渚ちゃん、家出…」
 息も切れ切れに楠木さんが喘いでいるので、葉子さんは説明を求めるように隣の男性を見ました。
「突然すみません。私は渚の父です。総一郎とはいとこ同士で…このたびは、渚に花冠を作っていただいたそうで…その、帰ったら置き手紙があって、お祭りのあと、家出を…渚が…」 
 楠木さんの下の名前、“総一郎”さんていうんですね。いや、いまはそれどころではありませんな。
「家出…って、渚ちゃんがですか?」
 こくこく頷く楠木さんと渚ちゃんのお父さん。
「私も一緒に捜します!渚ちゃん、ブルーとピンクのお花で作った花冠をかぶっているはずです」

 3人で広場に向かいながら、葉子さんは、渚ちゃんが女の子にしては地味な黒いスーツケースを転がしていたのを思い出していました。きっとお父さんのスーツケースを持ち出したのでしょう。
 あの違和感を、あのときもっと追及していたら、彼女の思惑に気づけたかもしれなかったのに。

 広場に駆けつけた3人は、特設ステージの袖にいる夏至祭り実行委員の腕章を付けた人をつかまえました。

「ちょっと伺います。衣装コンテストに小学5年生の女の子と男の子のペアで出場した参加者はいませんでしたか?」
「はあ…子どもさんの参加者は何人かいましたけど…みなさん親御さんと一緒に出ていましたから…そのくらいの年頃の参加者はいなかったかと」
 ああ、やはりあのスーツケースはコンテストとは無関係だったんだわ。と葉子さんはガックリ肩を落としました。

 ステージからは、ビッグバンドが演奏する『ムーンライト・セレナーデ』が流れ、広場に集まった人たちをうっとり夢の世界へと誘っております。
 “花こころ結び”に向け、ロマンチックは満タンといったところでしょうか。

 葉子さんたちは手分けして広場をぐるりと廻り、ふたりを捜しました。しかし、途中で楠木さんや渚ちゃんのお父さんに鉢合わせしても、お互い成果はなく、首を振ってまた辺りを見回すばかり。
 そんなときでした。渚ちゃんのお母さん、薫さんと合流したのは。

「総一郎くん、忙しいのにごめんなさい。メール、渚からも届いていたの」
「渚から?!」
 渚ちゃんのお父さん、光太さんが、薫さんに駆け寄ると、彼女はその胸を押し返しました。
「あなたが強引に話を進めるから、こんなことになったのよ!」
「いまはそんなことで争っているときじゃないだろう!」

 葉子さんと楠木さんは、ふたりのただならぬ様子に、なかなか声をかけられません。
 光太さんが薫さんの手首に触れて、渚ちゃんからのメールを見せてくれと頭を下げました。まだ怒り冷めやらぬ薫さんでしたが、黙ってスマホを彼へと手渡しました。

「置き手紙と同じ内容だ。“ふたりで夏至祭りに来るように。そして、渚のところへ必ず来るように。さもなくば自分は街を出てひとりで生きていく”」
「あの子が私たちから離れる?そんなのこれまで林間学校くらいでしょ。ああ…毎日私たちが言い争っていたのを渚は聞いていたのよ。それで出ていくなんて言い出したんだわ…怖がりなあの子がそんなこと考えるまで傷ついて…」

 葉子さんは、いまにも崩れそうな薫さんの肩をそっと支えました。葉子さんの手の温もりが伝わり、それまで堪えてきた薫さんは、息を吸った瞬間むせび泣きました。男性陣は戸惑った様子で薫さんを見ています。

 ステージ上では、“花ここ”の特別枠に当選したカップルが登壇し、いままさにプロポーズに成功したところでした。顔を真っ赤にして涙ぐむ男女へ、祝福の拍手喝采が送られています。

「さてさて、お次は…可愛らしいおふたりの登場です。渚ちゃんと蓮くん!どうぞ、ステージへ!」
 司会者の呼びかけに、4人はギョッとしてステージの方を見上げました。
 するとそこへ、葉子さんの作った花冠を戴いた渚ちゃんと、ブーケを持ちやや緊張気味の蓮くんが現れました。
 ライトに照らされ、花と光を纏った少女はひと際美しく、“夏至の夜の女神”とでも表現したくなる神々しさ。栗色の髪が夜風になびき、花冠のラズベリーフィールズも揺れています。
 こんなときなのに、葉子さんはまるで、おとぎ話のなかへ迷い込んだ気分になりました。

 蓮くんが司会者からマイクを受け取ります。甘酸っぱい初恋の愛の告白を期待する観客たち。微笑ましそうに見つめております。
 しかし彼はそのままその手を渚ちゃんにバトンタッチしました。両手でマイクを持ち、顔を上げる渚ちゃん。周囲がざわつきます。
 光太さんと薫さんが、ステージに駆け寄り渚ちゃんの名を呼ぼうとしたときでした。

「お父さん、お母さん。いたらステージに上がってください」
 いよいよ観客のざわめきが拡がり、みんな辺りをキョロキョロ見始めました。
 楠木さんは光太さんに、「早く行ってあげたほうがいい」と背中を押しました。戸惑うふたりでしたが、置き手紙やメールのこともあります。相当の勇気と考えを持って、渚ちゃんが彼らを呼んでいるのだとわかっていました。葉子さんも薫さんに頷いてみせました。

「渚…」
 少しやつれた顔のお父さんとお母さんが、壇上にちゃんと現れたのを見て、渚ちゃんは一瞬、泣きそうになりました。でもグッと堪えました。

「お父さん、お母さん、来てくれてありがとう」
 まだ状況を呑み込めていない司会者や観客たち。でも、野次を飛ばしたり、邪魔する人は誰ひとりいません。みんな、ただ事ではないと感じとり、見守ってくれています。

「ここにいるのは、私の父と母です。母は病院で看護師さんをしています。父は会社員です。父は今度、この街から遠く離れた県外に転勤になります」
 まだ少女の意図するところはわかりませんが、みんなはじっと聴いています。
 葉子さんと楠木さんも、ステージ下で固唾を呑んでおります。

「父は家族で一緒に転勤先へ引っ越そうと言います。母は、いまの仕事を投げ出してこの街から離れることは出来ないと言います。父は、家族がバラバラに暮らすのは、もはや家族とは云えないと言いました。
 私は、私は…わがままかもしれないけど、転校するのも、家族がバラバラになるのも嫌です」

 家庭内の立ち入った話を聞いてしまい、観客の大人たちは気を遣って、光太さんや薫さんをなるべく見ないようにしてあげています。逆に、女子高生や若い人たちは、渚ちゃんを応援するような熱い眼差しを送りはじめました。

「私の両親は、お互い忙しくてまだ結婚式を挙げていません。でも結婚式をすれば、周りの人たちの前で誓いを立てられます。そうすれば、どんなに大きな喧嘩をしても、離ればなれになっても、いつだってすぐに元どおりの仲良しに戻れると思うんです。周りが味方になってくれると思うんです」

 渚ちゃんの言葉に、ちらほら頷く観客のみなさん。渚ちゃんの足はガタガタと震えています。でも、みんなには、少女の云わんとしていることが、だんだんと伝わってきたようです。

 渚ちゃんは、俯いてやはり震えているお母さんの頭に、自分がかぶっていた花冠を載せました。
 それを見て蓮くんも、大役を果たすべく、お父さんの手に7種類の花のブーケを持たせました。

「お父さん、お母さん、この先どんなことがあっても、仲良しでいてほしい。いまここにいる街の人たちの前で、ずっと夫婦でいることを誓ってくれますか?」

 娘の切実な言葉を聞き、光太さんと薫さんはゆっくりと向き合いました。そして、久しぶりに、怒りや憎しみのない瞳で見つめ合いました。
 葉子さんは思いました。ああ、渚ちゃんの目はお父さん似で、栗色の髪はお母さんゆずりだわ、って。
 
 最初に、光太さんがぎこちない動きで歩み寄り、薫さんにブーケを捧げました。薫さんは少し唇が震えていましたが、ブーケを受け取った瞬間、柔らかい笑みが戻ってきました。そして迷わず自分の頭上にある花冠を外し、ちょっと照れながら屈む光太さんの頭に、やさしく載せてあげました。

その瞬間、どこに控えていたのか、先ほどのビッグバンドの面々が現れ、メンデルスゾーンの『結婚行進曲』がパパパパーン♪と鳴り響きました。
 それを合図に、観客からは歓声と温かい拍手が湧き上がっております。渚ちゃんはふたりに駆け寄りました。それから親子三人、固く抱き合いました。

「よかった!本当によかった!」
 楠木さんが泣きそうな顔で葉子さんの手をとり飛び上がっています。葉子さんもうれしくて、何度も大きく頷き返しました。

 いま思うと、渚ちゃんが花冠で青いお花を選んだのは、サムシングブルー(幸せな結婚生活を願い、青いものを身に付ける結婚式のジンクス)のつもりだったのですね。

 

 親子三人は仲良く手をつないで、電車で帰りました。
 実は光太さん、転勤先の県に実家がある後輩にお願いして、上司にも口添えをしてもらい、転勤をかわってもらったそうです。だから、渚ちゃん一家は引っ越さなくてもよくなりました。今までどおり、三人一緒です。

 葉子さんの軽バンで蓮くんを送る道中、楠木さんも同乗しました。いつもの軽トラは、お祭りの準備で使わせてほしいと仲間からお願いされたので、明日にならないと車が返ってこないそうです。

「蓮くん、ナイスサポートでしたね。本当は、渚ちゃんと“花ここ”したかったんじゃないんですか?」
 そう、葉子さんが尋ねると、ちょっと大人びた横顔で蓮くんが言いました。
「ぼくと渚ちゃんは幼稚園の頃、すでに結婚の約束を交わしているんです。いまもぼく達の気持は変わりません。“花ここ”への参加は、もう少し先の楽しみに取っておきます」
「ほう…ほ、ほう…」
「なるほどね…」
 聴いてる大人の葉子さんと楠木さんのほうが、ドギマギしてしまいました。


 無事に蓮くんをお家へ送り届け、つぎは楠木さんのファームに到着です。
 ふたりにとっても、今日は本当に長い一日でした。

「昨日、今日と本当にお疲れさま。そして、ありがとう」
「いえ、楠木さんも、お祭りの準備から大変でしたよね」
「ははっ、光太たちのことで、そっちは完全に飛んでたな」
「ですね。でも、素敵なご家族だなって思います。渚ちゃん、よくがんばりましたね」
「そうだね。渚ちゃんがあんなこと考えていたなんて驚いたけど、彼女の勇気にみんなが心動かされたのをぼくも感じたよ」

 ファームには、スーッと心地好い風が吹いてきました。
 今ごろ街の広場では“花ここ”が繰り広げられ、たくさんのカップルが幸せに浸っていることでしょう。

「あっ!そうだ!葉子さん、ちょっとこっちに来て」
 突然、楠木さんは細縁メガネの奥の瞳を輝かせ、葉子さんをファームのとある一角へ案内しました。
「この辺り、ハーブガーデンにしてあるんだ。ちょっと待ってね」
 彼は腰巻エプロンのポケットからハサミを取り出し、ハーブをチョンチョン切ってゆきました。

「スペアミントにアップルミント、レモンバーム、レモングラス…そしてローズマリーとカモミール!」
 爽やかな香りが鼻腔をくすぐります。
「葉子さん、ハーブティー好きでしょ?ぜひとも楠木ファームの新鮮なハーブを使ってください」
 にこっとしてハーブの束を差し出す楠木さん。
「こんなにたくさん…」
「おっと、これじゃ6だな…」
「?」
 楠木さんは辺りを見回して、花壇のあるところへ走ってゆき、濃いピンクのポンポンしたお花をハーブの束に加えました。
ラズベリーフィールズです。
葉子さんお気に入りのお花ですね。

「はい!これで7種類だよ」
 楠木さんは葉子さんの顔をまともに見れず、絵にかいたような照れ隠しで横向きになって手を突き出しました。手に握られているのは、7種類のハーブとお花のブーケです。
 それに気づいた葉子さん。みるみるお耳が真っ赤に染まってゆきます。
「あのっ、あ、ありがとうございます!」
 そう言ってブーケを受け取ると、あたふたしながら、葉子さんは自分の軽バンから麦わら帽子を取り出し、それを楠木さんの頭に被せました。
「すみません!いまはこれしかなくて!」
「これ…ぼくに?」
「いや、私ったら!」
「いや、ありがとう!」
 ふたりとも軽くパニック状態ですね。

 すると、夏至祭り会場近くの海の方から、パパパパーン!とお祭りのフィナーレを飾る花火が打ち上がりました。

 “ひゅーひゅー、おふたりさ~ん!”
 風を切る音が、じれったいふたりを冷やかすように聴こえてきます。

 葉子さんがハーブのブーケに真っ赤な顔をうずめたところで、このお話はひとまずおしまいです。

 では、またいつか。



~END~




一気に後編に詰め込んでしまいました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀

🌼今回も Atelier hanamiさんの素敵な絵を見出しに使わせていただきました。ありがとうございました!

前作『花屋の葉子さんとシークレットガーデン』も、お読みいただけるとうれしいです!


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