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【#創作大賞感想】『花畑お悩み相談所』穂音さん

 穂音さんはファンタジーの名手であります。同時に、SFも絶品です。「不思議」や「違和感」をストーリーにかき混ぜ、美しい渦を描いてゆく作家さん
 これまで何度も痺れさせられました。
 そんな穂音さんの創作大賞応募作は、ミステリ部門!
 ハッシュタグを見て、ミステリ好きの私はうれしくなりガッツポーズしました。

 穂音さんは、中島みゆき様のかの有名な歌のように、縦の糸はファンタジー、横の糸はSF、織り成す布は誰もが酔いしれる上質なミステリへと織りあげちゃうお方なのです!
 


 応募作の『花畑お悩み相談所』は、主人公律子のもとに謎のメールが届くところから始まります。
 そのメールとは、用件を伝えるとかではなく、童話のパロディと思われるもの。しかもその内容は、不穏な空気に満ち満ちております。

 そして何より私をゾクリとさせたのは、そのメールの送り主が、ひと月前に事故で滑落し、今尚意識不明でいる律子の孫、悠人であるということ。
 とてもメールを送信できる状態ではありません。

 これは悠人のSOSか? それともストーリーと登場人物に何か重要な意味が隠されているのか? 律子が悩んでいるところへ、セールスマンがやって来ます。
 
 マレーバクの麦原麦むぎはらばくです。
 いえいえ、マレーシア人の間違いではありません。正真正銘、動物のバクがスーツ着て訪問してくるのです。

 この時点で、もうあなたは穂音ワールドに足を踏み入れております。どうぞ、身を委ねてください。

 麦原麦はバクですが、よく言われるような夢を食べる類いのバクではありません。依頼人の悩みを食べてくれます。
 まずはお試しにプチコースからいかがですか?と律子に提案する彼。通常は梅→竹→松のコースがあり、松はさらに並~特上に分かれているという!

 バクが二足歩行でスーツ着て値段表の書かれたリーフレット広げて商品説明しているこの状況。それを受け入れ麦原にリンゴすってあげる優しい律子さん、素敵! と喜ぶ穂音ファン。

 そして、この麦原麦が勤める花畑お悩み相談所の「悩みを食べる」サービスは、律子に次々届く悠人からの童話メール解読にどう絡んでゆくのかが面白いのです。


 とはいえ、事は単純ではありません。
 童話の内容には、それぞれ違う物語でありながら、共通のアイテムやキャラクターがおりました。
 「紅子」、「「狼」、「お母さん」「白い粉(もしくはケシの花)」。
 それらは、悠人自身や父親の孝介、継母の由恵、亡き実母の奈津、妹の花梨、祖母である律子や奈津の父で祖父の元治に当てはめてみると読み解くことができる象徴なのではないか? と推理する律子。

 同時に、童話の内容が内容なだけに、律子にとって非常に辛い方向へと導かれてゆき、メールが届くたびに解釈も変化してゆきます。

 悠人のメールはどうやって届くのか? 何を伝えようとしているのか? 事故の真相は?
 家族がそれぞれ心に秘めていたことが浮き彫りになってゆく過程にも胸が締めつけられます。


 しかし、穂音さんの繰り出す描写は、ときにコミカルで、言葉遊びや表現の妙にクスッとさせられます。
 登場人物達へ降り注ぐ眼差しには愛が滲み出ていて、こんな神に見守られた世界なら住みたい! と思ってしまいます。

 ミステリの醍醐味は、「緊張と緩和」とも思うので、こういう場面に出くわすと、くうぅ! って痺れます。


🍀グレーの囲み部分の感想は、ぼかして書きつつほんの~りラストに触れているので、作品未読の方はご注意ください。


 このミステリは、ミステリにしてファンタジー。ミステリ&不思議と現実味のあるファンタジーにして、家族の物語なのだと感じました。


 複雑な……と一言ではいえない家族間のズレが、ラスト、ものすごくピュアでシンプルな美しい結晶のようになって、見ていた世界がぐわんと回転する感覚をおぼえました。


 『花畑お悩み相談所』の麦原麦と麦谷タピーは、律子さんの亡きご主人が送り込んだのでしょうか?

 悠人の最後のメールに登場する「てんとう虫星人」のエピソードに泣いたあと、大ラストの美しく晴れやかな光景に再び泣かされた私でありました。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました🐞🍀

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