ひな祭りのおもひでぽろぽろ【エッセイ】
昨夜、スーパーへ行くと、ちらし寿司用の具材を揃えた冷蔵棚、ピンク色のババロアやロールケーキ、いちご大福などのスイーツが並ぶ売場がやけに目についた。
なんだかいつもとラインナップ違うなあ……と不思議に思っていたのだが、店内をぐるぐる巡っているうちにはたと気づいた。
「ああ、そうか。明日はひな祭りだ」と。
思い返してみると、ひな祭りにまつわる思い出は、もしかしたらクリスマスの思い出を上回るくらい、記憶に残っているものが多いなあ……。
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幼い頃の私はお雛様が怖くて、ひとりでは近寄れなかった。
突如、二階の客間に聳えるひな壇。そこへ、ぬいぐるみとは違うリアルな人の顔をもつお雛様とそのご一行。
特に、仕丁(別名:三人上戸)という三人組の、への字口で怒っているのと泣き顔の人形が怖いやら薄気味悪いやらで、さらに笑っているお爺さんの口は紅くてサイコっぽく映った。
ひとり肝試しをしに物陰から雛人形を見るも、薄暗い部屋にぼうっと白く浮かび上がるお雛様のお顔に戦慄をおぼえ、震えながら階段を降りた。
母方の祖母が初孫の私にせっかく上等な七段飾りを贈ってくれ、それを大人達が総出で飾ってくれたというのに、なんとも恩知らずな子どもである。ひいては、その雛人形を作ってくださった人形職人さんに対しても失礼であった。
そんな幼い頃の記憶に追い討ちをかけるように、高校生になった私は友人からお雛様の怪談話(お雛様の口が真っ赤なのはね……的なお話)を聞かされ、「うちのお雛様、ほぼ全員口が真っ赤だぞ!」と再び戦慄し、無礼を重ねるという。(そりゃ、この手の日本人形は大体が唇紅く仕上げとりますわな)
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やがて二十歳を過ぎると……
「ロッタは雛人形が苦手だったな」という理由で、七段飾りはしまわれたまま、文具店などで購入できる手のひらサイズの雛飾りでささやかに祝う年が続いた。
しかし、迷信を信じるタイプな娘時代の私は、きちんとひな祭りをしないと嫁に行けない気がしていた。故に、せめてひなあられだけでも購入しようと近所のコンビニへ走った。
すると、当時、交際中の殿方よりも深く愛していた我が愛猫が、雨の中、私を追って途中までついてきた。なんて可愛いやつ。怖がりで車の行き交う道路まではいつもついてこないので、「お家へお帰り」と諭し、後ろ髪引かれながらコンビニへ向かった。
雨の日の買い物は感覚を狂わせる。
せっかく傘さしてここまで来たんだしと、余計なものまでレジかごに入れていたら、当初の目的であるひなあられを買い忘れそうになった。慌ててレジ前の季節ものの棚からひなあられをピックアップ。
なんだかんだ、十五分くらいコンビニに滞在していた。
やれやれ……と足早にもと来た道を戻ると、住宅街の角に建つアパートの垣根から、なんと、雨でずぶ濡れになった我が子(愛猫)が私の前に飛び出してきた。
驚いたことに、冷たい雨の中ずっと私を待っていたのだ。
私は先導してくれる猫の上に必死に傘をさしかけた。するとうちの子は、トタトタ歩きながらも後ろを振り返って私を見上げ、「ウニャゴニャゴ )) ヴ~💢……ニャウニャウ! ウニャゴニャゴ😾」と、家に着くまでのあいだずっと抗議するように喋りかけてきた。
「ごめんゴメン🙇♀️💦」と、私も謝り続け、柔らかいタオルで彼の体を拭き、ストーブにあたらせた。そして、特別なおやつである某Ciaoの焼きかつおを一本献上し、やっとお許しいただけたのである。
このとき私は、我が子(愛猫)にさらなる忠誠を誓った。
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さて、迷信を信じがちな私は、「ひな祭り後は速やかに雛人形を片付けないと嫁に行き遅れる」という話を聞き、ゆめゆめしまいそびれぬようにと気をつけていたのだが……。
ある年のひな祭りに、例の手のひらサイズの雛飾りをうっかり三日以上も飾りっぱなしでいたことに気づいた。
その時点で恋人はおらなんだが、いつかは結婚したいと考えていたので、真っ青になりながら母に「お雛様しまうの忘れてた」と言った。ところがそのあと、母からとんでもないエピソードを知らされることになる。
「いまさらそんな神経質にならなくてもいいのよ。だって、ロッタちゃんが子どもの頃、おじいちゃんはわざと遅くにお雛様しまわせて、『ロッタちゃんがいつまでもお嫁に行かず一緒に暮らせるように』って願掛けしていたんだもの」
「……嘘だろ?」(某ドラマの櫻井翔氏)
衝撃の事実を聞かされ、膝から崩れ落ちるロッタ。
祖父母にとって私は待望の初孫であった。父方の祖父母には男兄弟しか生まれなかったので、孫娘の誕生をことさら喜んだのだとか。
たしかに、祖父は私を溺愛してくれていた。私の方もおじいちゃん大好きっ子だった。
しかし、祖父は私の成人式を見ることなく、私が二十歳を迎える前年に亡くなってしまった。
「おじいちゃん……✨」
その、呪い祈りの効果は絶大で、私は世間でいうところの結婚適齢期をゆうに超えてから結婚した。
そして、夫になる人と初めて手を繋いだとき、「あ、おじいちゃんの手の感触に似ている」と感じたのだった。
🎎
ひな祭りはもう祝うこともなくなったが、今年、ひなあられは食べた。
亡くなった祖母が大きいまん丸のあられが好きで、私は米粒のあられが好きだったので、お皿に選り分けて大きいのを祖母にあげていたことが思い出される。
いまごろ、女の子のいるご家庭では、ちらし寿司やピンクのスイーツでお祝いしているかもしれないなと思うと、私のひな祭りの記憶もほんのり桃の花のようなピンクに染まる気がした。
~おわり~
最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀
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