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『百年の孤独』をみんなで読んだ話
この記事は「積読チャンネル非公式 Advent Calendar 2024」の16日目🎄🎁
担当はるなです🎅
昨日はくろしまさんの「昔は本が読めなかった話〜母は積読チャンネル〜」、明日の担当はアハン🦭さんです。
海外文学好きとしてはずーっと読まないとなあと思って積んでいた『百年の孤独』
2024年、じつは記念イヤーだったり、みんなで読む機会に恵まれたり、この波に乗らない手はない!ということで読んでみました。
どうだった?みんなで読むって何?についてお話したいと思います!
いざ!
『百年の孤独』ってなあに?
コロンビアの作家、ガブリエル・ガルシア=マルケス(1928.3.6.-2014.4.17)による、1967年初刊の長編小説。
ブエンディア一族が7世代にわたり、架空の村マコンドを興し、栄え、やがて滅亡するまでの100年を描き、マジックリアリズム(魔術的リアリズム)とよばれる日常的な現実性と非日常的な幻想性を混和・共存させた表現技法が特徴的です。
ガルシア・マルケスは本作を中心として1982年にノーベル文学賞を受賞しました。
46言語に翻訳され売上5000万部をこえる世界的ベストセラーとなり、ラテンアメリカ文学のマスターピースと言える作品です。
私の大好きな日本の作家、安部公房は読んでこう言ったといいます。
読んで仰天してしまった。これほどの作品を、なぜ知らずにすませてしまったのだろう。もしかするとこれは一世紀に一人、二人というレベルの作家じゃないか。
他にも、大江健三郎、井上ひさし、池澤夏樹、筒井康隆が影響を受けたと公言しており、寺山修司は取り憑かれたように舞台化、映画化を推し進めたと言われています。
日本の文壇でも多大な影響を残した作品であることは間違いなさそうです。
この世界的大ヒット&ロングセラーにも関わらず、邦訳から半世紀以上の長きにわたり文庫化されていなかったため「文庫化したら世界が滅びる」とまで言われていましたが、ついに、ガルシア・マルケスの没後10年にあたる今年、2024年文庫化&史上初の映像化、ということで、今年は記念すべき百年の孤独イヤーだったのです!
ここが好きだよ『百年の孤独』
さて、前置きが長くなりましたが、何がそんなに魅力なんでしょう?読んでみた感想についてまとめてみます。
私の浅々の読みでは何にも分かってないよ!という感じかもしれませんがご容赦ください…
なお、特にネタバレとかあるタイプの作品ではないかなと思っていますが、これから読もうと思っていた、今読んでるところ、という方で、まっさらな状態で読みたいという方は読み飛ばしていただいたほうがいいかもしれません。ぜひ、読み終わったら一緒に語りましょう!
描写の乱れ打ち、めくるめくマジックリアリズムの世界
たくさんの登場人物が出てきますが、悩み、葛藤、他者との軋轢、感情の変化などは言葉多くは語られず、内面的な掘り下げはそんなに説明的にされないように感じました。
それよりも、彼らがそこで何を見て、何をしたか、たくさんの珍事が色鮮やかに、微に入り細に入り連綿と描写され続け、そのイマジネーションの渦に飲み込まれるような体験が圧倒的です。
彼の家だけでなく村じゅうが葦切りやカナリア、空色風琴鳥や駒鳥であふれた。雑多な小鳥の合唱が騒々しくて頭が変になりそうなので、ウルスラなどは耳に蜜蝋を詰めて現実の感覚が失われるのを防いだほどである。
またたく間に、秩序と労働をモットーとする社会を築きあげていった。そこでは、村の建設当時からにぎやかなさえずりで時を告げていた小鳥たちを放してやり、かわりに全戸にチャイム付きの時計をそなえるという楽しみしか許されなかった。(中略)正確に時間が合わせられていたので、町は三十分ごとに徐々に進行する同じ和音で活気づき、やがて、一秒の狂いもなくいっせいに鳴りひびくワルツのメロディーとともに正午に達した。
その家で作られた飴細工の動物たちは依然として町で売られていた。大人も子供も夢中になって、不眠症で緑色になったおいしい雌鶏、不眠症で薔薇色になったみごとな魚、不眠症で黄色になったやさしい仔馬をしゃぶったために、町じゅうの者が起きたまま月曜日の朝を迎えることになった。
描写は、それが何かのメタファーであったり、暗に示している意味を考えたりしてしまいがちですが、この世界ではたぶんきっとそのまま起こっていることが描かれていて、それがたとえ現実離れしていても、滑稽な様子、村や一族にとってのターニングポイント、感動的で美しいシーン、凄惨な現場、どんなテンションでも不思議とそのまま受け取れてしまうんですよね。
これがまさしくマジックリアリズムの魔法だと理解しましたが、トトロが住む、神さまが疲れを癒しにくる湯屋がある、そんな国に住んでいる私たちにとってはとても受け入れやすい世界観なのかもしれません。
名著って難しそう、マジックリアリズムってなんやねん、何のことはありません。
Don’t think,feel!!!
カタルシスある長回しの独白
上述したとおり、魅惑的で美しい描写が織り重なり粛々と進行していく物語なのですが、この流れをぶった斬って挿入される、女のブチギレシーンがお気に入りです。
王妃としての教育を受けたのだ、それがどうだろう、変人ぞろいの屋敷で女中奉公をさせられて!夫はなまけ者で、女好きな道楽者ときている、大の字にひっくり返って、棚からぼた餅をねらっているだけだ、ところがこちらは、今にも崩れそうな家を支えるのに、それこそ骨身を削るような思いをしている!朝起きてから夜寝るまで、仕事が山のようにあって、いろいろ不自由な思いをしたり、手を加えたりしなければならない、ベッドにあがるころには、ガラスの粉がはいったように目がチカチカする、それなのに、フェルナンダ、お早う、昨夜はよく眠れたか、と声をかけてくれる者もいない、お義理にでも、きょうは顔色が悪いが、どうしたのか、とか、あるいは起きぬけに、目の下のくまはどうした、とか、聞こうともしない、もっとも、家族のほかの者から、そういう言葉をかけてもらおうと思ってはいない、せいぜい…(続く)
この調子で、なんとあと丸3ページ!続きます笑
メンヘラ長文LINEもびっくりの、全部で約2000字、原稿用紙5枚分の恨み言!
これがもう、最高に笑いました、怒りのパワーって凄まじいですね。
女の人って、うんうんって何でも許してるように見えて、実はぜーんぶ覚えていて、ふとしたきっかけで爆発して、いつも言ってるのにやってくれない、あのときのあれも気に食わなかった、そういうことじゃない、てかなんで…ってなるやつ、もはやあるあるネタですよね。
こういう急な親近感出されると、マジックリアリズムのリアリズムの方にググッと引き付けられて、ファンタジーではなく、人が生きていく物語として味わい深いなあとやられました。
長回しの独白といえば、太宰治の『津軽』で、訪問客のおもてなしでてんやわんやするシーン(約1000字)がこれまた大好きで、フェチなのかもしれません…
「おい、東京のお客さんを連れて来たぞ。とうとう連れて来たぞ。これが、そのれいの太宰って人なんだ。挨拶をせんかい。早く出て来て拝んだらよかろう。ついでに酒だ。いや、酒はもう飲んじゃったんだ。リンゴ酒を持って来い。なんだ、一升しか無いのか。少い!もう二升買って来い。待て。その縁側にかけてある干鱈をむしって、待て、それは金槌でたたいてやわらかくしてから、むしらなくちゃ駄目なものなんだ。待て、そんな手つきじゃいけない、僕がやる。干鱈をたたくには、こんな工合いに、こんな工合いに、あ、痛え、まあ、こんな工合いだ。おい醤油を持って来い。干鱈には醤油をつけなくちゃ駄目だ。コップが一つ、いや二つ足りない。早く持って来い、待て、…(続く)
結局、「孤独」とは何だったのか?
「孤独」という言葉から勝手に「孤高」とか「崇高」とか何やら「静謐」で「理知的」で「繊細」そんなようなことをイメージしていたのですが、読み進めると、あれ?なんか違うっぽいぞと感じてきました。
一族揃いも揃って、男のせいで友情が破綻する、歳の差のある人に憧れる、一度寝てしまえば興味を失う、親に隠れて逢瀬を重ねる、恋愛にかまけて生活を疎かにする、そして、本当に愛する人とは結ばれない。
…そういう「愛の不在」が孤独ってこと?!
いやいや!恋愛脳ちゃんか?しょうもな!!
いや、ちょっと待てよ、この間に民主化革命を起こしたり、村の近代化が進んだり、労働者の権利のためのストを起こしたり、一族主導でたくさんの犠牲を出していたりするんです。
恋愛という卑近なテーマを多く散りばめながら、歴史が繰り返してきた取り返しのつかない悲劇についても同じように思いを馳せて、絶対に忘れてやるもんかという、孤独を描きながらも、孤独に抗う魂の叫びこそがテーマなのか?
求めては失う、まるで波打ち際の砂の城のように決して手に入ることはない、それでも求めずにはいられない、それは一族にかかった呪いではなく、人間に普遍的なものでしょう。
過去はすべてまやかしであること、記憶には帰路がないこと、春は呼び戻すすべのないこと、恋はいかに激しく強くとも、しょせんつかの間のものであることなどを、絶対に忘れぬようにともすすめた。
あーでも、この運命づけられた100年という大きな設定とその閉じられたループを抜け出すという物語上の仕掛けのことを考えると、こんな綺麗事のようなまとめは作者に鼻で笑われてしまうような気がします。
ちょっと、これ以上は手に負えないので、感想はこの辺でおしまい!まとまらず、長文失礼しました。
あ、恋愛描写も可愛くて好きです、しょうもないって言ってごめんなさい。
♪いつでも探しているよ〜どっかに君の姿を〜すぎるやつ置いておきます。
屋敷のなかが恋であふれた。(中略)
あらゆるものに、変身したレメディオスの姿を認めた。午後二時の睡魔をさそう風のなかのレメディオス、薔薇の穏やかな息遣いにつつまれたレメディオス、蛾の浮いた静かな水時計のなかのレメディオス、明け方のパンの匂いにただようレメディオス。いたるところにレメディオスがいた。永遠に変わらぬレメディオスがいた。
『百年の孤独』イマイチ楽しめなかった人へのおすすめ本
と、けっこう頑張って感想書いてみたのですが、正直、これ系だったらこっちの方がハマったな〜と思う作品があったので、イマイチ楽しめなかった、または挫折しちゃったという方、面白かったから似た感じで他にも読んでみたい!という方向けに、似て非なる作品をご紹介します。
『オーランドー』
性を超え時代を超え、自由闊達に人生を愛を求める
悠久の時をマジックリアリズム的な手法で描いたことを特徴とするならば、百年の孤独はそれを一族といういろいろな登場人物を用いて描いており、本作は1人のオーランドーという人物の視点で描かれているという点で異なります。
オーランドーは、300年という時を、ある朝起きたら突然性別が男から女に変わっていたりもしながら、見える景色や体験を通じて、感じて、悩み、考え、自分の人生を主体的に生き続けていきます。
オーランドーがとにかくずっと詩を書くことをやめられない、やめない。
ヴァージニア・ウルフ自身、女性が創作を続けることは簡単ではなかった時代にあえてこういう意志を描いていると思うと、これは格好良すぎる…大好きです。
そして、人間精神最高の歓び、つまり」と深く感動した時の癖で声に出して「瞑想と孤独と愛を満喫するのだ」と言ったのである。
「ああ、女でよかった!」
『カラマーゾフの兄弟』
欲望渦巻く3日間、そこに愛は救いはあるのか?
覚えきれないほど人が出てきて難解な文学といえば、北のカラマーゾフの兄弟、南の百年の孤独、って感じでしょうか、こちらは対比されているのをよく見かけます。
たくさんの登場人物の視点を用いて愛というテーマに挑んだことを特徴とするならば、百年の孤独はそれを100年という過ぎゆく時間の中で描き出しており、本作はたった3日間の出来事を中心にページをかけて登場人物各々の内面を掘り下げていく点で異なります。
宗教的な善悪の価値観など理解が難しいところも多分にありますが、いやあ、それを差し引いても超面白本なんですよ。登場人物みんな違ってみんなダメなのに憎めない、絶対にひとりは推しキャラが見つかるはず。読んだ人が軒並み語彙を失って、いいから読め、とにかく読め、と言うのが本当にその通り…
人生の意味より、人生そのものを愛せ、というわけか?
いずれの作品も、1人の視点であること、3日間のできごとにページを割いて密度が高いことによって、人間の内面をよくよく見つめる、深く掘り下げるスタイルなので、いやでも考えさえられます。
百年の孤独の小話列挙スタイルではあまり各登場人物に感情移入できなかったり思想が読み解けず味気なく感じてしまった方にはおすすめできるかと思います!
存在を感じながら読む、みんなで読もう!のススメ
あーだいぶ長くなっちゃった、ごめんなさい、でも読みきれたのは本当みなさんのおかげなので、最後にみんなと読んだ話だけさせてください。
本好きさんたちの交流と言ったらまず思いつくもの、そう、読書会。
課題図書があって、決まった期間で読んで、感想などをたたかわせる、あれです。
参加してみたいなと思ったことはあっても、そもそも期間内に読み切れるかな?感想言うのに、面白いと思えなかったら、周りのみんなのレベルが高すぎてついていけなかったらどうしよう?てか急に知らん人同士で集まってって緊張…!など、結構ハードル高くないですか?
そこで、「積読サロン」という積読家たちが集まるオンラインコミュニティで、読んでる存在感を出しながら、一緒に読んでいる人たちを感じながら、読了を目指そう!という趣旨で『百年の孤独』をみんなで読んでみることにしました。
「積読サロン」について詳しくはヒカリちゃんの記事をご覧ください!いいまとめ!
まずはこんな感じで、一緒に読んでくれる人がいるかアンケートをとってみました。1人でも「一緒に読み切ろう!」といってくださる方がいたら実行しようとは思っていたのですが…
この時はサロンなんて初めてだし、その中でも初めてこういう企画して、すべってないか心臓ばくばくだったので、たくさんの方が投票してくださって本当に嬉しかった…ありがとうございます😭
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アンケートの結果、ありがたいことに「一緒に読み切ろう!」に投票してくださった方がいたので、『百年の孤独』をみんなで読もう!スレを立ち上げました。
このスレはサロンメンバーであれば誰でもいつでも入退室できるので、いつ読みはじめても、途中でほかの本に浮気しちゃっても、もちろん見るだけでもOK🙆♀️
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スレを見て本買ったよ!という方がいたり
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本屋さんでの定期接触報告をする方がいたり
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ここまで読んだ!なかなか読めてない!読もうと思ったのに!
みなさん、思い思いに百年の孤独と向き合っていて、みんながいる安心感がすごい!
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手に取ることを躊躇する、読むペースがゆっくり、途中で挫折しちゃった、よく分からない、今日こそ読もうと思っていたのに読めなかった、なんだ、本当にみんなそういう日もあるんじゃん!
そう思うと心がちょっと軽くなって、1ページでも読んで書き込みたいなとか、読み終わったらきっとみんな一緒に喜んでくれるぞとか、めちゃめちゃモチベーションになりました。
人が1冊の本を知り、手に取り、買い、読み進め、読み終えるって、そのこと自体がかなりドラマだなと、ちょっと胸が熱くなりました。
ただ、読み終わったら卒業、ちょうさみしい!!!!!
2/28に『族長の秋』の文庫が出るらしいので、カムバックしてもいいですか?
長文駄文失礼しました。
お付き合いいただきありがとうございました。