学生が発案したボードゲームが、探究的な「新しい楽しさ」を教室にもたらした話
「つまんない」「退屈」みたいなことを言っている人間を見ると、「つまんないのはそういうスタンスのあなた自身では???」という言葉が喉元までせり上がってくるわけですが、そんなわたしのモットーのひとつは「おもしろいは『主体性』から」です。「だるいな」と思いながら傑作映画を観させられてもおもしろいわけがなくて、自分が楽しもうとすれば変わり映えしない家までの道だっておもしろくなる余地がある。
もっと言うと、待ってるだけじゃなくて、「楽しいを作りにいく」ことができたら最強なわけで。
そんな前置きで今回ご紹介したいのが、Loohcs高等学院の桐島くんが考案したボードゲーム「キリシマ」がおもしろかったんですよ、というお話。6月くらいにLoohcs高等学院の一部界隈では狂ったようにプレイされては感想戦が交わされていました。今回はそのゲーム性や、それを取り巻くLoohcs生たちの様子についてご紹介します。
「キリシマ」ってどんなゲーム???
ここは卓上遊戯部(ボドゲ部)顧問として、ボードゲーム風に紹介しましょう。
ゲームの基本情報
プレイ人数:3人以上
プレイ時間:30分〜90分
対象年齢:8歳以上(たぶん)
ゲーム概要
島を切り分けて、自分の領土を最大化しよう!島の面積には限りがあるので、時には誰かと領土線を争ったり、時には誰かと結託して大帝国を築かんとしている人の動きを阻止したり……。シンプルなのになぜかクセになる、ありそうだけどたぶんまだこの世にない頭脳戦ゲーム!
準備するもの
3人プレイなら9×9、4人以上プレイなら11×11のマス目の紙
人数分の色の違うマーカー(同系色でないことが好ましい)
ゲームの準備
それぞれのプレイヤーは自分が使うマーカーペンを選ぶ
じゃんけん等なんらかの手段でスタートプレイヤーを決める
ゲームの進行
スタートプレイヤーから時計回りに、マス目の1辺に線を引きます
2巡目以降同様に時計回りで1本ずつ線を引いていきますが、その際プレイヤーは「今まで自分が引いた線とつながる部分」にしか線を引くことができません
順に線を引いていき、これまでにプレイヤーに引かれた線で1マス以上のマスが囲われた場合、その囲われたマスは最後に囲う線を引いたプレイヤーの土地になります
すでにいずれかのプレイヤーが線を引いているところに線を引くことはできません
すでに確定した領土(斜線部分)内に新たに線を引くことはできません
自分が線を引ける場所がなくなったプレイヤーはその時点でプレイ終了です。残りのプレイヤーでゲームを進めます
すべてのマスがいずれかのプレイヤーの領土として確定すればゲーム終了です。ゲーム終了時に、より多くの領土(マス)を獲得しているプレイヤーの勝利となります
おまけtips
プレイ中にプレイヤー間で話をするのはもちろんOK。「我々は1回停戦協定を結んでこの人の侵略を止めに行こう」などの交渉はどんどんしてください
偶数人数でプレイする場合、個人戦ではなく2対2や3対3の団体戦で楽しむこともできます
プレイ熟練度やプレイ人数等に合わせてマス目を7×7にしたり13×13にすることも可能です
以上の通り、ゲームのルールはかなりシンプル。そしてゲーム性としては簡略版囲碁みたいなものです。シンプルすぎて本当にまだこの世にないのかは実はかなり不安です。
いまこうやって振り返ってみると、ゲームそのものがけっこうおもしろいのはもちろんなんですが、このゲームについてつくる側の視点で考え続けていったのがたぶんいちばん楽しかったんですね。
そんなわけで、せっかくなのでその「考え続けた軌跡」も語らせてもらいます。
「キリシマ」がLoohcs高等学院で一世を風靡する(?)ことになるまで
事の始まりは、3限が終わった瞬間に桐島くんが「内野さん!ゲームしましょう!」と目を輝かせながら言ってきたある日のこと。
「着想は⚪︎×ゲームからです。⚪︎×ゲームってクソゲーじゃないですか(笑)。あれもっといい感じにできるんじゃないか?と思って」。そんな風に桐島くんが説明しつつ、桐島くん・非常勤講師の後藤・内野で第1戦。どうやら桐島・後藤はすでにお試しプレイをしていたらしく、内野惨敗。というか1回やって「なるほどこういうことが起こるのか」を理解(ボドゲ1戦目あるある)。わたしは社内会議があったので抜けたけれど、他のボドゲ部の学生がわらわらと集まってきて2戦目3戦目が行われる。
その日の夜、桐島くんのこのメッセージを皮切りに、
おそらくLoohcs学生Slack史上いちばんの(?)激論に。「お互いが最善手を取り続けたら先行勝利になるのか?」「必勝法はあるのか?」から、「マス目を小さくすれば必勝手順の計算方法が考えられるのでは?」「順列的に考えると…」「円順列で考えればよくね!?」「ChatGPTに計算させたいのにChatGPTが全然このゲームを理解してくれない…」「2×2マスでさえ本当にこれが最善手だと言い切れる…?」等々。
結局この日は結論は出ずじまい(プログラミングができれば…!と心底思った夜、とはいえ日常で「円順列」を考えることになったのはなんて素敵な学びの機会なんだ)。
次の日から、ゲームを実際にプレイしながら、「どういう戦略を定石とすべきか?」「プレイ人数やマス目の数の最適な値はどこにあるのか?」「団体戦以外にどんな追加ルールがありうるか?」などをひたすら模索する日々。
なお、すでに定説となったものを1つご紹介すると、「緩衝国になると負ける」。両サイド(なんなら四方八方)からの侵攻に対して基本後手後手の対応になっていくからです。つまり、いかにいい感じに端のマスのできるだけ多くを自分の領土として「事実上の確定」をさせつつ、最前線で敵と戦うか、が大事なわけです。
また、考察としておもしろかったものを紹介すると、有名ゲームで言えばカタンのように「初期配置」がけっこう大事だという話。初期配置で何が決定してしまうかと言うと、「誰と領土争いをすることになるのか」ということです。必然的に、自分の線の近くに線を引いた人とバチバチに争うことになります。
そして「誰と領土争いをすることになるのか」の大事さをもっと正確に言うと、「こいつ、俺と戦う気だな!?やってやんよ!」と多数から思われすぎてしまうと、全員からヘイトを食らい全方面からの侵略を受けやすくなるのです。なので初期配置においては、「そんなわたし好戦的じゃありませんよ(^^)穏便に楽しくやりましょ(^^)」みたいな顔をして攻めすぎない目立ちすぎない位置に置くのがよかったりするわけです。
「緩衝国」だとか「攻めすぎない外交姿勢」だとか、めっちゃ「社会」を感じる〜〜。
ゲーム性の話はこの程度にとどめておいて、話を戻す(?)と、まぁこんなことを延々議論しながら毎日のように遊んでいたわけです。
ある日、そんな様子にふと気づいたLoohcs社代表の嶺井。「ついにボドゲ部は紙とペンさえあれば良くなったんだね」と笑いながら近くに座ったので、「これおもしろいんですよ!」と桐島くんがプレゼン。「へ〜!簡略版囲碁じゃん」と、実は囲碁けっこう好きな嶺井。
それはそうと、いいかげんこのゲームの名前決めたいよね?という話題に。「元々『帝国主義ゲーム』って言ってたけどあれボツなの?」「今は『世界分割ゲーム』がいいんじゃないかと思ってるんですけど…」なんて言っていると、横から嶺井。
「『キリシマ』でいいんじゃないの?『島を切る』と、制作者・桐島のWミーニングで」
わ、うわ〜〜〜〜〜!!!!!すごい〜〜〜!!!!それだ〜〜〜!!!と、厨二心まんてんの男子高校生2人+内野は大盛り上がり。そんなわけで『キリシマ』に決定。
それ以降、桐島くんを呼んでるのか『キリシマ』のことを指しているのか混乱が生じたのは当然のご愛嬌なのでした。
ブームは過ぎても熱は続く
ここまでの書き方で察した方もいるとは思いますが、最近はめっきりプレイされなくなってしまった「キリシマ」。Loohcs生、爆流行りした後めっきりやらなくなりがち。
ちなみに桐島くんはこのゲームをアプリ化しようと、ChatGPTと協働しながらがんばってプログラムを書いていたんですが、人間にはわりとシンプルに思えるこのルール、命令しようとすると意外に難しい。あちらが実装できるとこちらがバグる…!を繰り返し、いまは休止中(ということにしておこう)。
とはいえ、「ゲーム性をちゃんと考えるの楽しい」「ボドゲつくってみたい」といった熱がボドゲ部コアメンバーには巻き起こったので、新作ボドゲをつくることを視野に入れながら、ボドゲについて真面目に研究しようということに。
特に、ボドゲ部コアメンバーには「ゲーム性をめちゃくちゃ考え抜きたいタイプ」と「ボドゲのデザイン周りにけっこう関心があるタイプ」がいい感じに分かれているので、多角的に研究できそうな予感。
ちなみに前回第1回会議を行い、とりあえず論点出しをしまくりつついろいろ調べていたところ、こんな本を見つけました。
我々が知りたかったことこの本にあるやん〜〜〜〜!!!!と、即買い。
1章分だけ先に読んだんですが、参照されているボドゲの数が多過ぎて、知らないボドゲが多過ぎて震えました。全部プレイしたい、、、
紙とペンさえあれば1日中遊んでいられる人間になりたいね
昨今は、ぼーっとYouTubeショートなりTikTokなりTwitterなりを眺めていたら1日が終わるなんて過ごし方も可能になりましたし、わたしも疲れているときはついそんな風に時間を溶かしてしまったりするわけですが、エサを待つ魚みたいに口を開けてコンテンツを待っている側よりも、そのへんにあるもので釣竿を作ろうとする側の人間でありたい、というかなんなら釣りよりおもしろいこと爆誕させる人間でありたい、とわたしは思うわけです。
そしてそんなつくる・生み出す楽しさを学生には知ってほしいし、あわよくばつくれるようになってほしい。そんなことを思いながら、学生と楽しく遊んだりおしゃべりしたりしている毎日です。
「キリシマ」は、制作者の桐島くんはもちろん、連日プレイしては「これだとゲームバランス的に微妙だな〜〜」「こういうルール加えてみるとどうなるかな?」と一緒に考え抜いて試行錯誤した面々にとっても、「つくる・生み出す楽しさ」側の思考に回れたとってもいい機会だったと思います。これはきっと「同級生がつくったまだ発展途上のゲーム」だったからこそ生まれた楽しさで、今まで既存のボードゲームをする中にはなかった楽しさだったのではないでしょうか。
そんなわけで、興味のある方はぜひ「キリシマ」で遊んでみてくださいね!そしてご助言ご提案あれば何なりと!そしてそして、今後ボドゲ部が何を見出していくのかにもちょっとご期待くださいませ。
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