『世界でいちばん透きとおった物語』の感想と体験型の物語の話
年の暮れに杉井光さんの『世界でいちばん透きとおった物語』を勧められたので読んだ。
読む前の情報では「電子書籍化不可能」みたいな触れ込みぐらい。タイトルとか書影の印象はあんまり普段読まない感じだなと思ったので、勧められなければおそらく読まなかった。
普段読まない感じ、というのは登場人物の死と感動が近すぎる位置にあるタイプの物語で、なんとなく食傷気味。このタイプは逆に恋愛小説のほうが一周回って色々やってくるので読めるが、他ジャンルで最初から匂わせられるとがっくりする。
そんな感じで読み始めたので、年上のお姉さんのことを好きな青年が主人公で嬉しかった。年上というのが良い。これで同い年の女の子と二人で支え合う話であったならば挫折していたかもしれない。お姉さんも主人公大好きというよりは本大好きだし。
本の仕掛けについては章変わりのタイミングで見開きページが必ず左側になっていて違和感があったので、タイトルも合わさって事前に気付けた。すごいと思うし、実際に凄いんだけど、なんでこの凄さをみんなが分かるんだろうという気持ちにはなった。みんな思ったより原稿用紙で文章をかいているんだろうか。
それに、電子書籍化不可能というが、電子書籍で同じことをしたとしても凄さは変わらないのではないかと思ってしまった。
あと、最後の『』の中も本文で欲しかったなと欲も少しある。
他人の感想を見ると、感動したという話が多い。が、実際のところは最後に書かれていた通りで、父親は思いついたことを実践してみたかったというところが大きいように思う。
きれいな思い出が主人公にとって必要なのであれば、愛していたからになるだろうし、今後小説家としてやっていくならば、大御所小説家の最後の作品に対する執念に胸打たれるのもよし、みたいなところだろうか。私は前述の通りむやみに感動したくないので後者である。
物語の面白さというよりは仕掛けの凄さ、みたいなところに力が入ってるのでその点で物足りなかった感が大きい。とはいえ普段本を読まない人が読んで話題になるのはこういった体験的なところの工夫が大きいと思うのでその点では話題作になって当然の作品だと思う。
『仕掛けの面白さ』に注力した作品は近年増えてきて、もはや小説の枠組みを飛び越え、体験に寄ったものも見られる。
最近読んだ中では道尾秀介の『きこえる』はQRコードを読み込むとYoutubeのリンクが開く。流れる音声を聴き、小説本編を読むことで物語が体験できるという仕掛けだ。こちらはさすが道尾秀介ということで仕掛け自体は誰にでも出来そうなアイディアだが、物語の面白さと体験としての没入感は凄まじい。
非電源ゲーム、脱出ゲーム、去年話題になった『人の財布』にVRもそうだろうか。第三人称で観る物語より手で触れる物語に注目が集まって、作家も試行錯誤しているように思えた年の瀬だった。
最後にオススメしてくれた友人には感謝とこんな偉そうな感想でごめんと謝っておく。スマン。ありがとう。