手品界隈向けに(安価な)おすすめ動画撮影用カメラ・レンズ・周辺機器を考える
前置き
自分の趣味の一つに手品がある。
最近は演じる機会が減ってしまったが、今も練習もアイデア出しも続けている。
だからこそ分かる。記録というのは大事だ。
記録することで自分の成長やアイデアを見返すことができるし、それが自らの糧になる。難しい技法だって、未来の自分がモノにすることだってある。
そんな記録について、最も手軽で確実なのは動画であろう。
もちろんメンタル系は例外だろうが、多くは動画で事足りるはずだ。
現に大勢のマジシャンが動画でアイデアを撮り、そしてSNSで公開している。
更に最近は、そのアイデアをマジックマーケットやBOOTHで売り買いするのも盛んだ。
もはやプロアマ問わず動画でアイデアを発表したりセルフプロモーションするのは一般的となっており、動画のクオリティも高ければ高いほどよい。
一方で、スマートフォンでの撮影が殆どでありカメラ人口というのが少ないように感じる。
個人の作品集でもスマートフォンでの撮影で済ませる人は多い。最近のスマートフォンは性能がよく、動画も綺麗に撮影できるが、撮影環境によっては非常に画質が悪くなる。
また、スマートフォンを動画撮影に酷使するのはバッテリーの劣化を早めるため、頻繫に買い替える人を除きお勧めはしない。
最近のレンズ交換式カメラは動画性能が重視されており、劣悪な環境での撮影であっても画質・高感度耐性がスマートフォンよりも優れている。また、操作性や設定の追い込みが容易で、結果として動画のクオリティは格段に上がるはずだ。
もちろんカメラは高額なものが大半であり、どのカメラを買えばいいかわからないと感じる人は多いかと思われる。下手をすればスマートフォンの方が画質が良かった、という失敗をすることもある。
そこで今回の記事では、手品界隈のカメラに疎い人々に対して、おすすめ機材を紹介する。
※下記内容は"比較的"安価に済ます人向けであり、潤沢な資金がある方々はお好きなメーカーの動画に優れたカメラを購入すれば良いかと思う
照明機材・三脚(撮影環境の整備)
まず、撮影環境を整えることから始めるべきだ。照明と構図さえキチンとすればスマートフォンでも動画のクオリティが格段に上がるのだ。
照明機材
スマートフォンは撮像素子の小ささから暗所耐性が弱い(ノイズが目立つ)。最近は静止画で改善がみられる(夜景モード)が、動画撮影は今もなお画期的な改善はできていない。 なので、まず照明環境を改善することをお勧めする(有名な定常光はGODOX SL-60Wだが、種類は多いため予算に合わせて購入するのがいいだろう。また、明るければいいので日中に窓際で撮影してもある程度綺麗に撮影できる)。
三脚
カメラ位置を調整できる道具として三脚が最適だ。外で使う予定がなければ安い三脚で問題ないが、自分の用途に合わせて高さ・大きさを吟味する必要がある(卓上ならポータブルミニ三脚、地面に置くなら平均身長程度まで伸びる三脚が便利。ただし高さや角度調整できないものは避けるのが無難)。
その他背景幕やテーブル・服装等、撮影環境が整えば動画のクオリティは格段に上がる。スマートフォンの撮影に留めるならば撮影環境の整備のみでもよく、それ以上の画質を求める又はカメラを導入したいならば下記も参考頂きたい。
カメラ(ボディ)
動画の画質はカメラ性能に依存する。カメラはレンズに金をかけろと言われるが、動画撮影についてはカメラボディの方を重視した方がいい。
では具体的な選び方を見ていこう。
選び方
・メーカー
ペンタックス以外がいい。各メーカーで得意不得意がある中で、ペンタックスは動画性能をそこまで重視していないのだ(K-1 mark IIの仕様を見てもビットレートを記載していないところを見ると、オマケ程度にしか考えていないことが判る)。
動画AFを使うならばCanonかSONY、MFで十分ならば他のFUJIFILM、Nikon、OM-D、LUMIXも候補に上がる。こだわりが無ければ市場の在庫とスペックで決めるとよい。
・解像度とフレームレート
最低限FHD60p、できれば4K60pが望ましい。"FHD"・"4K"は解像度のことであり、今の手品界隈の動画の大半はFHDだが、将来的に4Kに移行することが考えられる。"60p"とはフレームレートのことであり、1秒間に60コマの静止画で動画を撮るということだ。私見であるが、手品は動き物であると考えた方がよく、24~30pでは野暮ったい動画になりがちだ。
・ビットレート
画質は1秒間あたりのデータ量(bps)から大よその良し悪しを判断できる。動画に力を入れているカメラは仕様に記載されているので、絶対にチェックすること。
・新品or中古
新品はもちろん安心だが、ロングセラー以外はさっさとディスコンにする傾向があるため、値下がりはあまり期待できない。少しでも安く買うならキャッシュバックキャンペーンを活用するのがいいだろう。
一方、中古はランク付けされており、難有り品でなければ撮影に支障はないだろう。もちろんショップによってランクの付け方が異なるため、風評は確認すべし。Amazonやメルカリは博打(Amazon中古でハズレを引いた経験がある)なので、マップカメラがオススメだ。
以上のことに気を付けて購入すれば問題ない。
次に、今まで自分が購入したもの・触ったもの・youtube等で確認したものを参考にカメラを紹介する。2023年6月現在の相場を見つつ、予算別に記載した。
1万円台
この価格帯は10年前の機種がザラであり、動画性能はFHD30pが限界である。画質はスマホにやや劣ることが多いが、レンズを活かしたボケの表現は可能なので、お試しは自己責任でどうぞ。
たまーにジャンク品や難有り品だが問題なく動画撮影できる上位機種がこの価格帯で売られている。
(中古)
・LUMIX G3
今となっては動画性能は並以下だが、ほぼ1万円で入手できる。何気にバリアングル液晶搭載だがHDMI出力でのリアルタイム確認は不可。ハックファームを適用すればbpsを上げることができる。
・EOS 60D
1万円台後半~2万円前半で購入できる。一眼レフであるがwebカメラとして使用でき(720pのみ)、バリアングル液晶搭載。LUMIX G3と同等程度の画質で撮れる。
・D5100
1万円台中~後半で購入できる。動画性能は上記より下(恐らくbpsが上2機種の1/2)。バリアングル液晶搭載であるが、動画性能はオマケ程度。
(新品)
なし。この価格帯だと中華メーカーのドライブレコーダーをカメラ風にしたものしか売っていない。それを買うくらいならwebカメラを導入した方が明らかに便利だし、そもそもスマホの方がいい。
2~5万円
カメラ入門として入りやすい価格帯であり、かつては多くのエントリー機が売られていた。中古市場では数年前に発売されたミラーレス一眼の中級機がこの価格帯に落ち着いており、4K30p/FHD60pを搭載する機種が多く狙い目となっている。なお数年前の機種だと動画AFは発展途上であるため、あまり期待はしない方がいい。
(中古)
・GH4
名高きGH5の一世代前の機種であるGH4は、4K動画を内部収録できるカメラとして一世を風靡した。9年前のカメラだが熱停止しない、Log撮影可能、等と動画性能で悪い噂は聞かない。詳しくはこちら。
・E-M5 Mark II
自分が買ったのはE-M1 Mark IIであるが、FHD60pのbpsは同じ(約50Mbps)であり、この条件ではほぼ画質の変化はないためその印象で紹介する。オリンパスの動画は画質は悪くない、ただし他社よりAF等に力を入れていない(特にAF-C)ので注意。また、E-M5 mark IIは4K動画を撮影できないため、ある程度の割り切りは必要だ。
(新品)
なし。数年前はLUMIX GX7mk2, GF9やFUJIFILM X-A5等のエントリー機がこの価格帯にあり、FHD60pであれば問題なく撮影できる性能が備わっていた。なお現在はスマホに需要を奪われたのか、この価格帯で新製品が出ることは稀。
5~10万円
「レンズ込みで10万円以内で揃えたいな~」と考えている人は多いであろうが、この価格帯は動画機として中途半端なものが多い。エントリー向けよりも上位機種であるが、10万円+αでより良い機種が大量にあるため、もう少しお金を出してもいいんじゃない?となる。
(中古)
・GH5
4K60p対応・記録時間制限なしというYouTuberの長回しにも対応した動画機。より性能向上したGH5sやGH5IIもあるが、GH5で十分通用する。
・Z50
…触ったことがないのだが、案外動画のスペックは悪くなかったので上げておく。4K30p、FHD120pまで対応し、その他フレームレートの細かな設定も可能である。しかもNikon自身が動画撮影をアピールしているという珍しい機種。ただし液晶が下向きにひっくり返るので、三脚を立てた状態で確認するのはちと難しい。
(新品)
・EOS R50
比較的新しい機種で4K30p、FHD120pまで対応し、動画AFが最新式なのに10万円を切るというCanonの底力を感じる機種。動画のビットレートもFHD60pで100Mbpsに迫る非常にコスパのよいカメラだ。使ったことはないけど。
・ZV-E10
Vlogカメラ。発売当初はSONYのカメラがこの値段で買える!しかも動画特化!というので話題になったが、今はCanon機の新機種もあり妥当な評価に落ち着いた。あと動き物を撮る時に歪みが出やすい(ローリングシャッター)のだが、気にする人はカメラ界隈だけという説。
10万円台
この価格帯になると4K30p,FHD60pは当然として、4K60pも狙える。更にはフルサイズ機や新品にも手を出せるので、求めている性能を優先して購入すればOK。数が非常に多いので、下記は個人的オススメを記載する。
(中古)
・X-T4
4K60p、FHD240p対応。バリアングル液晶、Log撮影搭載。ビットレートは高く、画質も綺麗。自分のメインカメラであり、発売から3年経った今も現役で使っている。一世代前のX-T3も高性能なカメラなのでオススメ。
(新品)
・α6400
4K30p、FHD120p対応。記録時間制限がないので長回しが可能であり、SONYの色の出方に不満がなければ最適。なおビットレートは普通。
・Z fc
4K30p、FHD120p対応。オールドファッションなカメラだが、バリアングル液晶を搭載しており動画撮影にも使える。値段もそこそこ安い。ビットレートはα6400よりも少しだけ高い。
・LUMIX G9
4K60p対応。新品かつこの値段(約10万円)でこの性能は破格。ビットレートだけ見ると少し物足りないかもしれないが、そこは価格と相談だろう。
・LUMIX S5
4K60p、FHD180p、フルサイズミラーレス一眼かつ高い動画性能を誇る割に割安。やっぱAF方式が問題なのかな…動画で使わなければ画質は良さそうなスペックを持っているのに。
・EOS RP
フルサイズミラーレス一眼の新品で最安。最近のCanonは新機種を出し過ぎてこいつの影が薄くなっているが、十分な性能と破格の安さを誇るカメラであろう。
・EOS R7,R10
被写体認識AF搭載、4K60p、バリアングル液晶。これ以上何を求めるんだと言わんばかりに機能を詰め込んだカメラ。流石はCanonだが、細かい部分で部品をケチるのは仕方ないね。
20万円以上
省略。もうね、この価格帯に手を出せる貴方はこの記事を見る必要はないよ。ヨドバシカメラで店員さんに聞けば解決するよ。一つアドバイスをするならば、カメラはレンズがないと使えないからね。
ということで、自分のある程度知っているカメラを紹介した。ある程度候補を決めたら、レンズの選定に移ろう。
レンズ
レンズは各メーカー独自のマウント(規格)があり、基本的に他社メーカーのレンズは使えない。。。というのは一般的な説明で、SIGMAやTamorn等のサードパーティー製品や中華メーカー、果ては一眼レフカメラ時代のレンズをアダプターを介して装着することも可能だ。AFを捨てればいくらでも安く揃えることができるし、ハードオフでレンズを拾ってきても撮影できる。動画撮影では写真用途ほど高解像度の必要がなく、更に手品を定点カメラで撮影するならばAFを駆使せずとも大丈夫。下記に選び方や探し方を紹介するのでよくよく考えて購入しよう。
選び方
・カメラに合ったマウントを選ぶ
カメラとレンズを装着する部分はメーカー毎に規格化されており、他社のレンズは(基本的には)付かない。アダプターを使うにしても、買ったカメラのマウント(Z,F,EF,RF,E,XF,L,M4/3マウントなど)を確認し、それに合わせてレンズやアダプターを選ぶ必要がある。
・焦点距離は35mm以下(35mm換算)
アダプター卓上三脚を使って手品動画を撮影するならば、焦点距離はフルサイズ換算で35mm程度がおさまりが良い。もちろんカメラのセンサ―サイズにより焦点距離に対する画角が異なるが、大よそ下記の通りだ。
-フルサイズ+焦点距離35mm
-APS-C+焦点距離23mm
-m4/3+焦点距離17mm
・予算の許す限り小さいF値のレンズを買う
F値とは「焦点距離/レンズ口径」の逆数である。F値が小さいほど光を取り込む能力が高く、結果ノイズの少ない動画を撮影できる。ただしピントの合う範囲(被写界深度)が狭くなるので、レンズにはF値を調節できる絞り機構がある。手品動画を撮る際は被写界深度を考えながら、出来るだけノイズが乗らず、ピントも外さない設定をする必要がある。ま、ぶっちゃけF8まで絞ればピントはほぼ外さないし安いレンズでも画質は良くなるので必須ではないですヨ。
・最短撮影距離が遠すぎないレンズにする
最短撮影距離とは、センサーからピントの合う最短距離である。これが70cmだと卓上で撮影できねえ!となることが多い。最近のレンズはそこまで遠いことは少ないが、ライカMマウントレンズ系統はちと遠い。余談だがジャンク品で拾ってきたレンズは最短撮影距離が2mだったことがあり、卓上撮影用レンズとして使えなかったことがあった。
最安を攻める(中華レンズ、マウントアダプター、ジャンク品)
F値を8くらいまで上げるとレンズの中心部分のみ使うことになり、どんなレンズであろうと画質は向上する。なので、
・中華レンズ(七工匠、TTArtisan、Pergear、他)
・他マウント用レンズ(オールドレンズ・一眼レフカメラ用レンズ)とマウントアダプター
を使えば、数千円~2万円には収まるだろう。ちなみに経験上最安値はCCTVレンズだが、あまりにも周辺画質が酷かった(F値を上げても画質は改善しなかった)。
また、多少のカビや傷、ホコリ、コーティング剥がれ等があっても実はあまり映りに影響しない。なのでハードオフで適当なジャンクレンズを買ってきても使うことができる。ただし曇りレンズ、てめーはダメだ。
さらに、F値を小さくしてもまずまずの画質を得られる場合もある。その時は背景ボケを使ってカメラ特有の表現に挑戦しよう。
AFが使いたいなら純正orサードパーティー
ジャンク遊びは程々にしましょう。せっかく高い買い物をしたんだから、ちゃんとしたレンズで撮影したい!というのは至極真っ当な感性です。
先ほども触れた通り、レンズ内の多少のホコリは映りにほぼ影響しない。なので、選び方に気を付けながらマップカメラで中古(並品でもOK)を漁れば解決する。潔癖な方は新品か美品をどうぞ。
周辺機器
・SDカード
撮影するビットレートに合わせてSDカードのグレードを変える必要がある。100Mbps=12.5MB/sであり、書き込み速度のクラスを確認してから購入すること。
・HDMIケーブル、外部モニター
バリアングル液晶が搭載されていないカメラを購入してしまっても、外部モニターを導入すれば自分の演技を確認することができる。多少嵩張るが、自宅で撮影するのであればむしろこちらの方が視認性がよい。
・マイク
音を使うならば、カメラの内臓マイクに頼らず外付けのマイクを使うと良いだろう。なお距離があるとマイク性能がガクッと落ちるため、マイクは近くにセットした方がベター。
まとめ
思い付きで書き始めたら止まらなくなり、まさかの長文記事になってしまった。反省。
ということで、分かりやすいように本記事のポイントを箇条書きで列挙する。
・まず揃えるべきは照明機材と三脚。
・カメラの動画性能で注意すべきは解像度とフレームレート、そしてビットレート。お勧めは4K60p(150Mbps以上)かFHD60p(50Mbps以上)。
・レンズは安いのでOK。中古品を漁るのは信頼できるサイトで。
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