水、米、技の三位一体、道北の注目蔵元
◉新天地で醸(かも)す酒
さて、今年も夏を迎えて、北海道旅行にうってつけのシーズンになってきました。
お酒好きの皆さんにとっては、旅先での「酒蔵めぐり」ほど心弾む旅程はないのではないかと推察しますが、かく言う私も蔵元を訪ねては「フムフム」とうなずきつつ蔵の設備や展示物を眺めたり、直営ショップで財布のヒモがゆるゆるになったりしてしまうタチでございます。
だって『ここでしか買えない「蔵元限定酒」』『この時期だけの搾りたて生原酒(数量限定)』といったポップを見てしまうと、これはどうしたってレジに持っていかざるを得ませんよね。
そこで今回は、北海道最高峰の旭岳(標高2291m)を擁する大雪山山系のふもとという、絶好の環境で酒造りに取り組む三千櫻酒造さんをご紹介します(以下、さん付け略)。皆さまの酒蔵ツーリズムの参考になれば幸いです。
大好評発売中の拙著『ほっかいどう地酒ラベルグラフィティー』の取材で2023年におじゃまして以来、道北エリアを訪ねた際にはちょくちょく立ち寄ってきましたが(隙あらばPR)、東川町は周りが広々とした田畑に囲まれた、とにかく気持ちのいい環境なんですね。
そして何と言っても、蔵元杜氏であり六代目の山田耕司さんが醸す酒が、すこぶるうまい!
大雪山の地下で磨かれた雪解け水の伏流水と、地元の農家さんが三千櫻のために生産している酒米「彗星」や「きたしずく」などを用いた酒の数々は、まさに手練れの名品。さらにちょっとした変わり種(完熟バナナの酵母で仕込んだ酒?!)なんかもリリースしていて、日本酒というお酒の懐の広さを教えてくれます。
縦長のすっきりしたデザインのラベルは、酒米の種類と磨き具合が一目でわかる仕様で統一されていて、店頭でも目立ちます。ちなみにこのラベルのシリーズは、令和2(2020)年に岐阜県中津川市から北海道上川郡東川町へ、蔵ごと移転してきたタイミングで刷新したもの。ということで次章では、大胆な決断で新天地を目指すことになった歩みを紹介します。
◉いざ岐阜から北海道へ!
明治時代の開拓期、北海道には全国各地からたくさんの移住者がやってきました。青雲の志を抱いた彼ら彼女らが官民にわたってさまざまな新規事業を立ち上げ、それが地域の経済やインフラの発展につながっていった、という側面があります。
ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝さんが余市に蒸溜所を設けたストーリーなんかがイメージしやすいでしょうか。
歴史的には「炭鉄港」の発展に合わせて労働者が増え→それにつれてさまざま産業が興(おこ)り、徐々に地方に伝播してそれぞれの町が築かれていく――という大きな流れが見えてくるわけですが、実はこの(新天地を目指す人たちをどんどん受け入れる)Welcome的な気質は、さまざまなジャンルで今も踏襲されています。
酒造事業を例にとると、道内では各地にクラフトビールやワイン、ウイスキー、ジンの醸造場・蒸留所が続々と立ち上がっています。明治のころと同様に、原料の産地としてのポテンシャルも高い北海道の可能性にチャンスを見出している酒造家・実業家が多いのではないか、と個人的には考えています。Boys be ambitious!!
三千櫻酒造は、明治10(1877)年に岐阜県中津川市で創業。2024年現在で創業147年を数える老舗ですが、現当主の山田さんいわく、土蔵造りの蔵の老朽化と温暖化に悩まされていたとのこと。昔ながらの寒造りを行う場合、温度の管理は品質に直結する大問題です。
その打開策として、東川町が公募していた公設民営型酒蔵に立候補。「三千櫻」のブランドと技術、そしてご家族を伴い、約1550kmの距離を超えて移転を敢行し、まったく新しい環境での酒造りに取り組むことになりました。
コンパクトで機能的な酒蔵(ハード面)は東川町が用意し、三千櫻酒造がソフト面を担うという行政との二人三脚スタイルで、令和2(2020)年から酒造に着手。「不安はなかったのかなあ」と思いますが、かつてはメキシコで酒造りを指導した経験もあるという山田さんは「どんな環境でも酒は造れる!」という経験と技術に裏打ちされた確かな自信をお持ちなのかな、と感じました(私の個人的な感触です)。
そして何と言っても、東川町は道内でも屈指の水と米に恵まれた町なんですね。
◉水と米の町・東川町
北海道には179の市町村があります。
人口200万人に迫る札幌への一極集中が著しいところですが、一方で東川町は「街の住みここちランキング(自治体)」で連続1位を獲得するなど、移住先として大人気&実際に人口が増え続けている稀有なエリアとしても知られています(人口は2020年で約8600人)。
その理由は、訪ねてみると一目瞭然。
環境がいい! 良すぎ! 暮らしたい!(ライターの仕事があれば)
まず特筆したいポイントが、東川町は北海道内では唯一「上水道がない町」であること。どういうことかというと、町民の皆さんは大雪山の地下でじっくり磨かれた雪解け水の100%地下水を生活用水として使用しているんですね。
すごくないですか? いいなー。
酒造りでは洗米から仕込みまで、トン単位の大量の水が必要になるわけですが、三千櫻にとってもこの水源は大きなアドバンテージになっていることでしょう。
また、この一帯は、高品質な道産米の産地としても知られているエリアです。
三千櫻で使用する酒造好適米「彗星」や「きたしずく」も、地元JAの全面協力のもと、専用に作付けされているとのこと。
水と米、そして酒造りの技。
この三位一体で誕生した「東川町の地酒」は、みるみるうちに高評価を獲得。
移転から4年あまりで、道産酒としての存在感を大いに発揮しています。
また東川町は、30周年を迎えた「写真甲子園」をはじめ、赤ちゃんに椅子をプレゼントする「君の椅子プロジェクト」など、地に足のついた町づくりに継続して取り組んでいる自治体でもあります。
◉アクセス
東川町は旭川市の隣町。JR旭川駅からは車で約30分。
旭川空港からは車で約15分。
札幌からなら道央自動車道(高速道路)を使って約2時間。旭川ICで降りて30分ほどです。
三千櫻酒造株式会社
北海道上川郡東川町西2号北23番地
TEL 0166-82-6631
ショップ営業時間 10:00~15:00
月・火曜定休
※営業日・定休は要確認
道北周辺の酒蔵をめぐるなら、移動手段は自動車一択。
北海道外からお越しの皆さんはレンタカーが安定です。
以上、三千櫻酒造の紹介でした。
◉おまけ(近隣の立ち寄りスポット)
道の駅ひがしかわ「道草館」
上川郡東川町東町1丁目1-15(道道旭川旭岳温泉線沿い)
TEL 0166-68-4777
開館時間 9:00~18:00(4月~9月)、9:00~17:00(10月~3月)
休館日 年末年始(12/31~1/4)
モンベル 大雪ひがしかわ店
北海道上川郡東川町東町1丁目2-2
TEL 0166-82-6120
営業時間 9:00~19:00
定休日 年中無休
駐車場 あり(無料)
キトウシの森 きとろん
北海道上川郡東川町西4号北46番地
TEL 0166-82-7010
温浴10:00~22:00(最終受付 20:30)
休館日 水曜
リニューアルしたばかりのきれいな施設で、最新鋭のサウナと東川町の町並みが一望できる露天風呂の気持ちよさは最高! 車に入浴道具を一式搭載している私も、取材の帰りに思わず立ち寄ってしまいましたが、存分にリラックスできました。
ああ、今回も長くなってしまった。。
最後までご覧いただいた皆さま、ありがとうございました。
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