触れないこと、触れそこなうこと―絲山秋子『海の仙人』
宝くじに当選したら、どうしようか? 他言してはいけない、とか、会社を辞めてはいけない、というのはよく言われる。この物語の主人公は、一つ目をほぼ守り、二つ目を大胆に破る。そのせいかはわからないが、物語のさなか、恋人に死なれたり、落雷に撃たれたり、手ひどく痛めつけられる。
デパートで働く河野は宝くじで1等が当たり、会社を辞め、海の美しい敦賀で悠々自適の暮らしを謳歌している。そこにあたかも旧友のごとく自然さで「ファンタジー」と名乗る役に立たない神様が現れ、彼に恋する2人の女性