[書評]市川沙央『ハンチバック』
経験を言葉にすること、それはその細部において他人には計り知れないほどの重みを持つ。多かれ少なかれ、それは文章を理解しながら進んでいかなければならない「読む」ことの行為者を圧迫する。ときに「訴求力」と呼ばれるその圧力に、この作品に関しては、作者も拉がれているのだ。
難病を抱える40代女性の視点をとって描かれる今作は、現実世界と、ネットにおける描写が混在する。現実において描かれる細部から、彼女が背負うものが否応なく立ちあがる。腹のタオルケット、人工呼吸器、痰の吸引カテー