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失うことの痛み。過去という痛苦。「時」はそれを無暗に癒やしてしまうのだろうか。そして、その治癒は果たして「正しい」のだろうか。 漱石の「硝子戸の中」(1915連載)に興味深い述懐が眼を惹いた。それは或る女の悲痛な生きるのもつらい、という恋愛の記憶を聞く場面。語り手は「もし生きているのが苦痛なら死んだら好いでしょう」という言葉を思いつくも、それを引っ込める。現代から見てもその解決策はあまりにも投げやりで、相手を無暗に傷つける。この特異な二項対立、生きるか死ぬか、という使い古