チューリングの名誉回復!
2009年8月、コンピュータ科学者のジョン・グラハム=カミングは、過去にアラン・チューリングを「同性愛」のために処罰した事実に対して、イギリス政府に「謝罪」を求める請願活動を開始した。
グラハム=カミングは、ブレッチリー・パークのイギリス情報局で第2次大戦中にチューリングが「エニグマ」暗号を解読した際の資料を調べているうちに、ナチス・ドイツから世界を救った「国家的英雄」のチューリングが受けた屈辱に対して「憤怒(mad)」の感情を覚えたと述べている。
彼の活動は、瞬く間に多くの賛同を得て、2009年9月1日時点で嘆願サイトへの署名は19,000を超えた。その中には、宇宙物理学者スティーブン・ホーキングや進化生物学者リチャード・ドーキンスといった学者や著名人も多く含まれていた。
署名が30,805に膨れ上がった10日後の2009年9月10日、 当時のイギリスのゴードン・ブラウン首相は、「チューリングは、過去の法律に則って裁かれた。我々は、時計の針を戻すことはできないが、彼に対する処罰が完全に不当であったことを認め、ここに深く遺憾の意を表明する」と、イギリス政府として正式に「謝罪」を表明した。
ブラウン首相は、「アランのおかげで自由に生活しているすべての人々を代表して、『すまなかった。あなたは真の賞賛に値する人だ』と宣言できることを、誇りに思う」と述べている。
イギリス貴族院には、チューリングの「恩赦」を嘆願する議案が提出された。そして、2013年12月24日、エリザベス女王の名において「恩赦」が発効し、チューリングは晴れて「無罪」となった。
イギリスの「恩赦」は、実際には無実であることが判明したか、遺族からの訴えがなければ与えられないのが普通である。どちらのケースにも該当しないチューリングの「恩赦」は、前例のない特別な「名誉回復」となった。
チューリングの新£50紙幣
2019年7月15日、 イギリス銀行のマーク・カーニー総裁は、新50ポンド紙幣にチューリングの肖像が用いられることを発表した。
そして、チューリングの生誕109周年を迎えた2021年6月23日、新50ポンド紙幣が誕生した。表にエリザベス女王、裏にチューリングの肖像がある。
もしチューリングが過去の「異様な偏見」に基づく刑罰を受けることなく、41歳の若さで自殺などしていなければ、その後の科学界にどれだけ貢献したことか、想像することもできない!
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