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バイオエラーとバイオテロの可能性!

『ワイヤード』の賭け

イギリスの雑誌『ワイヤード』の2002年特集企画で、「2020年までに、100万人規模の死者を出すようなバイオエラーやバイオテロが起こる」という予測に対して、「イエス」か「ノー」かの賭けが行われた。読者だったら、どちらに賭けるだろうか?

科学の脅威

次のディスカッションは、私が2012年に上梓した『感性の限界』の「第3章:存在の限界」の「科学の脅威」というセクションからの抜粋である。

運動選手 テロリストと聞くと、ボクは2001年9月11日のアメリカの「同時多発テロ」の映像を思い出してしまいます。それに比べると、個人相手のテロが小さな事件のように思えて、そのような感覚の麻痺の方が恐ろしいですね……。
軍事評論家 「同時多発テロ」については、驚くべき試算がありましてね。
実は、プルトニウムから核爆発を生じさせるのは技術的に非常に困難なのですが、濃縮ウランの場合は、2つの塊を合体させるだけで強力な核爆発を引き起こすことができるのです。ノーベル賞を受賞したシカゴ大学の物理学者ルイス・アルヴァレズは、「分離ウラン235の場合、入手さえできれば、核爆発を起こすのは造作もないこと」だと述べています。
 もしニューヨークの世界貿易センタービルで、「分離ウラン235」を濃縮した3キロ程度の重量の塊2個を合体させた核爆発が生じていたとすると、ウォール街を含むマンハッタン周囲8平方キロ四方が壊滅し、その一瞬だけで何十万人もの犠牲者が出ただろうという試算なのです。
運動選手 それは恐ろしいことだ! 「アルカイダ」が濃縮ウランを持っていなくて、不幸中の幸いでしたね……。
軍事評論家 もし西欧文明そのものを悪と信じ込んでいるテロリストが小型化の進んだ核兵器を手に入れたら、彼らは何の躊躇もなく、世界の大都市で自爆テロを起こすでしょう。
 さらに核爆発よりも大量被害を与える可能性のあるのが「バイオテロ」です。これまでに発見されたウイルスの中で最も致死率の高い「天然痘」は、1970年代の世界的な撲滅運動で根絶されましたが、ウイルスそのものは、万一の場合のワクチン開発のために、幾つかの研究所で厳重に保管されています。しかし、何らかの方法で天然痘ウイルスがテロリストの手に渡ったらどうなるでしょうか?
 2001年6月、アメリカ合衆国のテロ対策訓練の一環として、3つの州のショッピングモールで天然痘ウイルスが噴霧されたという想定でシミュレーションが行われた結果、最悪の場合は300万人が感染して、100万人が死亡するという結果が出ています。
運動選手 国際空港や駅などで散布されたら、世界中に感染が広がって、もっと大変なことになるでしょう!
軍事評論家 そのとおりです。しかもウイルスは天然痘とは限りません。さまざまなウイルスのDNA情報をインターネットで誰でも簡単に入手できますから、そこから致死率の高いウイルスに改造する技術を持った科学者であれば、新種のウイルスを生み出すことができます。
科学社会学者 その点については、2002年6月に全米科学アカデミーが警告を発して話題になりましたね。「専門技術を持ち、研究施設に自由に出入り可能なほんの一握りの人間だけで、アメリカ全土を深刻な危機にさらすほどの殺傷能力を備えた生物兵器一式を費用も手間もかけずに作ることができる。それも市販の装置、すなわち化学物質、医薬品、食品、ビールなどの製造に使うのと同じ装置によってである」
軍事評論家 その警告が、誇張ではなく事実であることが、2002年7月、ニューヨーク州立大学の分子生物学者エッカード・ウィンマーによって証明されました。彼は、インターネットからダウンロードできる情報と、研究室の実験装置だけから、ポリオウイルスを造りだすことに成功したのです。
 このウイルスは「ポリオ」(小児麻痺)の病原菌で、そのDNAは4種類の塩基約7500個ですから、天然痘に比べれば単純な構造です。ウィンマーは、入手した塩基配列情報からDNAの各塩基部品を合成し、これらを繋ぎ合わせて大腸菌の中で培養することによって、人工的にウイルスを合成したのです。
 ポリオについては、誰もが予防接種を受けているので危険がないという判断で作られたようですが、このような実験では、より感染力が強く殺傷能力の高いウイルスが人工的に合成されてしまうような「バイオエラー」の可能性もあります。
科学社会学者 イギリスの雑誌『ワイヤード』の2002年特集企画で、「2020年までに、100万人規模の死者を出すようなバイオエラーやバイオテロが起こる」という予測に対して、イエスかノーかの賭けが行われました。皆さんだったら、どちらに賭けますか?
 この賭けに対して、英国国立天文台台長という要職にあるケンブリッジ大学の天文学者マーティン・リースが「イエス」に1000ドル賭けたことが話題になりました。リースは、「もちろん、賭けに負けることを切望しているが、正直言って負けるとは思っていない」と述べています。
 というのも、リースによれば、人工的にウイルスを合成する技術を持つ科学者は、すでに世界に数千人規模を超えて存在し、しかもその人数は年々増加していることから、その中にテロリストあるいは思想的賛同者が生じる確率が増加するのも当然だということになるわけです。
科学主義者 それは悲観的すぎる賭けですよ! 私は「ノー」に1万ドル賭けても構いません! なぜなら、バイオテクノロジーや生命倫理に関わる研究に対して、科学者や技術者は、国際学会や国の定めるガイドラインに加えて、大学や研究所などの組織単位でも厳しい自主規制を行っているからです。しかも100万人規模の死者を出すようなバイオエラーやバイオテロは、そんなに簡単に起こるものではありません!
科学社会学者 そのご意見は楽観的すぎませんか? 実際に、世界のカルト教団には、科学技術に関しては非常に有能な研究者だって参加しています。
まさか「地下鉄サリン事件」をお忘れではないでしょうね? 彼らは、人類史上最も猛毒といわれるサリンを自分たちだけの手で合成して地下鉄に撒き、無差別に13人を殺害、5千人以上の人々に重軽傷を負わせたじゃありませんか! しかも彼らは、猛毒のVX神経ガスも合成し、さらに致死率の高い「エボラ熱」を発症させるエボラウイルスを求めて、信者をアフリカに派遣したこともありました。もし彼らが実際にエボラウイルスを合成して噴霧していたら、被害が百万人規模に及んだ可能性も十分あったのです!

新型コロナウイルスが、バイオエラーやバイオテロだという可能性はあるのか?

奇しくも今年は2020年。そして現在、パンデミックが確実視されている「新型コロナウイルス」は、武漢のウイルス研究所から流出した「生物兵器」だという見解がある。その反面、それは単なるオカルティックな「陰謀説」であり、自然発生によるウイルス進化だけで説明がつくという見解もある。読者は、この問題について、どのようにお考えだろうか?

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