科学者7名のオカルト的「共同宣言」!
Twitter のタイムラインに、「新型のコロナ感染症予防対策についての共同宣言」というビラが郵便受けに勝手に入れられていて驚いた、というツイートが幾つか流れてきた。
この「共同宣言」は、武田邦彦・中部大学教授、吉野敏明・歯科医、大橋眞・徳島大学名誉教授、矢作直樹・東京大学名誉教授、藤井聡・京都大学教授、内海聡・医師、井上正康・大阪市立大学名誉教授という科学者7名によるものである。ビラを受け取った一般人からすれば、彼らの肩書だけを見て、その発言に重みを感じる人々も少なくないかもしれない。
このビラのQRコードのリンク先は、署名・募金サイトになっている。彼らの「厚生労働省は、自粛の必要性について、その科学的根拠を示すべきである。 また、新型コロナウイルスの存在を示す根拠となる科学論文を示すべきである」というタイトルの「共同宣言」に対して、2021年1月11日時点で 13,449名が署名し、¥5,297,000の募金が集まっている。
ここで注意してほしいのは、「厚生労働省は、自粛の必要性について、その科学的根拠を示すべきである。 また、新型コロナウイルスの存在を示す根拠となる科学論文を示すべきである」という太字のタイトルだけを見ると、彼らの主張は、ごく妥当な「共同宣言」のように思える点である。一見すると、政府に「科学的根拠を示せ」と述べているにすぎないわけだから……。
昨年の日本政府は、PCR検査を先進国で最低レベルしか実施せず、新型コロナウイルスに対して明確な「科学的根拠」を示すこともなく、夏から秋にかけて「GoTo トラベル」と「GoTo イート」を強行し、冬に感染者が急増すると慌てふためいてキャンペーンを全面キャンセルした。医療崩壊寸前となった現在、特定地域に「非常事態宣言」を出したが、それ以上に具体的な対策は思いつかないのか、右往左往している。この状況にフラストレーションを抱く人々の中には、つい署名・募金してしまった人もいるかもしれない。
しかし、彼らの署名・募金サイトをよく見ると、ページの下部分に進むにつれて、次第に新型コロナウイルスを軽視するオカルト的な主張が出てくる。
新型コロナウイルス感染症はメディアが作り出した怪物
私たちは、この度のパンデミックは、偏った情報が急速に拡散されたことによって引き起こされたインフォデミックであると認識しています。
新型コロナウイルスの脅威は、実際に多くの人が感じているより圧倒的に低く、私たちの生活様式が変更されなければならない程の死の脅威は存在しません。
これは無責任で荒唐無稽な仮説でもなければ、陰謀論に傾倒した空想でもなく、検証可能なデータが示す客観的事実です。
先般(8月20日)行われた日本感染症学会のシンポジウムにおいて、国立感染症研究所 ウイルス第三部四室室⻑の松山州徳氏も「風邪のコロナは4種類あり、5種類目が追加されたと考えるのが妥当」との知見を示されています。
つまり結論から言えば、私たちは今まで通りの生活を送ることができるのです。
彼らは、「これは無責任で荒唐無稽な仮説でもなければ、陰謀論に傾倒した空想でもなく、検証可能なデータが示す客観的事実です」と述べているが、2021年1月11日時点で、世界の新型コロナウイルス感染者数が9千万人を超え、死亡者数が2百万人に迫っている「客観的事実」を、どのように説明するつもりだろうか?
また、彼らは、次のようにも主張している。
私たちは、感染予防対策としてのマスク着用の推奨を停止することを求めます
そもそもマスクには、ウイルス感染予防・伝搬予防効果がないばかりか、健康を阻害するリスクの方が高いからです。
ウイルスの大きさ(0.1μm)、飛沫の大きさ(5μm~)に対し一般的なマスクの網目は遥かに大きく、ウイルスを止めることができない。大きなツバの塊を止めることはできるが、空気感染・接触感染・媒介物感染に対しては無意味である。マスクさえ着用していれば感染予防になるという大きな誤解は他の対策がおろそかになることにも繋がり、かえって危険である。
マスクは空気中のゴミ、雑菌、ウイルス、口腔内からの細菌等を集積し溜め込むフィルターであり、国民が正しい着用方法を理解しないままで長期間に渡って同じマスクを着け続け、そのマスクを触れた手指で他への接触や食事をしている現状は感染拡大防止の観点から見ても逆効果である。
人は、約21%の酸素濃度の空気を吸い込み(吸気)、肺で酸素を体内に取り込んで約15%の酸素濃度の空気を吐き出す(呼気)。通常、16%の酸素濃度を吸い始めると酸欠の自覚症状が現れ、10%以下で死の危険が生じる。
マスク内部には自分の体内から放出された二酸化炭素や不要物質が溜まり、それをまた吸い込んでいるので慢性的な酸欠状態となり様々な不調や免疫力低下の原因となる。
マスクを常時着用することが常識化されると相手の表情や感情が読み取れなくなり、対人関係が希薄になる。特に子供においては相手の表情の微妙な変化から感情を読み取る想像力や心遣いを育む機会が奪われ、感情表現が下手だったり相手の気持ちが分からない人間が増えることになり、人間社会にとって大きな損失を生みかねない。また大人の社会においても犯罪者と特定しづらくなり、犯罪率の増加に繋がる。
要するに、彼らの主張によれば、私たちは「マスク着用」すべきではなく、「今まで通りの生活」を続ければよい。つまり、新型コロナウイルスのことなど、まったく気にせずに生活すればよい、ということになる。
読者は、どのようにお考えだろうか? もし彼らの言う通り、新型コロナウイルスは「メディアが作り出した怪物」であって、実際には何も恐れる必要のない虚像であり、マスクなしで普通に生活できるのであれば、それは楽しすぎる夢のような話ではないか(笑)?
なぜ彼らのように立派な学歴や職歴の科学者が、奇怪でオカルト的な「共同宣言」を主張して署名・募金集めができるのか? 彼らは、自分たちの主張の方には十分な「科学的根拠」があると本気で信じているのだろうか?
なお、私が現代社会における「オカルト」と呼んでいる現象については、『反オカルト論』に詳細に定義してあるので、ご参照いただきたい。
ちなみに、この7名の中に登場する「矢作直樹氏のスピリチュアリズム」については、次の記事をご参照いただきたい。
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