末摘花登場 プロローグ
こんにちは。私、故常陸宮の姫君でございます。桐壺更衣が登場したそうですね。だったら私も、それ、やってみたいと思いまして、宮家の姫として登場など端ないこととは思いましたが、この思い、どうにもならず、恥ずかしながら出てまいりました。故父宮は私を大層慈しんで下さいました。だからきっと、お許し下さいましょう。皆様もどうぞ、お宜しくして下さいませ。
早速ですが、先ず確認しておきたい大切なことがあります。
それは私の名です。
この件について、すでにご存知の方も大勢いらっしゃると思いますが、大切なことゆえ、また、この先々、私が私の思いを私に忠実に語っていくためにも、その決意として、私の名について私の口から申し上げておこうと思います。
私、「末摘花」という名ではありません。
では私の名は何なのかと言うと、それは当然、言えません。未だ呪術の時代ですから。
そもそも、すべての女は神聖で力があり、その名も各々に神聖で力があります。神聖なものはむやみに公にしてよいものではありません。さらに宮家に生まれた女はその血ゆえ、内に秘められることを宿命とされます。よって私の本当の名は「ひめ」という音で護られて、だから私は「姫」そのものなのです。
まあ、それはそれとして、私、皆様に「末摘花」と呼ばれていると知ったとき、最初は、何で、と思いましたが、後に理由を知るやいなや、悲しく、辛く、苦しみました。
はい、読みましたよ、末摘花の巻。
でも今はもう全て受け入れています。でないと、このように登場などできるものではないでしょう。なので、それら全て込み込みで、私をどうぞ「末摘花の姫君」と真正面からお呼び下さいませ。もしかしたら、それは他者からもたらされた真実の私の名なのかもしれません。
それと私、口下手で、感情表現は苦手で、おおむね従来の印象通り「末摘花の姫君」なのでございますが、頭の中はバキバキなので予めご了承下さい。
このように世間知らずの典型的な深窓の姫君でございますが、できるだけ今風に、つとめて今風に、明るく軽く参ることを心がけたく存じております。
ジャジャジャジャーン。
では、末摘花、まいりま〜す。