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登別温泉物語 - 地獄谷の灯り【3】

伝説を追って


翌朝、昨夜の体験が頭から離れないまま、悠馬は再び地獄谷へ足を運んだ。日差しが差し込み、昼間の地獄谷は昨夜の神秘的な姿とは異なり、観光客で賑わうただの観光地のように見える。その景色に少しの寂しさを感じながらも、悠馬は昨夜の青白い灯りの記憶を辿り、再びその不思議な光景を思い出していた。

「まるで夢だったかのようだけど…確かにあの灯りは見えたんだ」

そう心の中で呟きながら、彼は温泉街にある小さな資料館へと向かった。館内には地獄谷に関する歴史や伝説が展示されており、「火の精霊」にまつわる古い話が書かれている一角を見つけた。

「地獄谷には、火の精霊が宿っているとされてきました。精霊への感謝を込めた祭りが毎年秋の終わりに行われ、精霊の灯りを見ると幸運が訪れると信じられています」

その説明を読み進めるうちに、悠馬は次第にその場の空気に飲み込まれていく。自分が昨夜見た青白い灯りが、この「火の精霊」に関係しているのではないかという思いが頭から離れなくなっていた。

そこへ館員が近づいてきて、彼の興味を引き立てるように話しかけてきた。

「昨夜、青白い灯りをご覧になったんですか?それは本当に貴重な体験ですね。地元の人でもなかなか目にできるものではないんですよ」

悠馬は少し驚いたが、「はい、確かに見たんです。あの瞬間、どこか別の世界に引き込まれるような感覚でした」と素直に答えた。

館員は頷きながら、優しい表情で続けた。「地元の人たちはあの灯りを『精霊の灯り』と呼んでいて、見た人には心の安らぎと幸運がもたらされると言われているんです。火の精霊は、この地を守る存在として長く語り継がれてきました」

その話に悠馬は深い感銘を受け、改めてこの地の神秘に対する畏敬の念が湧いてきた。そして、昨夜の体験が単なる偶然ではなく、何か特別な意味を持っているように思えてきた。

「もしよろしければ、夜の地獄谷にもう一度足を運んでみてはいかがですか?精霊の灯りを何度も目にすることで、さらに深い体験が得られるかもしれませんよ」と館員が提案した。

悠馬はその言葉に後押しされるように、今夜もう一度、地獄谷へ行ってみる決意を固めた。心の奥底で、昨夜の青白い灯りが再び現れてくれることを願いながら、宿に戻り夜を待つことにした。

そして、再び夜の帳が下りる頃、悠馬は湯気の立ち込める地獄谷を歩きながら、精霊の灯りが現れる瞬間を待ちわびていた。静寂の中にただ一人、彼は自然と呼吸を整え、周囲の音や風の気配に耳を澄ませた。

果たして再びあの灯りが現れるのか――悠馬の心には、昨夜とは異なる静かな緊張感と期待が入り混じっていた。

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