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雪村 悠馬
2024年11月10日 12:41
ついに桜が咲き始め、町全体が淡いピンク色に包まれていた。公園の桜並木が満開となり、町を歩く人々が自然と足を止めては桜を眺め、心の中で新しい季節を歓迎している様子が伺えた。僕もその風景に魅せられ、「風待ち亭」へと向かう道すがら、何度も足を止めて桜を眺めた。舞い落ちる桜の花びらが春の風に乗って、町中をふんわりと包み込んでいるようだった。店に到着すると、田島さんが笑顔で迎えてくれた。「ようやく春
2024年11月10日 09:55
公園の桜の蕾も少しずつ色づき始め、町全体が春の訪れを待ち望んでいるようだった。ある日、いつものように喫茶店「風待ち亭」で珈琲を楽しんでいると、年配の男性が僕のテーブルに近づいてきた。彼は、僕にとってこの町での顔なじみの一人だった。「この町で春を迎えるのは二度目かい?」と彼が尋ねる。「ええ、昨年ここで過ごした春が忘れられなくて、また戻ってきました」彼は満足そうに頷くと、遠くを見つめるよう
2024年11月9日 21:08
その後も僕は、ほぼ毎日この喫茶店に通うようになった。冬の終わりを迎えた町は、まだ冷たい風が吹くものの、ところどころに雪解け水が流れ、小さな芽が顔を出し始めている。この季節の町には、少しずつ春が染み込んでいくような、独特の落ち着きが漂っていた。ある日、カウンターの奥にいつもの年配の男性が座っているのを見かけた。彼は、穏やかな表情で田島さんと話していたが、僕に気がつくと、こちらに軽く手を挙げて微笑