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[V系SF] 伏見瞬・河野咲子賞:渡邉清文「恐るべき子供たち Les Enfants Terribles」
ロカスト編集部の河野咲子が、猿場つかさとともにパーソナリティを務める第6期ダールグレンラジオ。「ゲンロンSF創作講座」の提出作を批評するラジオ番組であるにもかかわらず、SF作家・樋口恭介およびロカスト編集長・伏見瞬をゲストに迎えたトークから派生して講座とは無関係に独自の「V系SF」企画がスタートしてしまい、応募作のなかから受賞作が選出された。
ロカストプラスでは、本企画と関連して受賞作のうち2作品および河野咲子の書き下ろし作品を配信する。
本ページにて配信する渡邉清文「恐るべき子供たち Les Enfants Terribles」は、BUCK-TICKの70以上の楽曲の歌詞テクストの「継ぎ接ぎのみ」によって構築された実験的な作品。V系らしさと制作手法として面白さの双方を評価され、伏見瞬・河野咲子賞を受賞した。
継ぎ接ぎと聞けばカットアップのように意味不明な語の羅列が想像されるかもしれないがそうではなく、赤く不気味な月世界の光景とそこで展開されるストーリーまでもが立ち上げられていることに驚かされる。文章として黙読するのみならず、うらぶれた劇場でこのテキストが役者によって歌われオペラのように上演されている様を想像してみるといっそう面白い。
こちらのプレイリストから一部の参照楽曲を聴くことができる。以下、選考コメントとともに本文をお楽しみいただきたい。
BUCK-TICKほど「演じる」ことに真摯なバンドを寡聞にして知らないが、渡邉清文『恐るべき子供たち Les Enfants Terrible』は、無数の引用によってBUCK-TICKの「演技」を演じる。その複製された言葉は、愛と血肉をむさぼるゾンビーナだ。笑えないピエロの、終わりを欠いた影絵遊びだ。さぁ、極東の地で、汝の敵を愛することができるか?純度はMAYBE腐ってる!
「テクストとは、無数にある文化の中心からやってきた引用の織物である」——あまりに有名なバルトの命題がいまや書く行為における伝統的前提となっているにもかかわらず、参照することをストイックに徹底した小説はさほど書かれてきませんでした。あらゆる制作・執筆のシーンがいまだに作家主義的な作品受容に慣らされている状況を鑑みれば(おそらくそれは資本主義的な要請の帰結でしょう)、わずか7枚程度の小説が70以上もの楽曲を参照するということはいまもなおラディカルな事態です。本作の著者はかつて6名の新人作家とともにSF小説を共同制作し、「ハヤカワSFコンテスト」の一次選考を通過したことがあります[*]。それは「(単数形の)新人「作家」発掘」というあらゆる新人賞における暗黙の前提に対して真摯にしかし批判的に機能したパフォーマンスでもありました。このように思弁的な問題意識とともに活動する著者によって「V系SF」という謎めいた企画の場が利用されたことをうれしく思います。
*第10回ハヤカワSFコンテスト応募作:『トランジ』能仲謙次武見倉森揚羽はな菊地和広渡邉清文稲田一声
恐るべき子供たち Les Enfants Terribles
渡邉清文
scene 1
幻の都(男の元に女が現れ、自分に会いたくないかと誘う)
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