小説家の連載「18歳高3娘の彼氏が35歳?!」第1話

 成人年齢が18歳に引き下げになってから、これまで起きなかったようなトラブルが起こっている。
 これまでは未成年だからと守れた18歳の息子や娘を、親がもう法的には守る事が難しくなってしまった。
 とは言え、多くの18歳はまだ親と暮らしており、同居している限りある程度子供を守る事はできるが・・・。
 もし子供の側から、成人である事を理由に干渉するなと言われたら、親はどうすればいいのだろうか?

 アオイとヒロシは、一人娘を持つ40代の夫婦だ。
 ヒロシは40代後半の真面目なサラリーマンで、妻のアオイは40代半ばの英会話講師。近所の英会話教室で子供達に英語を教えている。
 二人の間には、一人娘のヒナコがいる。ヒナコは女子高校に通う3年生。明るくて家族思いで、皆から好かれるような女の子だ。母親のアオイに似てくりっとした大きな瞳が印象的で、アイドルのように可愛い。アイドルのようには言い過ぎかもしれないが、ヒロシとアオイは娘を世界一可愛いと思っていた。親馬鹿だという自覚はある。
 アオイとヒロシは結婚前、子供を持ちたい、できれば二人欲しいと思っていた。ヒロシには姉が1人居るし、アオイも妹が居るので、お互いに二人きょうだいで育ったせいか、自分達の子供も二人にすると当然のように思っていた。だが・・・。
 ヒナコを妊娠して、思ったよりも大変な妊婦生活に、アオイはしんどいと思ってしまったのだ。つわりではないが、眠りつわりがひどく、毎日体が重くて眠くてだるい。ほとんど起き上がれない日も多かった。もし2人目を作ってまたそうなら、上の子を抱えて再度妊婦生活は無理。アオイはヒロシと話し合い、2人目は作らない、いわゆる「選択的一人っ子」にする事にした。ヒロシは、産むのはアオイだからと、妻の思いを尊重し、こうしてヒナコが産まれる事になったのだ。ヒナコの誕生後は徹底的に避妊をした。周囲からは、2人目を作らない事について時々聞かれたりしたものの、それで二人の決意が揺らぐ事は無かった。ヒナコはたまーに弟や妹を欲しがる事はあったが、どうしても欲しいとわがままを言う事は無かった。順調に成長したヒナコは、高校受験の際に地元の女子高校を受験。進級も無事にして、高校3年生になった。
 4月生まれのヒナコは、進級と同時に18歳成人を迎えた。制服を着ている女子高生が成人とは信じられないね、と両親は微笑みあったが、まさかこの早い成人が予想外の出来事を引き起こすとは、父母にはまだわからなかったのだ。

 ヒナコが高校3年生になってから数か月経った秋。
 素行のいいヒナコは、通っている女子高校の、付属女子大に内部進学を希望していた。ヒナコは成績優秀なので、別にもっと偏差値のいい大学も狙う事ができた。だが、
「一人暮らししたくない。シーザーと離れたくないもん!」
 と駄々をこねた。
 一家が暮らしているのは関東地方で、ちょっとがんばれば、時間はかかるが電車で東京都内に行ける距離だし、東京の大学に行って一人暮らしするという選択肢もあった。ヒナコは一人っ子だから、他に学費が必要な兄弟姉妹も居ないし、仕送りするのは難しくはない。地元もまあ、若者が遊ぶところはあるけれども、都内の方が楽しい学生生活を送れると両親は勧めた。
 それでも、愛犬と離れたくないとヒナコは言った。
「学生の一人暮らしじゃペットは飼えないし、シーザーは勉強の癒しなんだよ。勉強はちゃんとするから、ここに居させてほしいの」
「だけど、一人暮らしの方が恋愛も自由にできるし、楽しいわよ?実家に居るんだったら一応門限は設けるし、家を出る方が気楽で楽しいでしょ」
 母のアオイはそう言う。父のヒロシも、
「実家に居たら家事を覚えられないんじゃないか?今はママに甘えてあんまり手伝わない事も多いだろう。将来のためにも、一度は1人暮らしをしておくべきだ」
 と娘を説得しようとした。
 だが、愛犬と離れたくないヒナコは、
「実家に居てもちゃんと家事は覚える。それに永遠に実家に居る訳じゃないし、いずれは出て行かなきゃいけないと思う。ペット可の物件は高いから、自分で稼いでペット可の物件に一人暮らしできるようになるまで待っててほしいの。一人暮らしするなら絶対にペットと一緒じゃなきゃ嫌」
 両親はかなり悩んだが、娘が動物好きなのはよくわかっていた。一人暮らししても、何の動物も飼えずにメンタルを病んでは意味が無い。まあ、週末に東京に遊びに行く事はできるだろうし、東京は物価が高いから一人暮らしは大変だろう。ヒナコと両親は話し合いをした結果、
「実家暮らしでも家事を覚える事、友達や彼氏と外泊するのはいいが、事前に伝えて無断外泊はしない事、門限は日付が変わるまで、社会人になったら一人暮らしをする事、ペット可の物件に住むための貯金もきちんとする事、大学生になっても変わらず勉強をしっかり頑張る事」
 などの条件をつけて、ヒナコの実家暮らし続行は決まった。
 まだ高校生なので今は外泊の許可はできないが、家事を覚えるのは今からでもできる。受験勉強をする必要が無いヒナコは、少しずつ両親の手伝いをするようになり、料理の楽しさやそうじの大変さを覚えていった。
 そんな中、ヒナコに彼氏ができた。
 元々可愛かったヒナコだが、私服がシンプルなものから、フェミニンなワンピースに変化したり、休日にどこか出かける時、少しメイクをして出かけるようになった。ショートボブの髪を、ヘアアイロンで巻いて出かけたり。ヒナコから「彼氏が居る」となんとなく聞いたアオイはヒロシにその話をした。
「彼氏ができたって、そいつまともなやつなのか?」
「まあでも、変な子と付き合っている感じはしないわよ。外出しても夕飯までに帰ってくるし。あの子は何でも相談する子だから、まあ問題無いでしょ」
「そうだな。親ともちゃんと話す子だし、今は見守ろう」
 と同意して、夫婦は微笑ましく見守ろうとしていたのだが・・・。
                             次回に続く



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