小説家の連載「プリンセスヴァイオレットの冒険」第三話

〈前回のあらすじ:ヴァイオレット王女と黒猫のレイは、食いしん坊の国にある魔法のルビーを求めて旅をする事にした。〉

 こうして旅を続けるヴァイオレット王女と黒猫のレイでしたが、ところで、ヴァイオレット王女の名前は多くの国々に知れ渡っていたのです。つまり、他の国の人々も、王女の事を知っていたのでした。
 他の国にはお姫様が少なく、王子しかいない王国ばかりでした。王女がいる国はあんまり無いのです。
 大人になったら息子を他の国の王女様と結婚させたいと考えている王様はたくさんいました。
 だから、数少ない王女様であるヴァイオレットがいろんな国を訪ねるつもりだ、といううわさを聞いて、よその王様達は色めき立ちました。
「王女がうちの国に来たら丁重におもてなしをして、将来我が国の王子と結婚してもらえるように約束をとりつけよう」
 と考えている国王ばかりでした。
 というのも、ヴァイオレットはマカートニー国王の一人娘で、将来女王になる事が決まっています。つまり、よその国の王子と結婚すれば、ヴァイオレットの王国と、王子の王国が1つの王国になって、領土が広くなるのです。自分の国が広いかどうかは、国王や女王にとってはとても大事な事なので、みんな将来ヴァイオレット王女が自分の息子と結婚して欲しいと考えているのでした。
 さて、そうこうしているうちにヴァイオレット王女と黒猫のレイは、食いしん坊の国に到着しました。
 国に入った王女とレイはびっくり!この国の人達はみんな太っています。パン屋さんもお肉屋さんも、誰もかれもが真ん丸に太っているではありませんか!
「みんな雪だるまみたいだわ!」
「これはひどいにゃあー」
 国民はみんな、常に何かを食べてもぐもぐしています。野菜はちゃんと食べていないのです。八百屋さんはこの国にはありません。
 呆れたヴァイオレット王女は、お肉屋さんをつかまえて聞いてみました。
「こんにちは。わたしはヴァイオレット王女です。この国の王様に会いたいのですけど」
 するとお肉屋さんはびっくりして言いました。
「これはこれは王女様ですか!お城はこの先をずっと行ったところにありますよ」
「どうもありがとう。ところで、この国にはお医者様はいないのですか?」
「医者ですか?医者はいるにはいますが、医者もみな食べる事が大好きなので、病院にはいません。ずっと何かを食べているでしょう」
「何て国だにゃあ!」
 黒い馬に変身して王女を乗せているレイは、それを聞いてもっと呆れてしまいました。
「それはひどいわね。とにかく、この国の王様のところに行ってみましょう」
 王女はお肉屋さんにお礼を言って、お城へ向かいました。
 門番に王女である事を伝えると、すぐに国王のところへ案内されました。
 そしてまたまたびっくりです!王様は、国民の誰よりもさらに太っているではありませんか!玉座にきちんと座れていません。
 ヴァイオレット王女に会えた王様はにこにこして言いました。
「これはこれは、ヴァイオレット王女様ではありませんか。かねてからうわさは聞いていたのだよ。ぜひ、我が国の王子と結婚してもらえぬか」
 こう言って、国王はヴァイオレット王女と同い年の王子を呼んできましたが、まるで王様を小さくしただけの、真ん丸のミートボールみたいに太っていた王子に、姫はげんなりしました。
「ごめんなさい、結婚相手は将来お父様に決めてもらおうと思っているの」
 と適当な事を言ってお断りしました。これを聞くと国王と王子はしょんぼりしました。
「それより国王陛下、この国の人達はどうしてこんなに太っているのですか?この国にはお医者様はいないの?」
「我が国の国民はみな食べる事が大好きなのですよ、姫。私も王様の仕事をするより食べる事の方が好きだし、この国の医者も食いしん坊の者ばかり。病院ではなくレストランでいつも何か食べているのだ。もし病気の人がいたら、薬ではなくタルタルソースを飲ませている」
 それを聞いて姫はびっくり仰天!あわてて国王に言いました。
「何ですって!そんな事をしたらどんどん病気になってしまうわ」
「だめな事なのか?」
「もちろんだめよ!すぐにお医者様を呼んで来て」
 こうして、お城の医者だけでなく、国中の医者が呼ばれました。賢いヴァイオレット姫は、食べ過ぎは病気になる事や、ちゃんとお野菜を食べないといけない事、運動をしないといけない事も説明しました。
「何と!全然知りませんでした」
「私達はみんな医者の中でも頭の悪い方なので、知りませんでした」
「そう言えば、学校で習ったけど、忘れてたかも」
 この国のお医者様達は、みんなだめなお医者ばかりでした。
「このままじゃ、みんな病気になっちゃうわ!王様と王子様も、ちゃんとダイエットをしてください。あと国王のお仕事もやらないと」
 国王はびっくりして、反省しました。
「何と、そうだったのか。それはとてもまずいな」
 そしてすぐに、この国に八百屋さんを作る事と、ダイエットをして国王の仕事もする事を約束しました。
 ヴァイオレット王女のおかげで、食いしん坊の国は変わりそうです。
 黒猫のレイが国王に聞きました。
「ところで、この国には魔法のルビーがあると聞いたにゃあ」
「あぁ、どんな願いでも叶うルビーがあるぞ」
 王様はお城の魔法使いに命令して、ルビーを持ってこさせました。
 ヴァイオレットが、お父様とお母様の病気の事を話すと、魔法使いは教えてくれました。
「その病に効くのは、魔法の宝石だけです。できるだけたくさんの魔法の宝石が必要でしょう」
「そういう事なら、このルビーをあげよう。この国を救ってくれたお礼だ」
 国王はそう言ってルビーをくれました。
「次に、老人の国を訪ねると良いでしょう。老人の国には、魔法の真珠があります」
 と魔法使いが教えてくれました。
「これで王様とお妃様を助けられるにゃ」
 レイは大喜びです。
「すぐに向かいましょう!」
 こうして、王女と猫は次の冒険に向けて出発したのでした。
                             次回に続く

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