小説家の連載「プリンセスヴァイオレットの冒険」第五話

〈前回のあらすじ:弓矢の名手である十歳のヴァイオレット王女とそのお供の、魔法の力が使える黒猫のレイは、ヴァイオレットの両親である国王夫妻を病気から救うため、魔法の宝石を集める旅をしている。宝石を求めていろんな国々を旅する姫と猫。次に訪れるのは、本の王国。国王と王妃は、ヴァイオレット王女の母方の祖父母だった!〉

 本の王国は、ヴァイオレット王女にはなじみのある場所だ。ただ、普段暮らしている自分の王国からは少し遠いので、そんなに何十回も行った事があるわけではありません。前に行ったのも、もっと小さい頃です。
 ヴァイオレットの母・エリー王妃の生まれた王国は、名前の通りたくさんの本がある国です。いろいろな物語が生まれた場所でもあり、物語を書く作家が多く暮らしていました。これまで王様をつとめてきた人物がみな、読書好きだった事もあり、作家を保護している国として有名だったのです。王様専属の作家もたくさんいたし、街中に本屋さんがあふれかえっていました。
 王国に着くと、一気になつかしい気持ちがあふれでてきました。ヴァイオレットと、馬に変身している猫のレイは、昔ここに来た事を思い出し、うるっときました。
「ここだわ。なつかしいわ。わたしのお母様が育った場所なのね!」
「レイも覚えてるにゃ。前にここに来た時、ヴァイオレットはもっと小さかったにゃ」
「そうだったわね。あの時はお母様に・・・あぁ、今お母様達はどうしているかしら。心配だわ」
「きっと大丈夫にゃ。それより、早くおじいさまとおばあさまに会って、助けを求めようにゃ」
「うん、そうね。そうしましょう」
 ヴァイオレットとレイは、お城に行くと、門番に、
「おじいさまとおばあさまに会いに来た」
 と説明し、王女の証も見せました。門番はびっくりして、すぐに、王女と猫を王様とお妃様のいる部屋に通しました。

 王様の玉座のある部屋に行くと、白髪頭のマサ国王が、孫娘を見て大変びっくりしています。
「ヴァイオレットちゃん!今、家来から聞いてびっくりしておるぞ!突然訪ねてくるとは、何事かね?!エリーとマカートニーは一緒ではないのか?!」
 小柄なメグ王妃は、1人で来られるぐらい大きくなった孫娘を見て、
「まあ、ヴァイオレットちゃん、こんなに大きくなって!」
 と感激しています。
 レイは馬から猫の姿になって、
「わたしは猫のレイにゃ。お久しぶりですにゃ」
 とあいさつします。
 そこでヴァイオレット王女はすべてを説明しました。
「・・・・・・と、いうわけなの。お父様とお母様を助けるためには、できるだけたくさんの、魔法の宝石が必要なんです」
「ヴァイオレット1人じゃ危ないから、レイがお供するにゃ」
「そんな大変な事が!だが、子供だけじゃ危ないだろう」
 娘夫婦の危機を聞いておろおろするおじいさまは、ちょっとパニックになってしまっています。
「いくらそんな状況だからって、姫が猫だけを連れて旅をするなんて、危険じゃわい」
「大丈夫よおじいさま!わたしは弓矢が得意ですもの。自分の身ぐらい、自分で守れます」
 姫は弓矢を取り出して、勇ましく説明します。メグ王妃はにっこり微笑みました。
「そんなに頼もしくなって・・・本当に大きくなったわね」
「じゃが王妃よ、ヴァイオレット1人じゃ危ないぞ!」
「うーん、そうねえ・・・。確かにそうよね。じゃあ、こういうのはどうかしら。マリーに一緒に旅をしてもらうのよ」
「おお、マリーか?あの子は今旅に出ておるぞ」
「明日帰ってくるはずよ。そしたら、頼みを聞いてくれるに違いないわ」
「マリー叔母様も一緒に旅をする事になるの?」
 ヴァイオレットは、おばあさまの提案にびっくりしました。
「ええ、そうよ。ヴァイオレットちゃんは嫌かしら?」
「とんでもないわ!叔母様が一緒なら嬉しいわ!」
「レイもマリー叔母様大好きにゃ!レイをいつもなでなでしてくれるから大好きにゃ!」
 ヴァイオレットとレイは大喜びです。
 お母様の妹であるマリー王女は、魔法が使える魔女でもあります。普段は本の王国で、魔法を使って王国を他の国から守る仕事をしています。今、お友達と一緒にバカンスに行っているそうで、明日お城に帰ってくるのです。
「マリーは明日帰ってくるから、それまであなた達、今日はゆっくりしなさい。街へ見に行ったらいいわ。たくさん本屋さんがあるし」
「ヴァイオレットちゃんのママも本が好きだったのお」
「そうね、そうしましょう!」
 そうして、ヴァイオレットとレイは一日、街を巡りました。
 たくさんの本屋さんを巡ったり、お城の作家達が書く物語を読ませてもらったり。とても楽しい一日を過ごしました。
 レイは、魔法の書物をたくさん読んで、魔法の勉強をします。
「これはすごいにゃ!レイの知らない魔法がたくさん書いてあるにゃ!」
 一方のヴァイオレットは、お城の年老いた作家に、古い本を見せてもらいました。
「これはあなたのお母様が子供の頃によく読んでいた本です」
「お母様はこれが好きだったのね!」
 ヴァイオレットは目を輝かせて言います。
「そうです。あなたのお母様は賢い子供でした」
 おじいさんの作家はにこにこしながら答えました。
 夜は、お母様の好きだったメニューが晩ごはんです。
 ヴァイオレットは、お母様が使っていた部屋で眠りました。
 次の日、マリー叔母様が帰ってきました。
 みんなは、事情を説明しました。
 マリー王女は疲れていたけど、姪っ子のヴァイオレットのために、もう一度旅に出る事にしました。
「大好きなお姉様が大変なら、私ががんばるわ!可愛いヴァイオレットの為にもね!」
「マリー、大事な孫を頼んだぞ」
 おじいさまが重々しく言いました。
 メグ王妃が、魔法のサファイアを手渡しながら、ヴァイオレットに言い聞かせます。
「よく気を付けるのよ。無事に帰ってきてね」
「はい、おばあさま!」
 姫はおばあさまにハグをしました。
 マリー叔母様は魔法の地図を見ながら、
「次に行くのはドラゴンの王国よ。魔法のエメラルドがそこにあるわ。とても危険な旅よ。気をつけないとね」
 ドラゴンの王国?!一体どうなるの?!
                             次回に続く


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