小説家の連載 妊娠中の妻が家出しました 第3話
〈前回のあらすじ:妻・華の実家に電話をかけたものの、結局行方を知る手掛かりは得られなかった浩介。義母から仕事に集中できるよう言われた浩介だが、こんな状況では仕事どころじゃないと落ち込むのだった〉
華の実家に電話をかけた後、落ち込みつつも夕食を適当に取った。とてもではないが料理をする元気が無く、浩介はカップラーメンで夕食を済ませた。今日買ってきた食材は2人分なので、食材を見るだけでも1人の現実が嫌になると思ったのだ。
どんよりした気分でシャワーを済ませ、歯を磨いて早々に寝る。
華はあれからも一度も連絡を返してくれない。既読にもならない。
俺の何が悪かったんだろう?深く悩みながら眠りに落ちる。
翌朝、とても仕事をする気になれず、上司に電話をかけて事情を話した。
「妻が家出してしまって、理由も判らなくて」
と説明すると、物わかりのいい50代の男性上司は、同情するような口調で、
「そりゃ大変だな。奥さん妊婦なら心配だろう。ひとまず今日の所は休んでいいから」
「はい、申し訳ございません」
「いやいや、いいから。捜索願は出したか?」
「いや、まだ昨日の事で、動揺してまして・・・妻の実家には相談したのですが」
「そうか。まあ成人の家出だから警察に相談しても意味無いかもしれんが、相談するだけ相談した方がいいと思うぞ。とりあえず今日の所は、休んで」
電話が切れた後、警察、そうだ、警察に相談するべきかどうか浩介は考えた。
インターネットで調べると、やはり上司が言っていたように、成人の家出は警察も熱心に探してくれないという。だが、妊婦の家出はかなり危険性が高い、家出中に突然体調が急変する可能性があるからだ、と書いてあった。
妻に友人が居るのは知っているが、友人の連絡先は知らないし、義母が言っていたように、妻の友人はもう皆既婚者や彼氏持ち。妊婦をかくまってくれるような、気楽な独身の友達は居ない。
念のため自分の実家に行っていないかと思い、市内の実家に電話をかけた。専業主婦の母はすぐに電話に出てくれた。浩介の父は定年退職後再雇用で働いているので、昼間家には居ない。
「はいはい、どうしたの?」
「実は、華が離婚届を置いて家出したんだ」
事情を説明すると、母は驚いた。
「まあ、華さんが?こっちには来ていないけど・・・あんた、何かやらかしたんじゃないの?妊婦さんはデリケートだから。気を使ってあげないと」
「いや、俺なりに気を使ってたつもりだよ。家事だってほとんどやっていたし・・・」
息子の説明に、母はおっとりした口調で答える。
「まあ、でも、考えてみたらそうよね、浩介は家事もできるし、別に遊んで帰ってくるようなタイプじゃないし。別に浩介の肩を持つつもりは無いけど、あんたが家出されるような事をするとは思えないわね」
「俺を信じてくれてありがとう。俺ももうどうしたらいいか・・・・」
「しっかりしなさい、あんたがしっかりしないでどうするの。もしかしたら浩介の知らない悩みがあったかもしれないよ」
「だけど、華は思った事は何でも話すタイプだし、普段から不満もしっかり言ってくれてたんだ」
「何でも話すような人が黙って家出するなんて、余計に何かあったに決まってるでしょ。華さんのご実家には相談したの?」
「昨日の夜すぐに電話をかけたよ。でも実家には帰ってないって。華の事はこっちに任せて、仕事に集中してくれって言われたけど、俺、そんなの無理だ・・・」
思わず涙声になる。母の前で弱い姿をさらけ出してしまった。母は浩介を批判する事はせず、冷静に返事をした。
「まあ、向こうの親御さんからしたら、娘の不始末だからっていう思いがあるんでしょうね。でもあんたからしたら、そんな気持ちにはなれないわよね」
「うん・・・」
「華さんが行きそうな場所に心当たりは?」
「判らない」
「そう、とりあえず警察に相談したら?」
「・・・そうする。捜索願を出してくるよ」
母との通話を切ると、どっと疲れきって、すぐに警察に行こうと思ったがそんな元気も無く眠ってしまった。
仮眠から覚めると昼頃で、スマホを手に取ると、着信があった。番号は一応登録してあった、妻の妹からだった。
次回に続く