20代の現役不動産屋が『地面師たち』を観て思うこと|drama
こんにちは、中川直樹(なかがわなおき)です。
今回は絶賛話題沸騰中のNETFRIX『地面師たち』について、日々、ハウスメーカーさんとお付き合いさせていただいている不動産屋の視点で思うことを記事にしていきたいと思います。
私は、2024年7月よりnoteをはじめ、週に1度頻度で更新しています。家づくりをされている方や、夢を追いかける若造を見守って下さる方は、お気軽にスキ、フォロー、コメントして下さると大変励みになり嬉しいです。
自己紹介はこちらの記事をご覧ください。
不動産の魅力と恐怖が詰まった『地面師たち』。
是非ドラマをご覧になってから今回の記事を見てください。
※盛大にネタバレを含みます。実際のドラマはグロいシーンも多いため、苦手な方はそのまま記事をご覧ください。
率直な感想とあらすじ
『最高に面白かった。』
これが不動産屋の率直な感想です。
NETFRIXの日本ドラマ「地面師たち」
不動産屋や大手ハウスメーカー開発部を相手に、不動産詐欺を行う犯罪集団を描く全7話のドラマです。原作は書籍として2019年に出版されています。
全7話の作中で起こる詐欺事件はたった2つだけです。さらに、そのうち1つは、地面師の紹介のような少し軽めの詐欺であるため、実質1つの詐欺事件を描かれています。ここが、とても分かりやすいため一気に見たくなる衝動に駆られると同時に、不動産という『商品取引』の重さを感じます。
俳優陣の演技力、伏線回収がとても気持ち良く、作中で出てきた「ダイ・ハード」の話をハリソン山中(豊川悦司さん)が回収するとき、思わず『うぇ…!?』と声がもれました。
原作よりもハードな殺害方法や、原作には登場していなかった池田エライザさんの役など、映像化すると劣化することの多い原作ドラマの中で、想像を上回る完成度となっています。
記憶に残るシーンをいくつか挙げると、
・致命的な質問をされる度に「もうええでしょ。」だけで乗り切ろうとする法律屋役のピエール瀧さん
・騙されているのもつゆ知らず、「おい、あそこの一帯見ろよ。俺はあの112億の土地を勝ち取ったんだ、勝ち取ったんだよ!!!!」高級ホテルで美女戯れる大手ハウスメーカー開発部長役の山本耕史さん
など人間の感情や欲求が溢れすぎるシーンです。
不動産屋も、ハウスメーカーの方も、もちろん業界以外の方も楽しめる作品となっています。
地面師とは? なぜ地面師❝たち❞なのか?
ドラマをご覧になっている方は、もう記憶に焼き付くほどご理解されているかと思いますが、
『地面師』とは
とされています。ウィキペディアを引用しました。
不動産になじみのない方には少し分かりづらい存在かと思います。なぜなら、不動産の特性を逆手に取った詐欺手法であるからです。
例えば、スーパーで売っている農家Aさんのキャベツを、あたかも農家BさんがAさんのフリをして売ることは難しいです。どんなものでも売主の❝フリ❞をしてお客様に商品を売ることなどできません。これは高級腕時計でも、宝石でも同じです。
しかし、不動産は異なります。その名の通り『不動産』、動かすことが出来ないものだからです。『これ私のだから!』と証明するためには、取り扱い易い書類で取引を行います。契約書、登記簿、実印、本人確認書類等に加え、『売主本人』がいれば土地を売却することが出来るのです。
勘の鋭い方はお気づきかと思いますが、必要な書類を完璧に偽造し、『売主になりすます役』さえいれば、勝手に人の土地を売ることが出来るのです。
恐ろしいですよね。これが地面師です。
そして今回のタイトルが、地面師❝たち❞となっているのも魅力の一つです。地面師は基本的に1人ではできません。表には出てこず指示を送るリーダー、不動産屋などを演じる交渉役、司法書士や行政書士などを演じる法律屋役、売主になりすます役、そのなりすまし役を探す手配役、偽装書類を作成する役などがグループを作り詐欺行います。
本当の売主がお年寄りの方でしたら、その方に似たなりすまし役を探す必要があるのです。
さて、ここまでご覧になって『こんなのドラマの話でしょ?』『実際に私の土地を勝手に売られることがあるの…?』と思っている方もいらっしゃるかと思います。
記憶に新しい事件のため、ご存じの方も多いと思いますが、実は実際に起きた事件をモチーフに作られた物語なんです。
超大手ハウスメーカーを欺き55億5千万円を騙し取った事件
積水ハウス地面師詐欺事件は、2017年6月1日に、積水ハウスが地面師グループに土地の購入代金として55億5千万円を騙し取られた事件です。7年前の出来事です。もちろん55億円は戻ってきていません。
事件の舞台は、東京都品川区西五反田2-22-6、山手線五反田駅から徒歩3分の立地にある旅館「海喜館(うみきかん)」でした。積水ハウスは所有者を名乗る女と、約600坪の旅館敷地を70億円で購入する売買契約を締結しました。6月1日に売買代金70億円のうち63億円を支払い、直ちに所有権移転登記を申請しました。 しかし、売買は成立しませんでした。
実際の所有者は亡くなっていたのです。
6月24日、亡くなった所有者の実弟が「相続」を原因に所有権を移転し、7月4日に登記しました。登記所が積水ハウスの売買予約に基づく仮登記を認めず、実弟に所有権の移転を認めたため、この時点で63億円を支払った積水ハウスは、所有者の成りすまし女とそのグループに騙されたことになりました。
当時『地面師』という言葉を知らない方も多くいたと思いますが、この事件をきっかけに浸透した印象です。かくいう私もこの事件で知ることになりました。
超大手ハウスメーカーが騙されてしまった3つの理由
しかし、超大手ハウスメーカーの開発部、いわゆるデベロッパーのプロフェッショナルと呼ばれる方々が地面師の存在を知らなかったとは考えられません。
なぜ、騙されてしまったのか?
公になっていないことも多くある事件ですが、3つの理由が考えられています。
ドラマをご覧になった方はお気づきかと思います。すべてドラマの中で再現されています。
興味がある方は以下の記事もご覧ください。『事実は小説より奇なり』とはまさにこのことかと思い知ります。
地面師よりも怖い存在
この先、多くの方の人生で地面師に出会う可能性はとても低いと思います。地面師は数百万の利益のために、こんなに大きなリスクを冒さないからです。
それよりももっと怖い存在、気を付けなければいけない存在が身近にいます。
『土地の相場が分からず、不動産屋の口車にのせられて土地を売ってしまう人』です。
不動産屋は家づくりの際に土地を買ってもらうプロフェッショナルですが、それと同じくらい土地を売ってもらうプロフェッショナルでもあります。
あの手この手で相場より安く買い取ったり、『囲い込み』といって自社がより儲けるために、売却金額を下げてまで他社が売却することを制限する不動産屋が今でも多く存在します。
数年前、親が実家を売却しました。その際、良心的な不動産屋さんに担当していただいたため金銭的な『やってしまった…』という後悔はありませんが、『思い出がつまった帰る場所』がなくなってしまった喪失感を売却後に初めて感じました。今でもよくGoogleマップのストリートビューで実家があった場所を見てしまいます。
金銭的な面、そして感情的な面でもしっかりと家族、知人、複数の不動産屋と話し合うことが重要です。
いかがでしたでしょうか。
私はこの『地面師たち』をみて、多くの人にとって人生最高金額の売買であり、人生の最高の瞬間や最悪の瞬間に携わっていることへの使命感とやりがいを改めて実感しました。
住宅の価値は住み始めた瞬間から一気に下がっていきますが、不動産(土地)は、価値が下がらない可能性、むしろ上がる可能性も秘めています。
ドラマの中ではコテンパンにされる不動産屋の人間として、身の引き締まる思いです。
私は週に1度頻度で、不動産業界のリアルや家づくりの疑問について、更新していますので、お気軽にスキ、フォロー、コメントして下さると大変励みになり嬉しいです。
来週は不動産や家づくりに関する記事の予定です。更新をお楽しみに。
お付き合いいただきありがとうございました。
最後に心に刻まれた名台詞をいくつか。
『こいつら全員、土地狂ってる』というコピーもセンスに溢れていて最高です。