077. たわわ
一日一描。
今日は一眼レフ片手に、前のおうちがあった里山、旧八郷町へ。
収穫を待つ稲がかられる前に写真におさめておきたくて。
たわわに実ったお米たち。ここに住んですぐに娘を妊娠して、彼女が産まれた。それから私たちはお米とずっと一緒に育ってきた。
毎年初夏になり田んぼに水が張られると「もうすぐお米の赤ちゃんが来るね」と楽しみにして、苗が植わると「お米の赤ちゃん、大きくなぁれ」と声をかけて、秋になると「こんなに大きくなったね」と頭を垂れる稲穂を見つめた。
ふと、娘の目にはどんな風に映るんだろうと思い、彼女の目線でカメラを構えてみると、稲穂がこちらへこんにちは、しているように見えた。
そうか、彼女にはこんな風に見えていたのだね。知らなかった。
「お米の赤ちゃん、大きくなったね」と娘が言う。
君もね。大きくなったよ。そのあとは彼女のリクエストで筑波山神社へ行って、お参り。急な階段も私の手を振り払って、ズンズン登っていく。娘って生まれた時からそういう人だ。自分の力を全部本気で使ってみようとひたむきな人なのだ。今日は本当によく歩きました。
帰ってきて、今日撮った写真を見ながら稲のスケッチをする。
たわわに実ったお米を一粒一粒描いていると、なんだかこみ上げてくるものがあって、上手に描けず。写真と絵は表現する時間感覚が違うので、絵を描いていると自分が表現しようとしたものがじわじわと染みてくる感じがする。ふと時計を見るとすっかり夕方。用事を思い出し、いけないいけないとスケッチブックや色鉛筆もろもろを食卓に広げたまま慌てて家を飛び出し、大急ぎで娘を車へ乗せて目的地へ。
こんなにドタドタした日常もいつかは過去のものになるのだなぁと思うと、またちょっと涙腺が緩くなった。
「ママ、お腹痛いの?ご飯食べすぎたんじゃない?」と娘。
そうだよ、ママはお腹がいっぱいなのだ。