〜第5章〜 アルバム全曲解説 (21)D面-4 Riding the Scree
故郷に戻る選択肢を捨てて、急流に流される兄ジョンを助けに向かったレエルが、Scree(ガレ場)(*1)を下り、急流に飛び込むまでが表現された曲で、トニー・バンクスのキーボードが大活躍しています。アルバムからのファーストシングルであるCounting Out Time のB面としてセレクトされた曲でもあります。
【テキスト】【歌詞】とその内容
流される兄ジョンを助けに、岩場を降りていき、レエルは水の中に飛び込みます。もうカラスが落とした黄色いチューブのことなどすっかり意識から飛んでおり、目の前の兄を助けることに集中しています。
実は、【テキスト】では、次の曲 In The Rapid の内容まで、一段落で一気に書かれているのですが、この曲の内容はここまでです。
結局、故郷ニューヨークに戻らずに兄を助ける決断したレエルは、もう何も迷うこともなく、危険を顧みず、水の中に一気に飛び込むのです。
【音楽解説】
当初、Tony 9/8 というワーキングタイトルで呼ばれたこの曲は、やはりあのSupper's Ready の Apocalypse in 9/8 をイメージして作られたものであるのは明らかだと思います。お得意の9/8拍子をバックに、トニー・バンクスのキーボードソロが縦横無尽に展開されます。尚、この曲に限っては、スティーブ・ハケットがどこにいるのかわからないという指摘もあるのですが…
曲の冒頭[0:13〜]、トニー・バンクスのちょっと神経質なイメージのあるシンセサイザーソロは、恐らくレエルが岩の積み重なった斜面を焦りながら下っていくシーンを表現しているものだと思います。そして、[0:33〜]ハモンドオルガンが登場し、少しの安心感を与えた後、[1:05〜]の展開は、ほとんど「勝利のファンファーレ」的なソロとなります。歌詞の内容とは別に、ここで、「英雄の旅」におけるヒーローが「正しい選択」をして、ストーリーが勝利に向かって進んでいくことを音で表現しているのではないかと思います。
ちなみに、[1:48-2:05]の、9/8の基本リズムの上に、フィル・コリンズがこれまた細かすぎる拍子を重ね、さらにキーボードのアルペジオを乗せる手法は、Supper's Readyの[16:37-17:02]のパートと酷似しているのは間違いないところでしょう。
そして[2:10〜]ピーター・ガブリエルのボーカルに、2音で演奏されるシンセのフレーズが絡み合い、Here I Go と、ちょっと子どもじみた声色で歌われて、レエルが水に飛び込んだ直後の[3:05〜]、先の「勝利のファンファーレ」のメロディが再び高らかに演奏されるわけです。そして[3:36〜]、いかにもジェネシスらしいアウトロがフェードアウトすることによって、再び場面転換がセットされ、いよいよ物語のラストシーンにつながるのです。
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【注釈】
*1:Screeという単語は、英米ともに日常的にあまり使う言葉ではなく、地学、登山の専門用語的な言葉です。岩山の岩体から岩が崩れて堆積しているような地形を主に指す言葉で、日本語では登山用語で使われる「ガレ場」と訳すのがよさそうです。
*2:イーブル・クニーブル(Evel Knievel)は、60年代後半から70年代にかけて、バイク、車によるスタントを数多く演じたアメリカのスタントマンです。失敗して怪我をしても再びチャレンジする姿が人気を呼び、国民的な人気者になりました。1974年9月8日、まさにジェネシスのメンバーがアイランドスタジオでの作業中に、アメリカのグランドキャニオン近くのスネークリバーという川を、ロケットエンジンを搭載した車で飛び越えるというスタントが実行され、全米にテレビ中継されました。このスタントは、ロケットエンジンの強烈なGに耐えかねて、車のパラシュートが助走路上で開いてしまうという大失敗に終わるのです。ピーターがこの日のスタント失敗を知って、彼の名前を歌詞に入れたという説もあるのですが、それ以前からアメリカでは相当有名な人物だったようなので、もともとピーターは彼の事を知っていたのではないかと思います。ちなみに、1974年9月8日のスタント番組は当時日本でも放映され、わたしはそれを見た覚えがあります。そのため、この歌詞のイーブル・クニーブルのことはすぐに分かりました。