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そしてBrand X の衝撃で、フィル・コリンズはわたしの神となった

 さて、ジェネシスの A Trick Of The Tail の衝撃がまださめやらぬ1976年秋のことです。

 Brand X というバンドのファーストアルバムがリリースされるのです。それがUnorthodox Behaviour(邦題:異常行為)です。なんか怪しい邦題がつけられたこのアルバムですが、ジェネシスのアルバムでボーカリストとしても一躍有名になったフィル・コリンズが参加しているということで、ちょっと話題になったアルバムなんです。

 もうすっかりとジェネシスにハマってしまっていたわたしは、これもさっそく入手して聴いたわけですが、これがまたまた、わたしのジェネシス熱に油をそそぎ、さらにフィル・コリンズを神と崇めることとなる決定打となったわけです。このアルバムの音の凄さは、正直リターン・トゥ・フォーエバーを初めて聴いたときに匹敵するというか、恐らくそれ以上の衝撃だったのではないかと思います。

 それまでもフィル・コリンズは、かなり上手いドラマーだとは思ってたんですよ。ところが、A Trick Of The Tail で、ボーカリストとしても相当な人だということがわかり、認識を新たにしたという感じだったのですが、今度はこのアルバムで、ドラマーとしては「上手い」とかいう次元でなく、「とんでもなく凄い」んだということを、これでもかと見せつけられたわけなんですね。

 とにかく、冒頭1曲目の Nuclear Burn からものすごいテンションなんです。この疾走感のある曲はBrand Xの代表曲と言っても良いと思います。それにこのバンド、スタンリー・クラークとアル・ディ・メオラじゃありませんが、ベースとギターに、これまた凄いメンツが揃ってたんです。ベースは、パーシー・ジョーンズ、ギターはジョン・グッドソールという人で、当時無名といってもいいミュージシャンなのですが、ベースはフレットレスベースで超高速なリフを弾きまくるは、ギターはギターで、聴いたこともない変態的な速弾きをしてみたり、どうしてこう次から次へとすんごい人が出てくるのかなぁ、と呆れるような感じだったのです。

Nuclear Burn

 当時、このアルバムについては「リターン・トゥ・フォーエバーに対する、ロック界からの回答」といような評論がされていたと思うのですが、まさにそういう感じで、彼らがやったのは、ロックベースのわかりやすいメロディを、とてつもないハイテンション、ハイテクニックで演奏するというようなスタイルで、当時世界的にだんだんと盛り上がってきていたフュージョンミュージックの一断面であったことは間違いないのだと思うのです。

 一方、「ジェネシスのリードボーカルとなって、あまりドラムをたたけなくなったフィル・コリンズがその鬱憤をぶつけた」みたいな評論もあったようですが、これは違うと思います。というのは、このアルバムのレコーディングは、ジェネシスの A Trick Of The Tail より前に行われているのですよね。そのとき、フィル・コリンズはまだ自分がジェネシスのメインボーカリストになるとは思っていなかったはずなんです。さらにBrand Xは、フィル・コリンズが結成したバンドというより、ギターとベースのジョン・グッドソールとパーシー・ジョーンズによるバンドで、そこにたまたまフィル・コリンズが参加したというものだったようです。

 Brand Xは、このファーストアルバムの評価が非常に高かったために、引き続きアルバムをリリースします。ところが、セカンドアルバムMoroccan Roll 1曲目で、今度はいきなりフィル・コリンズが歌ってしまうわけですね。この辺で、ちょっとコンセプトがずれたような印象を受けてしまいます。やっぱり、ボーカリストとしても成功したフィル・コリンズがちょっと調子こいてしまったのでしょうか(笑) 実は、アルバム内容も期待したほどでは無かったのでした。

Moroccan Roll(1977)

Wikiによれば、Moroccan Roll とは、more rock and roll をもじった造語とのことですが、どこが rock and roll なのかまるで分からない作品です。これも、よく正反対のことを言うイギリス流ジョークなのでしょうか? 1曲目 Sun In The Nightはフィルが歌っていますが、歌詞が何故かサンスクリット語という意味不明ぶり。前作にあった疾走感のあるナンバーも、せいぜい Malaga Virgen とMacrocosm くらいで、なんだか実に肩透かしを食らったセカンドアルバムだったのでした。

Livestock(1977)

初期Brand Xの貴重なライブアルバム。当時のバンドのテンションを知ると言う意味でも、このアルバムは一聴の価値あると思います。ただ、フィル・コリンズはもはやメインとして参加していないのですが。

 ライブアルバムを挟んでリリースされたスタジオサードアルバムは原点回帰な感じで割と良かったのですが、よく見ると、このアルバムにはもうフィル・コリンズが参加してないのですよね。この時期フィルは、ジェネシスの過酷なツアー(この年日本にも来たくらい)と家庭問題(最初の離婚)のために、もうそれどころじゃ無かったのでしょう。

Masques(1978)

フィル・コリンズが参加していないので、歌ものは無し。それがかえって原点回帰の印象を深めたような気がします。メロディックな疾走感が少し戻ってきたとでも言いましょうか。このアルバムから参加した、モーリス・パートというパーカショニストがいるのですが、この人が作曲面でかなり貢献してるようです。

 ところが、4thアルバムではまたまたフィル・コリンズが参加、またしても歌がフィーチャーされるんですね。こんどは2曲も。前作でちょっと路線が戻ったかと思ったら、オリジナルメンバーのフィル・コリンズが帰ってきたら、また路線がブレるという…。何やってるんだよ(笑)

Product(1979)

1曲目のDon't Make Wavesが、普通のロック路線でフィルの歌が入って、「これはBrand Xなのか?」という印象の曲なんです。2曲目は、らしい曲でしたが、3曲目Sohoが、またしてもフィルのポップなボーカル曲。バンドメンバーは2チームに分かれたような状態でもあり、結局バンドとしての方向性が見えない感じにまたまた戻ってしまったように感じたのでした。

こうして、この5枚目のアルバムを聴いたところで、わたしとしては完全に興味を失ってしまったのですよね。

Do They Hurt?(1980)

これまで買った全アルバム中で、一番悲しく感じたアルバムと言っても良いかもしれません。とにかくわたしには1曲も刺さる曲がなかったのです。当時は全く知らなかったのですが、これは前作Productのレコーディング時のアウトテイクを集めたアルバムなんだそうですね。恐らくバンドとしての実態が無くなってしまったにもかかわらず、録音した曲があったので、それを集めて、ヒプノシスのジャケットくっつくけて一丁上がり!という感じだったのでしょうね。世界的なフュージョンブームのまっただ中の時期で、うまくやればもっとチャンスがあったと思うんですが、バンドとしては、もう終わっていたということだと思います。

 Unorthodox Behaviour の衝撃があまりにも凄かったために、「あれ?」っと思ってもずっと買い続けていたのですが、Do They Hurt? まで6枚買い続けたところで、さすがに「もういいや」になってしまったわけですね。1980年は、ジェネシスの名盤 Duke が出た年ですし、Brand Xについては、神とあがめるフィル・コリンズがいたとしても、もはや「フィル・コリンズが叩いてる曲が入ってれば、何でもいいってわけじゃねーぞ(怒)」という感じになってしまったのですね…。翌81年になれば、いよいよフィル・コリンズの1stソロアルバムが発売されるわけで、もうBrand Xなんか聴かなくても、フィル・コリンズがいっぱい聴けるという状態に、もう少しでなるわけです(笑)



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