〜第5章〜 アルバム全曲解説 (19)D面-2 Ravine
スリッパーマンの次は、再びインストゥルメンタルです。もうおわかりだと思いますが、この曲も、ステージでのスリッパーマンのコスチュームから、元のレエルの衣装に着替えるための時間稼ぎのための曲です。
【テキスト】【歌詞】とその内容
この曲もインストゥルメンタルですので【歌詞】はありません。さらに、スリッパーマンの前の曲 Silent Sorrow in Empty Boats と同じで、この曲についての【テキスト】も存在しないようです。スリッパーマンのエンディングの次の【テキスト】は、この次の The Light Dies Down on Broadway の曲の冒頭部分だと思います。
ライブでピーターはこのような【MC】をしていたようです。
この曲の題名であるRavine(渓谷)は、水面に文字として浮かんでいたというような表現です。ピーターが着ぐるみを被った The Colony of Slipperman では、曲の途中の A Visit to the Doktorの パートで去勢手術を受けたレエルは、ここでスリッパーマンから元の姿に戻っているはずで、だからこそ The Raven のシーンで、カラスを追いかけて全力疾走できると思うのですね。でも、曲の途中では衣装を変える時間がとれないので、実際のステージでは The Colony of Slipperman は、スリッパーマンの着ぐるみで通したようです。
そして、この曲では、渓流に流されていく自分の性器入りチューブを眺めるレエルの絶望的な心境が表現されているのだと思います。
【音楽解説】
曲は、やはり Silent Sorrow in Empty Boats と同じく、Popol Vuh のサウンドトラックとの類似点が指摘されています。ワーキングタイトルは Storm at Sea というもので、Victory at Sea というワーキングタイトルだった Silent Sorrow in Empty Boats と同じタイミングで、Headly Grange において作られた曲であるのは間違いないところでしょう。
曲は、マイク・ラザフォードが弾く12弦ギターの速いコードストロークのバックに雰囲気のあるノイズとシンセサイザーが重なっています。
この曲を通して風の音のようなノイズが使われています。もともと、こういうノイズは、まさにシンセサイザーが得意とするノイズであるわけです。ところが、トニー・バンクスは、The Lambのレコーディングには Arp のProSoloist というプリセットタイプの小型シンセサイザーしか使っていないのです。
トニーは、次の A Trick of The Tail のレコーディングから、Arp 2600というモジュラー型の大型シンセを導入しますが、The Lamb で使っていた ProSoloist ではこのノイズは出せないのです。つまり、この風のようなノイズ音は、スティーブ・ハケットが出しているものなのです。
EMS Synthi Hi Fli というのは、以前 Counting out Time のギターそろでスティーブが使ったエフェクターで、初期のギターシンセサイザーです。でもスティーブはそれではなく、ギタリストが普通に使う機材だけでこれをやったということです。
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