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〜第5章〜 アルバム全曲解説 (20)D面-3 The Light Dies Down on Broadway

歌詞はこちら

アルバム中唯一、トニー・バンクスとマイク・ラザフォードが歌詞を書いた曲で、アルバム冒頭のタイトル曲のメロディがアレンジを変えて登場します。異世界を旅してきたレエルが、再びニューヨークの景色を見るシーンが歌われます。



【テキスト】【歌詞】とその内容

Seeing the dangers of the steep cliff, our courageous hero stands impotent and glowers. He follows a small path running along the top, and watches the tube bobbing up and down in the water as the fast current carries it away. However, as he walks around a corner Rael sees a sky-light above him, apparently built into the bank. Through it he can see the green grass of home, well not exactly; he can see Broadway. His heart, now a little bristly, is shaken by a surge of joy and he starts to run, arms wide open, to the way out. At this precise point in time his ears pick up a voice screaming for help. Someone is struggling in the rapids below. It's John. He pauses for a moment remembering how his brother had abandoned him. Then the window begins to fade -- it's time for action.
険しい崖の危険性を目の当たりにした勇敢なヒーローは、力なく立ちすくみ、睨みつける。彼は頂上に沿って走る小さな道をたどり、速い流れに流されるチューブが水の中で上下に揺れるのを眺める。しかし、角を曲がると、レエルは頭上に空からの光を見た。どうやらその天窓は土手に埋め込まれているようだ。それを通して彼は故郷の緑の芝を見ることができた。いやそれは正確じゃない。彼はブロードウェイを見たのだ。少し緊張していた彼の心は喜びの波に揺さぶられ、両手を広げて出口に向かって走り出した。その時、彼の耳は助けを求める声を拾った。下の瀬で誰かがもがいている。ジョンだ。彼は兄に捨てられたことを思い出し、しばらく立ち止まる。そして窓が消え始める-- 行動の時だ。

【テキスト】

そしてトニー・バンクスとマイク・ラザフォードが書いた歌詞は、これまでほとんど1人称視点で語られていたのと異なり、ここでは3人称視点となり、変なダジャレもなく、わかりやすい表現となっています。

As he walks along the gorge's edge
He meets a sense of yesteryear
A window in the bank above his head
Reveals his home amidst the streets
峡谷の縁を歩きながら
彼は往年の感覚に出会う
頭上の土手の窓には
ストリートのなかの彼の家が見える

【歌詞】

カラスを追いかけて渓谷の縁を歩いていると、彼は土手に埋め込まれた窓のようなものを通して、故郷のニューヨークが見えている事に気づくというわけです。そして、押し寄せる郷愁の思いが歌われるのです。

Is this the way out from the endless scene
Or just an entrance to another dream?
And the light dies down on Broadway
これは果てしない光景からの出口なのか?
それとも別の夢への入り口なのか?
そしてブロードウェイの光が死に絶える

【歌詞】

ここで、この窓に飛び込めば、この不可思議な世界から、また自分の故郷に戻れるのだと悟った次に…

But as the skylight beckons him to leave
He hears a scream from far below
Within the raging water writhes the form
Of brother John, he cries for help
しかし、天窓が彼を手招きしているのに
はるか下から悲鳴が聞こえる
荒れ狂う水の中で、
兄のジョンが助けを求めて叫んでる

【歌詞】

兄ジョンが助けを求める声が下から聞こえてくるのです。見ると、ジョンは急流に流されています。そしてブロードウェイへのゲートは消えかかっていて、そのままにしておくと閉じてしまいそうです。今飛び込めば故郷に帰れるかもしれない。ジョンを助けに行けば、その可能性は無くなる。どうするレエル!

ちなみに、ほぼ3人称で書かれている歌詞の中で、ここだけレエルの1人称で書かれています。これは人称が混乱しているのではなく、緊張感を高めるためのテクニックで、意図的なものだと思います。

But John is drowning, I must decide
Between the freedom I had in the rat-race
Or to stay forever in this forsaken place
"Hey John!"
しかしジョンは溺れている、僕は決断しなきゃ
ラットレースで得る自由をとるか
それともこの見捨てられた場所に永遠に留まるか
"おい、ジョン!"

【歌詞】

そして、兄ジョンを救出することを決断したレエルは、川に降りていき、故郷へのゲートは閉ざされるわけです。

He makes for the river and the gate is gone
Back to the void where it came from
And the light dies down on Broadway
彼は川へ向かい、ゲートは消えた
元の虚空に戻る
そしてブロードウェイの光が死に絶える

【歌詞】

こうしてレエルは、これまで2度も裏切られた兄ジョンを、自分が故郷に帰る望みを捨ててまで救出に向かうのです。そしてこれはレエルにとって「正しい決断」だったということなのでしょう。


ピーター・ガブリエルはなぜこの曲の詩を書かなかったのか?

日本語に訳した歌詞をなんとなく眺めても、やはりこの曲の歌詞はこれまでガブリエルが書いてきたものとは明らかに異なる雰囲気があり、ネイティブの人であればここで違和感を持つのは普通のようです。さらに、歌詞の冒頭に使われている yesteryear という言葉も、やはりレエルというキャラクターにそぐわない、かなり古風な英語の表現であるという指摘もあります。

ただ一方、この曲は非常に重要なストーリーの転換点で、3人称視点という、いわば「作者目線」での記述は、たまたまマイクとトニーの歌詞がそうなってしまったのではなく、これもピーターの指示のような気もするのです。

Things got so bad that Pete eventually had to ask Tony and me to write the lyrics to ‘The Light Dies Down on Broadway’. He gave us a brief so what we produced was much less flowery than our usual style and I felt it ended up being quite in keeping with the album.
(歌詞の遅れが)あまりにひどいので、ピートは結局 The Light Dies Down on Broadway の歌詞の制作をトニーと僕に依頼せざるを得なくなったんだ。ピートからの指示で作ったのは、いつもの僕らのスタイルよりもずっと華やかさがなかったけど、結果的にこのアルバムにとてもマッチしたものになったと思うよ。

The Living Years / Mike Rutherford

以前も引用しましたが、マイク・ラザフォードは自伝でこう語っています。やはり最後のアイランドスタジオでの作業中、切羽詰まったピーターが困り果ててトニーとマイクに助けを求めたということなのでしょう。ここからは勝手な想像ですが、だからといって丸投げしたわけではなく、2人にしっかりと指示をしたのだと思います。そして、歌詞の内容だけでなく、「3人称視点」の部分もピーターの指示で、その中にレエルの1人称視点をアクセントとして入れたのは、トニーとマイクのアイデアだったのではないかという気がするのです。最初からピーターはこの曲の場面は、大きな場面転換でもあることから【テキスト】冒頭に出てきた「神の視点」をここで再び表現する(ある意味、これもリプライズのような気がします)ようなアイデアがあり、その部分だけなら彼らに任せても多分何とかなるとか考えたのかもしれません。ただ、この件については、ピーター・ガブリエルは何もコメントしておらず、アルバムに Copyright Peter Gabriel 1974 とクレジットしてしまった手前、まあ自分からは話したりしないことにはなっているのではないのかなと思ったりします。


【音楽解説】

冒頭書いたように、タイトル曲である The Lamb Lies Down on Broadway のメロディー(アルバム唯一のピーターとトニーの共作メロディ)を再加工して作られた曲です。このような、以前の曲のメロディがアレンジを変えて再度登場するというのは、ビートルズが Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band で用いた手法であり、その後は、コンセプトアルバム、トータルアルバムの「統一性」の表現としてよく使われた手法です。プログレ方面でも、例えばムーディー・ブルースの Days of Future Passed(1967)などでも多用されています。

ストーリー的にも、不可思議な旅を続けるレエルが、生まれ故郷のニューヨークの風景を見て郷愁に駆られるシーンとして、アルバム冒頭のタイトル曲のメロディがもう一度出てくるというのは、まさにぴったりの演出だと思います。

ただ、彼らはここでタイトル曲だけではなく、The Lamia のブリッジ部分のメロディーをも使っており、リプライズを二重化するような、ちょっと凝ったことを行っているのです。これが、どういう意味があるのかという点については、ほとんど議論されていないようです。これは、ひょっとすると、ニューヨークへの郷愁だけでなく、旅の途中での忘れ得ぬ経験も郷愁のひとつとして表現したという意図だったのか、それとも何となく使えるメロディがうまくハマっただけの結果なのか、これについてもメンバーのコメントは一切無いので、想像するしかないのですが(^^)

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