最近中国でヒットしている日本のマンガや当局による規制など(2021年4月版)
中国で今注目を集めている作品やそのきっかけとなった事柄、中国当局による規制などをまとめてみました。
はじめに
こんにちは。Spicemart(スパイスマート)です。
私たちはアジアや北米を中心に、ゲームの開発・運用に役立つ情報を収集・分析し、お客さまであるゲーム企業に情報提供をしている調査会社です。
このnoteでは、「ゲームやアニメが好き」「世界のゲーム事情を知りたい」といった方々にも興味を持っていただけるような内容を、月に2〜3本配信しています。
今回は、中国の旬の情報をお届けします。
最近、人気を集めている日本作品(2021年1月~4月)
数多くの日本マンガ・アニメ作品が出回っているため、中国の日本作品ランキングでTOP10入りすることは簡単なことではありません。
そこで、まずは中国で中心となるネット配信サイトで、今年に入ってランクインした作品を紹介していこうと思います。
翌月にはTOP10から外れる場合もありますが、旬な作品と言えるでしょう。
●騰訊動漫(Tencent Animation and Comics)
楽天への出資で話題となったテンセントが運営するサイトです。
現在、中国で影響⼒が最も大きいと言われており、中国産マンガ、アニメのインキュベーターでもあります。
【2021年1〜4月の新規ランクイン作品】
◆1月
8位 家庭教師ヒットマンREBORN!
9位 終わりのセラフ
10位 ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン
◆2月
6位 BEASTARS
10位 キングダム
◆3月
7位 ⻫⽊楠雄のψ難
10位 約束のネバーランド
◆4月
8位 新テニスの王子様
10位 ダイヤのA act2
【2021年4月の⽇本アニメ⼈気ランキングTOP10】
●快看漫画(Kuaikan Comic)
中国の新世代型コンテンツコミュニティで、アプリのユーザーは2億⼈を超え、⽉間アクティブユーザーも4,000万人を超える人気サイトです。
【2021年1〜4月の新規ランクイン作品】
◆1月
10位 君の名は
◆2月
3位 キスまで、あと一秒
9位 アオハライド
10位 星の花
◆3月
8位 密かな花笑み
10位 花のみぞ知る
◆4月
5位 シャドーハウス
10位 ちぐはぐ恋模様
【2021年4月の⽇本アニメ⼈気ランキングTOP10】
●百度視頻(Baidu Video)
YahooやGoogleに対抗する中国語圏最⼤の検索エンジンBaiduのサイトです。Baidu本体のユーザーが多いため、こちらにもかなりのユーザーがついています。
【2021年1〜4月の新規ランクイン作品】
◆1月
5位 ホリミヤ
7位 東京魔人學園剣風帖
9位 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
10位 クロスアンジュ 天使と⻯の輪舞
◆2月
3位 ウルトラマンタロウ TV版
8位 フリー!
◆3月
4位 ブラッククローバー
6位 BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS
8位 バジリスク 〜甲賀忍法帖〜
10位 クレヨンしんちゃん 全話版
◆4月
7位 堀さんと宮村くん OVA版
8位 小林さんちのメイドラゴン
9位 SLAM DUNK
10位 ぐらんぶる
【2021年4月の⽇本アニメ⼈気ランキングTOP10】
※その他の配信サイトや長期ランクイン作品については下記にまとめましたので、ご参照ください。
ランクインのきっかけ
世界中から数多の作品が押し寄せる中国で、作品の面白さや完成度以外に、人気に火がつく、あるいは再燃するきっかけは何だったのでしょうか。
●映画・実写版がきっかけ
今年、中国出身のクロエ・ジャオ監督が『ノマドランド』でアカデミー賞を受賞しました。
この時、同じくノミネートされていたリー・アイザック・チョン監督(韓国系アメリカ人)が、『君の名は』の実写版をハリウッドで映画化するそうです。
もともと『君の名は』は映画のヒットにより、小説やマンガも人気を集めていましたが、今回のアカデミー賞でさらに注目が集まっているものと推測されます。
また『キングダム』も実写版の映画が制作されたことで、広く知れ渡るようになりました。
上記サイト以外になりますが、『今際の国のアリス』や『ヒカルの碁』などもドラマ放映がきっかけでランクインとなっています。
●人気キャラクターだから
『ウルトラマン』『クレヨンしんちゃん』『ポケットモンスタ‐』など中国で知名度の高いキャラクターは、ネット配信でも頻繁にランク入りします。
最近では『ジョジョの奇妙な冒険』『⻤滅の刃』『BEASTARS』などもそれらに仲間入りしつつあり、何度もランキングに顔を見せるようになりました。
また今回、久しぶりに『SLAM DUNK』がランクイン。
この作品は過去、社会現象となるほど中国で人気を博しており、今でも鎌倉に多くのファンが訪れるということが報道されています。
今回も、新作がでるという情報をキャッチしたファンから人気が再燃したようです。
●ゲームとのコラボがきっかけ
中国のゲーム業界では、春節(旧正月)の長期休暇に合わせて、大々的にイベントを打ち出し、集客や課金に導くことが慣例化しています。
マンガやアニメとのコラボもその一つで、上記Tencent Animationにランクインした『約束のネバーランド』は、⼈気モバイルゲーム『Identity V』との春節コラボにより、知名度が大きくアップしました。
人気キャラクターを使ってゲームを盛り上げることはよくありますが、ゲームの人気が原作マンガへと飛び火した一例と言えるでしょう。
そのほか今年は、『⻤滅の刃』とコラボを実施するゲームがあったり、車のアストンマーティンや飛行機のエアバスとのコラボがあったりと、コロナ禍であっても春節らしい賑わいを見せていました。
春節以外でも、マンガやアニメとのコラボは頻繁に行われています。
例えば、『プリンセスコネクト!Re:Dive』は1周年記念として、人気アニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』とのコラボを実施したことで、セールスランキングを上昇させています。
またゲーム『ラングリッサー』においては、ほぼ1シーズンごとに他のIPとコラボイベントを開催しています。
今年3月に行ったアニメ『鎧伝サムライトルーパー』とのコラボでは、数々の刺激策とあいまって、セールスランキングが100位から15位にまで上昇していました。
中国オリジナル作品が著しい成長を遂げている中、日本のマンガやアニメ作品に注目を集めるためには、人気ゲームとのコラボも一つの手段と言えるでしょう。
●サイト自体が力を入れている
快看漫画(Kuaikan Comic)は、女性向けマンガに力を入れていた時期があるため、ランキングには『キスまで、あと一秒』『アオハライド』などの女性向けマンガが多くみられます。
『密かな花笑み』はガールズラブ、『花のみぞ知る』はボーイズラブ、と中国のBL人気もランキングから垣間見ることができます。
日本作品を読み漁るユーザーが集まるbilibiliでの人気作品(2021年4月)
日本アニメと言えばbilibili、と言われるほどコアなファンが集まることで有名なサイトです。
bilibiliは月間のランキングを発表していないため、最終週のデータを参考として抽出し、当社で4月のランキングを作っています。
こちらは10位以降も含めて4月のランキングをご紹介したいと思います。
●bilibili漫画(bilibili Comic)
「中国のYouTube」と言われるbilibiliが運営する有料のマンガメディアです。⽇本・中国・アメリカなど様々な国の作品をカバーしており、他のサイトよりも作品公開スピードが早いのが特徴です。
【2021年4月の⽇本マンガ⼈気ランキング】
『ONE PEACE』がトップ1となるサイトが多い中、bilibiliのマンガサイトでは『呪術廻戦』が高い人気を誇っています。
4月のランキングでは前月19位だった『BEASTARS ビースターズ』がランク外となり、映画公開の影響か『名探偵コナン』が19位に復活しています。
また、12位の『極主夫道』は中国でもドラマが注目を集めており、原作マンガに飛び火した模様です。
●bilibili動画(bilibili)
もっとも有名なサブカルファンのコミュニティです。
日本アニメの放送権獲得に力を入れており、その中には独占配信となる作品も多くあります。中国でマイナーな作品であっても、人気を得ているのが特徴です。
【2021年4月の⽇本アニメ⼈気ランキング】
『ウマ娘 プリティーダービー』は、日本での大ヒットが伝わり、中国でも注⽬を集めています。
『極主夫道』はこちらでは3位に上昇しており、やはりドラマの影響が大きいことがわかります。
そのほかとしては、前月24位だった『働く細胞』や26位『アズールレーン』がトップ50圏外となりました。
『はたらく細胞』はテレビ放映がきっかけでランクイン、『アズールレーン』はモバイルゲームの影響で先月急上昇した作品でした。
参考までに、bilibiliサイトでの2020年アニメ投票の結果もご紹介します。こちらはbilibiliが集計したものになります。
【2020年放映作品の中で好きなアニメランキング】
1位 進撃の巨人
2位 呪術廻戦
3位 Re:ゼロから始める異世界生活
4位 とある科学の超電磁砲
5位 魔女の旅々
https://www.bilibili.com/blackboard/AOY2020_ranking_list.html#scene1-slide0
中国当局の規制状況
ゲーム分野においては、2021年4⽉1⽇から、従来の審査制度に「評点評価システム過程」というものが追加されました。
今後はすべてのゲームがコンテンツ審査の後に、さらに別の審査を通過することになります。
追加された審査では2⼈以上の専⾨家がチームとなり、「観念誘導」「創造的なデザイン」「制作品質」「⽂化/教養」「開発⽔準」の5つの分野についてゲームを評価していくそうです。
各項⽬ 0〜5点で評価され、3点以上であれば審査を通過、 0点の項⽬が⼀つでもあればゲームを修正しなければなりません。
つまり、中国における規制はかなり厳しくなったと言えます。
当局の政策以外でも、新疆ウイグル族への⼈権弾圧問題 により新疆産の綿花を使⽤しないと発表したグロー バルファッションブランドに対する報復が、 ゲーム業界でも広がっています。
中国のLeague of LegendsのプロリーグLPLは、 放送スポンサーリストからナイキを除外しましたし、Tencentは⼈気ゲーム『王者荣耀』でバー バリーとコラボ制作したキャラクタースキンを削除しました。
当然、コミック・アニメ分野でも今後、様々な面で規制が強化されることが予想されます。
実際「当局が規制に乗り出したのでは?」というニュースも流れてきています。
昨今のマンガ・アニメ分野では、海賊版を排除し正規版を広げたほうが監視強化しやすいため、”各オンラインメディアが自主検閲を行う”という曖昧な状況が続いてきました。
それゆえ多くのマンガやアニメが日本から輸出され、リアルタイムで放映されてきたわけです。
しかしながら、過去には『進撃の巨人』『デスノート』などが有害なものと規制され、配信停止に陥っています。
配信されなければ人気は出ません。
中国は、元々性的描写やグロテスクな表現には厳しい国です。
作品自体が規制を受けずとも、「ふさわしくない」と判断された場合には、ぼかしが入れられた上で放映されています。
今後は反政治勢力を煽ると判断されたり、賭博や麻薬類、あるいは観念誘導とみなされるものは、規制される恐れがあります。
そうなると配信サイトによる新作買い控えや、作品自体のクオリティ低下にも繋がりかねません。
今後日本作品を中国市場でヒットさせるには、規制などの政治状況を乗り越えた上で、ドラマやゲームとのコラボなどユーザーの注目を集めるきっかけ作りがさらに重要になっていくのではないでしょうか。
マンガやアニメは一時規制がかかったとしても、ゲーム上でそのキャラクターを存在させておけば、規制が緩んだ際に、人気再燃となるきっかけとなるかもしれません。
そして、たとえマンガやアニメを取り囲む政治状況に変化が生じたとしても、『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『ONE PIECE』などのように、幾多の規制を乗り越え、中国で燦然と輝き続けている作品があることも、忘れてはならないでしょう。
今後もSpicemartはゲーム市場だけでなく、中国のマンガ・アニメ市場にも注目してまいります。
読者の皆様には、今後も引き続き様々な情報をお届けします。
冒頭にも記載しましたが月に2〜3本の記事をアップする予定です。
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