オス豚の憂鬱(前編) 〜おとこはつらいよ
オス豚とは
北海道の日高町の奥地にある
CURLY FLATS FARMでは、食用の未去勢オス豚がうじゃうじゃと放牧されています。(実際うじゃうじゃいるとシャレにならない喧嘩になるので、大きくなったらなるべく数頭ずつ放牧です)
これまでオス豚はなかなか辛い立場にありました。
それはほとんど全ての4本足家畜に共通する苦悩に由来します。
それは雄臭(おすしゅう)。
オスは成長する過程で性的に成熟してくると独特の体臭を身に纏います。
おそらくそれがメスを惹きつけ、自らの能力を周囲に知らせる役割を果たすのだろうと思います。
豚の場合、個体にもよりますが、生後4、5ヶ月から性的な発達が始まり8、9ヶ月あたりで成熟に達すると言われています。
この雄臭はスカトールとアンドステロンというホルモンによるもので、人間にとって非常に強く不快な香り、ひどいものは糞臭に近い匂いとなります。
雄臭の原因物質の多くは豚の脂肪に沈着し、加熱調理の際により一層不快な匂いをばら撒きます。
また、成長過程でテストステロンの働きによって、肉付きが悪くなり、肉質も硬くジューシーさを失っていくとされています。
このことが、オスとして生まれた豚の「家畜として」の利用価値を著しく低いものたらしめています。
そこで、人間たちが考え出した対策が「去勢」です。
去勢あれこれ
オスとして生まれた家畜は、多かれ少なかれこの雄臭という問題に対処するために、去勢という手段によって食に供されて来ました。
家畜の去勢には、その身体的構造に合わせて様々な方法が取られています。
豚の場合、母乳の免疫が強く影響している間の生後10日くらいまでの間に処置をします。
慣習的な方法として、子豚を逆さまに固定して睾丸をメスで切り開き、精巣を取り出すというやり方が一般的です。
このようにいうと簡単そうですが、「慣習的には」麻酔はなく、そのまま切り開き、取り出した精巣を切り落とすかまたは引きちぎる(!)。
そして、いわゆる赤チンを塗っておけば数日で傷は塞がる、というものです。
これが一般的な方法ではありますが、実際全ての個体がこれで全然OKではないわけです。
隣家の元養豚家さんによると、傷口が化膿して亡くなったり、ショック・ストレスで亡くなる子もいるそうです。
ましてや、放牧地で生まれる子豚たちに血の匂いと傷があるということは、カラスなどの野生動物の恰好の攻撃対象となり得ます。
では、このような痛々しい方法で去勢する以外にやりかたはないのか?
ということで、製薬会社は模索を始めました。
そこで、登場したのが、免疫製剤です。
生後すぐに1回目の免疫製剤を注射し、出荷2ヶ月程度前に2回目の注射をすることで、免疫が活性化し精巣を無力化します。(厳密には生後すぐでなくても、2回目注射との間隔を8週間以上空けて実施すれば良い)
これは恒久的な去勢ではなく、出荷してお肉になるその時に合わせて去勢し、匂いと品質の問題を取り除くことになります。
この方法なら豚に与えるストレスも少なく、目的を達成することができます。
ただし、免疫製剤は長期保存が効きませんし、決して安価ではありません。
わたしたちのファーム は豚を檻の中で飼うのではなく、外に放牧しています。2度目の注射は、放牧地を元気に走り回っている状態で行うことになります。
確実に実施できるでしょうか?
ちなみにEUではすでに麻酔なしの去勢は禁止。
食肉に関して長い歴史があるヨーロッパでは、同時にアニマルウェルフェアの考え方もずっと進んでいます。
EUでは生産者、と畜場、製造者など食肉をとりまくすべての職業がこの考え方に基づいて、それぞれの分野で工夫できることをわかりやすく提示して取り組みを強化しています。
国によっては全身麻酔を要求するところもあります。
各国の現状としては、麻酔下での去勢を選ぶ生産者がほとんどで、免疫製剤の使用の割合は低いようです。
また、スペインでは動物福祉の問題がクローズアップされる以前からそもそも豚を若いうちに出荷する風習だったので、当然雄臭の問題は起きておらず、オスとメスの肉に価格的な価値の違いはないということでした。
4つ足の家畜というと、CURLY FLATS FARMには羊やヤギもいますが、彼らの場合は睾丸の形状的に(要するにぶらぶらしてる)子供の時に根元をゴムで結紮できるので、自然に脱落させるという形で去勢しています。
(豚の睾丸は縦にピッタリ体についているので、結紮方式がムズカシイ)
そのままではいけないか
去勢という作業は養豚家にとってもいやな作業の一つです。
しなければならないからしています。
CURLY FLATS FARM では、基本的にはオスに対して去勢をしない。または、麻酔をした上で獣医師に依頼して去勢処置をする。
そのように初めから決まっていました。
欧州の動向に倣い、いずれそのような波が日本にも来るかもしれないとオーナーが初めて豚を連れてきたときに決めたのです。
そのままではいけないのだろうか?
なにかやり方はないのだろうか?
よかったら後編もどうぞ。
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