男の作法
鬼平犯科帳や剣客商売などでおなじみの池波正太郎、もうお亡くなりになってしまいましたが、グルメでも有名でした。
かなり前に池波正太郎さんの書いた「男の作法」という著書を読みました。
ここに書かれていたことはいまだにわたしの根底にしみついています。
天ぷら屋に行くときはよ、腹ペコで行かなきゃお店に失礼だ。
だから、天ぷら屋では、揚がったら食う揚がったら食うを心がけるもんだ。
寿司屋に行くときはよ、一見さんだったらいきなりカウンターの真ん中に座っちゃぁいけねぇよ。
カウンターは常連さんの席なので一見さんがでっけぇ面して寿司をつまんでると店にも常連さんにも印象が悪い。
最初の店はテーブルに着くか、どうしてもカウンターに座りたいなら、店主に断って隅っこに座るのが礼儀だ。
とか、お店とお客の不文律の流儀を事細かに教えていただきました。
今や古の作法なのでしょうが、お客様との会食や話のネタに大変参考にさせてもらったものです。
さて、その中で、最もうまい酒の飲み方というのがあります。
それが「蕎麦屋の独酌」
蕎麦屋に入ってそばを頼み、出来るまでの時間、熱燗をチビチビやる。
池波正太郎は、この小さなひと時のひとり酒が最高の酒と言っています。
これは、若き日のわたしにはわかりませんでした。
十数年前の話です。
仕事の師匠である会長が引退するので昼飯を付き合えと言われて、ついていきました。
昼とはいっても11時頃です。会長行きつけの蕎麦屋でした。
そういえば昔会長に誘われて何度か昼酒と蕎麦に付き合わされましたっけ。
会長は、いつものようにざる蕎麦と熱燗、わたしは天ざる。
蕎麦ができるまでの差しつ差されつの酒は美味く、気持ちも和んだ時、会長が語り出しました。
「君とこうして昼飯を食べるのもこれで最後だ。
本当によく付き合ってくれた、ありがとう。」
会長…
昼日中、蕎麦屋でお猪口を握りしめ慟哭したのは初めてでした。
この時は独酌ではなかったけど、昔の江戸っ子の粋っていうんでしょうか、寂びっていうんでしょうか、すごく大切な何か(サムシンググレート)がありますね。
わたしは「蕎麦屋の独酌」をやる人と出会い、連れ酌で「蕎麦屋の独酌」を心底理解させていただきました。
作法は口伝で伝わっていくのです。
この時代 「男の作法」なんて言うとジェンダーレス的にはアウトなんでしょうけどね。
こういう粋って言うのもラストサムライみたいなもので、絶滅危惧のスピリッツなのでしょうね。
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