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「フォロワーの影」2
第二章 影のフォロワー
真琴の日常は、ますますSNSに支配されていった。講義中でも、友人との会話中でも、彼は常にスマホの画面をチェックしていた。新しいフォロワーが増えるたびに心が軽くなり、投稿に「いいね!」が増えるたびに達成感を感じた。しかし、その一方で、例の謎のフォロワーからのコメントが、日に日に増えていった。
「本当に楽しそうだね?」
「君の笑顔、何か隠してない?」
最初はただの冷やかしだと思っていたが、その言葉は次第に真琴の心に深く刺さるようになってきた。SNSの世界で成功を手にしているはずなのに、なぜかそのフォロワーだけが彼の本当の気持ちを見透かしているかのようだった。
ある日、真琴は一人でカフェにいた。彼はいつものようにカフェラテを注文し、スマホを取り出してSNSのアカウントを開いた。その日は特別な日だった。新しい投稿がバズり、一気にフォロワーが数千人増えたのだ。コメント欄は祝福と称賛で埋め尽くされていた。
「さすが!真琴さん最高!」
「いつも楽しみにしてます!」
「これからも応援してます!」
しかし、その中にまたしてもあの謎のフォロワーのコメントが紛れ込んでいた。
「人気者になったんだね。でも、それは本当に君が望んだもの?」
真琴はそのコメントを見た瞬間、心臓が一瞬止まったような感覚に陥った。なぜ、こんなにも自分の内面を突かれるようなコメントができるのか。彼はすぐにそのフォロワーのプロフィールを開いたが、情報は相変わらず何もない。名前も、アイコンも、投稿もない。「空っぽ」のアカウントだ。
不気味さを感じながらも、真琴は無視することに決めた。「どうせただの嫌がらせだろう」と自分に言い聞かせて、次の投稿のことを考えるようにした。しかし、その夜ベッドに入ると、ふとした不安が彼を襲った。「このフォロワーは一体誰なんだ?」彼の心の奥底で、その問いが静かに渦巻いていた。
翌日、真琴は友人の佐藤とランチをしていた。佐藤は真琴と同じ大学に通う友人で、最近は真琴のSNS活動にも少し距離を置いていたが、それでも昔からの親しい友人だった。
「最近、どう?SNSで大成功じゃん。」佐藤が微笑んで言った。
「まあね。ありがたいことに、フォロワーも増えてきたよ。」真琴は一応の返事をしたが、その言葉にはどこか自信が感じられなかった。
「でもさ、なんかお前、ちょっと疲れてないか?前ほど楽しそうに見えないんだよな。」佐藤の言葉に、真琴は一瞬言葉を詰まらせた。
「そんなことないよ。ただ、いろいろ忙しくてさ。」真琴は笑ってごまかしたが、心の中では確かに感じていた。SNSの成功が増すほどに、自分自身が追い詰められているような感覚に。彼は常に「完璧な自分」を演じなければならないというプレッシャーを感じていた。
ランチを終えた後、真琴は再びスマホを開き、いつものように投稿を確認した。そして、またしてもあのフォロワーからのコメントがあった。
「演じるのは疲れるよね。本当の自分を見せたらどう?」
その瞬間、真琴は恐怖を感じた。まるでそのフォロワーが自分の心の中を覗いているかのようだった。彼は耐えきれず、そのアカウントをブロックしようとした。しかし、ブロックボタンを押す直前で手が止まった。「このままでいいのか?」と心の奥底で声が囁いた。
その夜、真琴は再び考え始めた。「僕は一体、誰に向けてこの投稿をしているのだろう?」SNSの世界で作り上げた「早川真琴」は、みんなが望む理想像だった。しかし、その仮面を外した時、自分は一体何を持っているのだろうか?
彼は眠れぬ夜を過ごし、翌朝も同じ問いが頭の中をぐるぐると巡っていた。これまで無視していたそのフォロワーのコメントが、次第に彼の心に深く刻まれていった。
「僕は、本当に僕なのか?」