(連載小説:第1話)小さな世界の片隅で。
こんにちは、徒歩です。いっきに寒くなりましたね。皆様、体調に気を付け、風邪等ひかぬよう、お気をつけください。
今年から始める僕の挑戦として、連載の小説(創作)を初めてみようと思います。不定期で更新していきます。ご興味のある方、お暇な方はどうぞ。まだ、未確定な部分もありますし、何分、素人なものですから、その点はご了承ください。それでは。
~登場人物たち:(予定)~
歩:40歳、地方で暮らすサラリーマン。独身。実家暮らし。二つ離れた妹(千絵)がいる。ある事を実行するのだが…。
初老の男:70代半ば位に見える。散歩中にすれ違う。
主婦(文子):50代後半、散歩中にすれ違う。
高校生(太一)と犬(ムク):17歳、散歩中にすれ違う。川べりの階段で座って、川を眺めている。
東南アジア系の外国人達:20代前半、4~5人。散歩中にすれ違う。水産関係の出稼ぎ労働者。2〜3台位の自転車に2人乗りしながら、楽しそうに、退社していく。その中で、浮かない顔の人物(グエン)が一人。
お婆さん(とみ):90歳後半。土手の側に住んでおり、息子夫婦と暮らしている。夫とは3年前に死別。在宅療養中。常時、鼻に酸素吸入用のチューブをつけている。外出できる状態ではなく、死が目前に迫っている。夕刻に身体を起こして、窓辺から外の景色や歩いている人を見るのを楽しみにしている。
川:地方を流れる1級河川の下流領域で、海が近い。川幅が広く、途中に支流の合流部と、前方には、この川が、海へ注いでいるのが見える。
〜(連載:第1話)小さな世界の片隅で。〜
歩は近所の河原の土手を歩いている。歩の休日の楽しみの一つだ。10月の空は、天高く、夏の名残りを残した少し寂しい風が、歩の頬をかすめ、髪を揺らした。その時、ふと、違和感を覚えた。
“あれ?何で僕はここを歩いているんだっけ?”
記憶を辿ると、ある一場面が思い出された。それは、ほんの数秒前の事だ。
土砂降りの雨の中、歩は、車を走らせていた。地元で有名な片側が海に面した峠の道だ。幾つものカーブを切った後、車が十分加速できる直線コースに入った瞬間、覚悟を決めた。
”これで良いんだ…。全てが終わる。”
”保険金で、せめて幸せになってくれよ…。”
歩は、前方のガードレールに向かって思いっきりアクセルペダルを踏み込んだ。
自然と、目から涙が溢れていた。血の気が引いた冷たい頬に、溢れた涙が、妙に暖かかった。
”父さん、母さん、ごめんね。今まで苦労、心配ばかりかけて。人生の殆どを家族の為に費やして、僕から返せるものは何もなかった。本当は別の人生だってあっただろうに。何もかも、僕が奪ってしまった。それでも最後まで親で居てくれたね。ありがとう。”
“千絵も。兄妹だから、弱い所が人一倍分かるから。本当は俺だって同じだったんだよ。強く生きて欲しかったから、辛く当たった時もあった。ごめんな。社会に負けるなよ。人から好かれる人間になれよ。いままでありがとう…。”
車は急加速し、シートに体が押し付けられる。前方のガードレールが一瞬で目前に来た。歩は無意識に目を瞑った。そのまま車体は、ガードレールを突き破り、放物線を描きながら、眼下の海へ落下した。
ガードレールを突き破った時のグシャっという、何かがひしゃげる音と、焦げた匂い。体ごと宙に放り出される感覚と、ほんのわずかな解放感が、歩の体に残っている。
その先の記憶は無い。
僕は死んだのか?
ここは、現実か?それともさっきのが夢だったのか?
区別がつかない。
ともあれ、ここは、いつもの土手の散歩コースだ。
時間もいつもの夕暮れ前の時間のようだ。
妙な身体の感覚だけが残っている。
”何か、おかしいなぁ…。”
身体に残る少しの痛み、宙に浮いた様なふわふわした感じを感じつつ、
とりあえず、いつも通り歩いてみる事にした。
抜けるような空の解放感、土手の木立の間を葉を揺らし、通り抜ける風、川のせせらぎの音、虫の声、風が運んでくる、海に近い河川特有の、川底についた苔の匂いと、海からの磯の香りが混じりあった特有のこの匂い、土や草の匂い、ここで育った歩には、すべてが、愛おしく、懐かしいものだった。
いつもと変わらぬ風景。この道を海に向かって歩いていくのだ。
少し歩くと、前方から毎回見かける、50代半ば位の主婦(文子)だろうか、土手沿いのトイレ前の所ですれ違った。いつもの様に軽く会釈をする。
しばらく行くと、(出稼ぎにきてるのだろうか)東南アジア系の4〜5人位の若者の集団が、2〜3台の自転車に2人乗りをしながら、楽しそうに走っていく集団とすれ違った。その中に1人、下を向いて、浮かない顔をした男性(グエン)が一人いた。
そのさらに先、土手から川へ降りる際の階段がある。その中腹に、高校生位だろうか?男の子(太一)が1人、犬(ムク)と一緒に座っているのを、最近見かけるようになった。今日もいる。
その先の、海への河口付近には、歩行者、軽車両(自転車)用の橋が架かっている。ここから、反対側の土手にわたる事ができる。
この橋の上から、川が、広い海へ、とうとうと、注いでいるのが見える。
夕刻~月が見える時間帯になると、潮が満ちるのであろうか、海から川へ、水が逆流している様を見た事もある。
その橋を渡り、反対側の土手に回り、逆方向に歩いて、家へ帰るのが、歩の散歩のコースだ。
※ここで、もう一人。主婦とすれ違った土手のトイレの近くに、1軒の家がある。ここに、お婆さん(とみ)が、息子夫婦と暮らしている。夫は、3年前に他界している。加齢による体力低下に加え、心臓、肺に持病があり、常時、カヌラと呼ばれる、酸素吸入用のチューブを鼻に着けている。息子夫婦は共働きで、日中は、1人で生活している。
夕刻に体を起こし、窓からこの土手を見るのを、楽しみにしている。窓の外には、土手の景色と、海方向に向かって歩く、中年の男(歩)と、反対から来る中年の主婦(文子)が、軽く会釈をしてすれ違う様子、少し間をおいて、自転車に乗った賑やかな外国人の集団が通り過ぎ、最後の日が暮れる寸前に、犬を連れた少年が土手を歩いていくのが見える。
そうして、日が暮れると、嫁、息子が順に帰ってくるのである。
話を戻す。
いつもと変わらぬ日常。同じ時間帯に散歩をすると、同じ人を同じ所で、見かけるのである。どの人とも、話をしたことはないが、
トイレ前で、すれ違う主婦には、一度、声をかけた事がある。ある時、主婦が落とし物をしたのだ。それは、使い古され、少し薄汚れたハンカチの様に見えた。
”あ、あの、これ、落としましたよ。”と、歩が声をかけると、
”あ、すみません…、ありがとうございます…。”と、両手で大事そうにハンカチ?を受け取り、ポケットの中に入れていた。
それ以来、すれ違うたび、お互い、軽く会釈をするようになったのである。
身体に違和感を感じる以外は、いつも通りの日常であった。景色も同じ、見かける人も、すれ違う人も同じ。
ただ一つ、違う事があった。
橋の上に、普段見かけない人がいた。
初老の男性が、橋の欄干に軽く手をかけ、やや前のめりの状態で、川の上流の方を見ながら静かに佇んでいたのである。見た事はないが、昔から知っている様な、不思議な感じのする人であった。その初老の男性がこちらに視線を向け、ふっと歩いてきたのである。
一瞬で、普通の人ではないと分かった。
見かけや、言葉や、特徴等ではない。
言語化できるものではない。
感覚である。
五感を含めた、または、それを超えた感覚まで刺激された様な気がした。そんな感覚を今まで感じた事がないのである。
それでいて、恐怖は全く感じさせないのだ。そして、一言も発していないのに、異常な親近感がある。
その初老の男が、歩と対面し、静かに口を開いた。
“こんにちは。歩君じゃね?わしが誰かわかるかね?”
”君が生まれる前から君の事を知っているし、君の両親、そのまた両親の事もずっと見てきておるよ。”
”分かります…。いや、分からないけど、…分かります。”
”じゃ、紹介はいらないね。説明もしないよ。”
”はい…。”
少し間があった。しかし、歩は、分かった上で、はっきりと自分の耳で聞きたかった。
”あの…。”
”なんじゃ。”
”僕は、死んだんでしょうか?”
”…。”
”そしてあなたは…?”
”…。”
(次号に続く。)
※本日もお疲れ様でした。社会の片隅から、徒歩より。
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