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欲深いvs欲深い。両者の衝突を避けるには―『呻吟語』の「争わない生き方」

二人の人間が交われば、必ず争いが起こる。

「争わない生き方」をテーマにしたオンラインセミナーを11月8日に開催します。その講師を務めることになりました。
無料で、入退出の制限もありません。関心を抱かれましたら、どうぞご参加ください。

先人の知恵から、心豊かに生きるヒントをいかに学ぶか。
「争わない生き方」のテーマに沿って、セミナーのコンテンツに関することを書いています。
取り上げる中国古典は、『呻吟語(しんぎんご)』、『菜根譚(さいこんたん)』、そして『論語(ろんご)』、『老子(ろうし)』です。

これまでに『菜根譚』では、「譲る」ことが、争いを避けるだけでなく、最終的に自分の利益になる、ということをみてきました。
『呻吟語』では、「譲る」ことによって、容易ならざる対立関係も解決に導くことができる、と説いています。前回の続きです。

争いがなぜ起こるのか。
そのことを、著者の呂新吾はロジカルに分析し、解決法を提示しています。

二つの物がぶつかれば、必ず音をたてる。
二人の人間が交われば、必ず争いが起こる。
音をたてるのは、両方とも固いからである。
両方とも柔らかいなら、音はたたない。
一方が固くても一方が柔らかいなら、やはり音はたたない。

まずは、衝突が起こる現象について、原理原則から説き起こしたあと、本論へと入っていきます。

欲深同士でも、一方が譲れば争いは起こらない

争いが起こるのは、双方とも欲の皮が突っばっているからである。
双方とも譲るなら、争いは起こらない。
一方が欲深でも、一方が譲るなら、これまた争いは起こらない。
それよりもさらに望ましいのは、柔らかいほうが固いほうを軟化させ、譲ったほうが欲深い相手を感化させることだ。

呂新吾が考察の深さに敬服します。
まるで、問題解決のケーススタディの講義を聴いているようです。

 世界的にさまざまな争いが頻発する現実において、呂新吾のアドバイスを実践に役立てたることができたらいいのに、と切に思います。

 ともあれ、世の中のことをあれこれ言う前に、まずは自分が争いごとを避ける知恵と術を磨かないといけませんが。

 こちらにはその覚えがなくても、相手が一方的に怨みに思っていて、それをはらそうとして、いきなり後ろから切り捨て御免でやってくる。そんな、想定外の事態になったときは、「譲る」という対処法は通用しないでしょう。悩ましいです。

最後に読み下し文です。

両物(りょうぶつ)交(まじ)われば、必(かなら)ず声(こえ)あり、
両人(りょうにん)交(まじ)われば、必(かなら)ず争(あらそ)いあり。
声(こえ)あるは両(ふた)つながら剛(ごう)なるが故(ゆえ)なり。
両(ふた)つながら柔(じゅう)なれば、則(すなわ)ち声(こえ)なし。
一(いち)は柔(じゅう)に、一(いち)は剛(ごう)なるも、また声(こえ)なし。
争(あらそ)いあるは、両(ふた)つながら貪(たん)なるが故(ゆえ)なり。
両(ふた)つながら譲(ゆず)れば、則(すなわ)ち争(あらそ)いなし。
一(いち)は貪(むさぼ)り、一(いち)は譲(ゆず)るもまた争(あらそ)いなし。
抑(そも)そもこれより進(すす)むあり。
一柔(いちじゅう)なれば、以(も)って剛(ごう)を馴(な)らすべし。
一譲(いちじょう)なれば、以(も)って貪(たん)を化(か)すべし。

『呻吟語』呂新吾著 守屋洋編・訳

一歩下がる心構えがあれば、禍を免れる

 一歩退くことが禍を逃れることになる、と呂新吾が述べていることがあります。ただし、一歩退くといっても、ここでの意味は欲望を抑える、欲を掻いてはいけない、ということ。そうすることで禍を免れることができる、という戒めです。

富貴は家を滅ぼす元、オ能は身を滅ぼす元である。
また、名声は非難を招く元、歓楽は悲しみを招く元である。
順境に対処するのがむずかしいと言われるのは、そういう理由にほかならない。
ただし、いつも恐れの気持をいだき、一歩後にさがる心構えで生きるならば、禍を免れることができるであろう。

読み下し文です。 

富貴(ふうき)は、家(いえ)の災(わざわい)なり。
才能(さいのう)は、身(み)の殃(わざわい)なり。
声名(せいめい)は、謗(そし)りの媒(なかだち)なり。
歓楽(かんらく)は、悲(かな)しみの藉(しきもの)なり。
故(ゆえ)にただ順境(じゅんきょう)に処(しょ)するを難(かた)しとなす。
ただこれ常(つね)に懼(く)心(しん)あり。
一歩(いっぽ)を退(しりぞ)き做(な)せば、則(すなわ)ち禍(わざわい)を免(まぬが)る。

『呻吟語』呂新吾著 守屋洋編・訳

引き続き、『呻吟語』呂新吾の「争わない生き方」をみていきます。


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