
132.【読書と私】㊱山口恵以子『いつでも母と 自宅でママを看取るまで』:出会ってよかった元気になる本
年始の図書館にあった「お楽しみ袋」にあった一冊。袋には、“人生の終い方を考える”と可愛い達磨落としのメモが留められていた。
読んでみたらとても面白く是非紹介したい。
ほんわかした絵のついた表紙。多分、こうした企画がないと手にとっていない本だったと思う。このイラストのままに、母との関係を「共依存」「癒着」と自称する著者の母の介護の様子や思い出が、家族ゆえの率直なやりとりや愛情とともに、温かくつたわってくる本。「女性セブン」に連載されたエッセイに加筆修正されたもの。
山口恵以子さんは『月下上海』で松本清張賞を受賞、「食堂のおばちゃんが小説家に」ということで、取材を受けたり、テレビ出演もされていたよう。本著の中でも、食堂勤めで救われたエピソードや、作家単独で成り立つようになって良かったことなど触れられている。楽しく読み進められる筆力は解説の桜木紫乃さん(!)も触れるところ
オトナ女史のつながりを感じる。
作家が書く家族の記録であるから、面白くないわけがない。一切の脚色なしでも、エーコさんが書けば面白くなってしまう。…
旅だった母親を偲んでいるはずなのに、なんでこんなに可笑しいのかと思ったが、おそらくこの作家は湿っぽいことも嘘も見栄も好まないのだ。
お母さんの娘を思う人柄、そして恵以子さんが、母の気持ちを尊重して臨む判断。人柄が引き寄せたのか必要な情報を伝えてくれる人が現れる。それは、現状に精一杯に適応していたから、情報を自ら求めることがなかったというのもあるかもしれないが、縁の大切さを感じた。知識があったらと後で述べられている部分もある。だからか、情報をあれこれ落としている部分が多く、実際に参考になる一冊で、この本を期に、考えないとならないことが出てきた。
**
ここからは私の話。年末年始の体調不良から復活した残り少ない正月休みの中で、何年振りかの家計簿をまとめてみた。キャッシュレス払いがすすんだので、随分と楽に一年間の動向をまとめられたし、この先のことも計画立てたつもりだったが、この本を読む中で、考えていなかった見落としてた気づきがあった。実際的なことは大事。
先に読んだ『エンド・オブ・ライフ』が、どこか観念的で、普遍的なものを探る旅のような本だったのに対して(自称INFJとしては好きです)、『いつでも母と』は個別的で、実際的で、力強さを感じる本。
一つ一つの事柄を“トピックス”として取り上げて行くと、いかにも大変な日々を送っていたような印象を持たれるかもしれません。でも“トピックス”と“トピックス”の間には“何でもない日”というものがあり、それこそが私と母の生活の基調でした。
その姿勢はこの文に象徴されているように思う。その延長が、在宅で看取りの瞬間を迎えることにつながっているような。
お母さんの明るさは本当に救いで
「ママはエコちゃんと仲良くてホントに良かった。仲悪かったら面倒見るのイヤだもんね」「優等生だった人はボケると大変よね。ママなんか昔から抜けてるから、全然平気」
とあっけらかんとした様子に、恵以子さんがお母さんが好きで寄り添いたい気持ちも、然りと思えた。
この本の中で紹介されていた
『なんとめでたいご臨終』小笠原文雄
も気になる本です。
家族が身体的な介護を出来なくても、一人暮らしでも、様々な介護サービスを利用すれば最後まで自宅で過ごせる。ことについて触れられているようです。
子育てもそうですが、周囲を見てこうやって子どもって育つんだと知る経験が少ないまま、子育てにのぞんだり、介護のことも周囲で見聞きする機会が少なかったりもします。こうして読書で知れるというのも大事なことで、特に感情的な部分は、ガイド的な本では得られないところで、こうした体験に基づいた本を読んでいきたいと思いました。
また、山口恵以子さん「恵以子」ってなかなか見ない名前だなと思ったところ本名で、ウィキペディアによると易者がつけたそうで、「1人でも強く生きていける」という意味が込められているそう。その強さは、著書の節々から感じられ、岸田奈美さんのような面白さも感じられる。(唯一無二の方達に「ような」という表現も…と思うがどこか汲み取りやすいかなと思い敢えて書きます)また、人の縁(作家の畠山健二さん)から地方の書店回りを行い一年で北海道から九州まで回ったそう。恵以子さんの他の著書『食堂のおばちゃん』『婚活食堂』『ゆうれい居酒屋』のシリーズなど、きっと読んで楽しくて元気が出そうに思います。