106.【読書と私】㉖私たちの世代は /瀬尾まいこ:いわた書店選書から(1)
前情報なく読み始めたから、読んですぐ思った。あぁ、これはコロナ禍の振り返りと。そう言えば読んではいないが『ツミデミック』って、パンデミックの中で起こりうることを書いた小説も出ていた。こうしてまとめられるだけ、コロナの流行がはじまってから月日が経ったことを改めて思った。
当時、この世代に入る子どもを抱えて過ごしていたから、多少年齢の違いはあっても、思い当たるエピソードが続き、それを留めてくれる小説が有難い。小説は二人の女の子を軸としたストーリーが交差していく。表紙がとても素敵だなと思っていた。話によく合っている。最初の方でやや混乱しかけるところもあったが、章ごとについていた🍎🌷💼のマークがやさしいガイドだったと気づくと以降はスムーズに読んでいけた。
そして、コロナ禍の話ではあるけど、コロナだから起きてしまったこと、その状況でできたつながり、コロナ関係なくある社会的な問題が含まれている。やさしい語り、文書の中にさまざまな問題を包括して進んでいく話に、幾度となく涙があふれてきた。二人の女の子を軸としつつ、周辺の人のこともしっかり含めて書いてくれているのが嬉しい。
時系列を思うと、小説中の現在はこれから先の年になる。コロナ禍の時期を卒業の年、就職、進学近くで迎えた学年。新しい環境の始まりがそうだった学年。当たり外れなど考えることがあったかもしれない。思わぬ学生時代を過ごした世代が、社会をどう過ごしていくか、先日の選挙でも、教育に関して無償化などが政策に上がってもいたが、公的な支援と、身近な人たちの関係でできることの心強さについても思わされた。
コロナ世代という言われ方もあるけど、氷河期世代という世代もあった。筆者の瀬尾さんは氷河期にあたる。「私たちの世代は」は誰にでも該当することば。その言葉のもとに、諦めたくなったり、何かのせいにしたいこともあるかもしれないけど、その中で精一杯やれる道もあること、認め合える人、励ましあえる人、鼓舞してくれる人、助け合える人との出会いがあってほしい。
最近は、読書感想を交換するような気分で、ついつい他の人の感想を検索して見ている。この本については、登場人物の中で冴の母に好意的なものが多かった。本当に素敵な人物で私も好きな人物。それとともに、共感という面では、私は心晴の母のことが描かれてたところがよかった。親って子のことを思いながら失敗してしまうものだというのと、だから笑顔で自分の知らない世界に出ていることが嬉しいというところと。読む人によってよりスポットの当たる視点が変わる。いわた書店の選書で、よく出てくる一冊だと思うが、その選出理由はそれぞれだと思われ、そうできる本がまた素敵だと思った。
瀬尾まいこ(1974ー )
『私たちの世代は』2023.7